第6話 後輩はちょっとしたミステリアス

 店内には見知った感じの子がいた。

 それは後輩の桜田椿さくらだ/つばきだったのだ。


「……先輩? 久しぶりですね」

「そうだな。どうだった? 元気にしてた?」


 椿の方から話しかけてきたのだ。

 鈴木斗真すずき/とうまは彼女の近くまで歩み寄って行く。


「はい。私は普通な感じですけど。先輩はこの頃忙しい感じでしたよね? そう言えば、いつも先輩といる沙織さんとはどうしたんですか?」

「沙織とは色々あってさ」

「色々ですか。まあ、人生には色々ありますので、それ以上は聞かない事にしますね」


 後輩は読んでいた本を閉じると、席から立ち上がって、斗真の方をまじまじと見つめていたのだ。


「どうした?」

「先輩の後ろにいる人は?」

「この人は、今、付き合っている人で」

「……そうなんですか?」


 後輩は、神谷涼葉かみや/すずはの事をまじまじと見つめていた。


「そうだね」

「……」

「どうかした?」

「いいえ、なんでもないですけど」


 椿は少し何を考えているのかわからないところがある。

 彼女は普段から本を読むことが好きで、謎めいたところが多い子ではあるが、悪い子ではないのだ。


 ただ、あまり他人と心を開いて会話しない事から、そこまで沢山の友人がいるというわけではなかった。

 親しい人とは普通に話す子ではある。


「私、ここに居た方がいいですか?」

「え、どういうこと?」

「今付き合っている彼女がいるなら、私はどこかに行った方がいいのかと思いまして」

「別にいいよ。涼葉さんはどうする? 後輩が一緒でもいい?」


 斗真は振り返り、背後にいる彼女に問いかけてみた。


「私は大丈夫だけど」


 涼葉からは笑顔で返答が返ってくる。


「だからさ、そんなに気にしなくてもいいから」

「そうですか。なら、私もここに居ますね。それと、二人はお菓子とか、飲み物っていりますか? 私、買ってきますけど」

「それは俺が買ってくるよ」


 飲食スペースに向かって移動しようとした彼女を、斗真は引き止める。


「椿は、何がいい?」

「私はフライドポテトで」

「フライドポテトな。涼葉さんは?」

「私はコーラだけでいいよ」

「わかった。俺が買ってくるから、二人は待ってて」


 斗真は二人だけを残し、飲食スペースへ向かって行くのだった。




 斗真はたまに、この施設を利用している事もあり、注文の仕方も手慣れている。

 飲食スペースへ到着するなり、そこのカウンター内にいる女性店員に対して購入したいモノを口頭で伝えた。


「フライドポテトと、コーラ。それと、ミルクティーですね。お会計は九百円になりますが、会員証はお持ちですか?」

「これでお願いします」


 斗真は財布の中から、お店の会員証を提示した。

 入店時、プランを決める際に、その会員証を使って会計を済ませた事で、その会員証にどのプランが選択されたのかデータとして残っているのだ。


「千円プランですね。では、無料でよろしいので。出来上がるまで少々お待ちくださいね」


 女性店員から笑顔の接客を受け、斗真はカウンター近くで待っている事にした。




「ご注文のお品が出来上がりましたので、ごゆっくりどうぞ」


 五分後。

 女性店員から笑顔で、商品が乗ったトレーを受け取る。

 トレーの上には、揚げたてのフライドポテトや、コーラとミルクティーがあるのだ。

 それを持って、二人がいるエリアへ戻って行く。


 先ほど後輩とバッタリと遭遇したエリアからは、声が聞こえる。

 その場所まで到着すると、二人は普通に会話していたのだ。


 後輩はいつも通りに淡々とした口調ではあったが、涼葉から色々と質問されたりして、楽しそうにやり取りをしていた。




「意外と仲がいい感じなのかな?」


 斗真は二人が座っている場所まで向かう。


「そうね。この子と会話していると楽しくて。色々な事を知ってるみたいだし」


 後輩の隣の椅子に座っている涼葉は笑顔で返答する。


「まあ、椿はいつも本を読んでるからね。それなりに知識はあるはずだよ」


 斗真が、後輩に関する補足説明をしてあげたのだ。


「へえ、本が好きなんだね」

「はい。私は昔から一人でいる事が多かったので、気づいたら色々な本を読んでいて」


 基本的に無表情な椿は、少し頬を赤らめながら受け答えしていた。


「そうなんだ」


 涼葉と後輩の息はピッタリな感じだった。

 意外と仲良くできる関係で良かったと、斗真は思う。


 三人は近くの椅子に座って漫画を読んだり、先ほど購入したモノを飲食しながら、その時間を過ごしていた。

 気が付けば時間は大分過ぎており、一時間プランの終了が近づいてきていたのだ。


「どうする?」

「私はまだいますけど」

「どのプランにしたの?」

「私は二時間プランにしましたけど」

「そうか。まだ余裕あるんだな」

「はい。後、今日は奢って貰ってありがとうございます」

「別にいいよ。久しぶりに会ったんだし」

「では、今後は私が何か奢ります」

「じゃあ、その時になったらね」

「はい」


 後輩は本を閉じて席に座ったまま、斗真に対して軽く会釈をしていた。




「なんか、普通にいい子だったね」

「そうだろ。あの後輩とは中学からの付き合いでさ」

「そうなんだね。最初は話しづらそうな感じだったけど、実際に話してみると楽しかったし」

「じゃあ、良かったね」


 二人がすぐに打ち解けてくれて、斗真的にも嬉しかった。


 斗真は、涼葉と一緒に借りた本を元あった本棚に戻すと、入店時に訪れた会計カウンターへ移動し、そこで退出する為の手続きを行う。

 帰る際は、三〇秒ほどで終わった。


「ありがとうございました」


 店から退出する時に、背後から店員の声が聞こえてくる。


 二人は街中へ戻る事にした。

 数分ほどで、街中のアーケード街の出入り口へと到着するのだ。


「私、ここで。また、明日ね」


 涼葉は街中で買い物していくらしく、斗真は彼女と、その場所で別れる事となったのだ。




 斗真は街中から離れ、一人で帰路につき、住宅街を歩いている最中だった。


「お兄ちゃん!」


 背後から声をかけられる。

 ショートヘアが良く似合う、斗真の妹――鈴木恵美すずき/えみだった。


「お兄ちゃんも今から帰りなの?」

「そうだよ。恵美も?」

「うん。そう言えば、沙織さおりさんとは上手くいってる感じ?」


 妹から不意を突かれた感じに言われ、斗真はドキッとしてしまうのだった。

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