第3話 私…もう付き合っている人がいるから
翌日。
普段通りに学校へ向かい、校門、昇降口と通過して教室へと辿り着く。
教室内はいつも通りに騒がしかった。
斗真は席に座るなり、通学用のリュックを机の隣にかける。
今のところ教室には沙織の姿はない。
斗真はスマホを弄りながら一人で過ごす事にした。
窓から見える景色へと視線を向けると、校門から校舎へ向かって歩いている幼馴染――
見たところ、いつも通りといった感じ。話しかけても問題なさそうな雰囲気があったのだ。
昨日、沙織とは色々とあった。が、後で幼馴染に話しかけようと思い、再びスマホへ視線を戻し、沙織が教室にやってくるまで時間を潰そうと思ったのである。
「ねえ、斗真」
突然、背後から声をかけられる。
席に座ったまま振り返ると、そこには
「今日はどんな感じ? 大丈夫そう?」
「まあ、一応ね。沙織の件に関してはまだ難しいかもしれないけど……多分、何とかなると思うけど」
涼葉は、斗真の事を心配して話しかけてきてくれたようだ。
「涼葉さんには色々と助けてもらったし。涼葉さんが、相談に残ってくれたお蔭で少し楽になったよ」
「そう? ならよかったね」
「そうだ。後で、どこかに遊びに行かない? 俺が奢るよ」
「いいの。じゃあ、奢ってもらおうかな。ん? 斗真、あの子が来たみたいだよ」
涼葉の視線は教室の出入り口へと向けられてあった。
教室の扉から入ってくる沙織。
彼女は、斗真と涼葉がいるところをチラッと見ていたのだ。
「私、席に戻るね。遊ぶ約束は後でもいい?」
「いいよ。また後でね」
涼葉はあっさりとした口調で軽く手を振って、教室の後ろにある自身の席へ向かって行ったのだ。
沙織は、斗真の斜め前の席である。
いつもなら彼女の方から話しかけてくれるのだが、特にそんな素振りもなく、後ろの席にいる斗真を気にせずに席へ座っていた。
本当に昨日から怒ったままなのかな。
というか、俺、やっぱり、変な事をしたって事なのか?
斗真は首を傾げていた。
斗真はスマホ画面を見ながら、チラチラと沙織の後ろ姿を見ている。
彼女の方からは振り返る事もなく、通学用のバッグの中身を見て、今日の授業スケジュールをスマホ画面で確認しながら整理整頓をしていたのだ。
もしかして、普段の積み重ねが原因なのか?
斗真は振り返ると、色々と思い当たる節がある。
けれども解決した事ばかり。
だが、どんなに親しい仲でも、普段の行いの積み重ねで関係性が崩れ去ってしまう事もあり得るのだ。
やっぱ、自分の方から話しかけに行った方がいいよな。
仮に原因を作ったのが自分自身であるならば、早めに解決した方がいいと思い、斗真はスマホを制服のポケットにしまうと席から立ち上がる。
斗真が背後から沙織に話しかけようとした時だった――
女性の担任教師が早歩きで教室に入ってきて、すぐに朝のHRが始まるのであった。
「ねえ、なに? 話って」
一時限目は移動教室だった。
斗真は教室を出た後、沙織と二人きりで話すタイミングがあったのだ。
斗真の方から一人で廊下を歩いている沙織に話しかけた事で、奇跡的に立ち止まってくれて、結果として二人は誰もいない廊下で話し始める事が出来ていた。
「昨日の話なんだけど」
「……斗真とはもう関わらないって話だったはずだけど。というか、もう話しかけてこないで。私にも色々あるし」
沙織は冷たい口調で突き放してくる。
「でも、急に冷たくなるなんて、どういう事なの?」
斗真は困った顔で、疑問に感じている事を問いかけてみた。
「……別になんだっていいでしょ。それに私、新しく付き合い始めた人もいるし」
「え? な、なんで⁉ 俺と昨日別れてもう付き合ったの?」
斗真は目を丸くする。
「そうよ。将来の事も一緒に考えてるの」
「そ、そうなんだ」
斗真にも付き合っている相手がいる。
沙織とは恋人として復縁するのが難しいと思い、昨日から涼葉と付き合い始めたのだが、沙織の方にも恋人がいるのならば、涼葉と付き合う決断をして正しかったのだと思う。
この様子だと、沙織と恋愛的な意味で復縁する事は難しい。
せめて、幼馴染としての関係性は取り戻したかったのだが、それも困難を極めそうだった。
「で、でも、俺とも将来の事を話しあったりしていたよね?」
「そうだけど。斗真って何も出来ないでしょ」
「何もって……そうだね。特に秀でたところがあるわけでもないけど」
「だからよ。どんなに親しくても、お金を稼ぐ力がないと将来一緒に過ごせないでしょ」
「確かに、そ、そうだね……」
斗真には、他人に評価されるほどの技術などないのだ。
沙織から直接、その事について指摘されるとは思わず、かなりショックだった。
今まで優しく接してくれたのは、昔からの間柄だったからという事なのだろう。
これから沙織は、将来の事を見据えて過ごす為。そして、新しく付き合い始めた人との交流を深める為に、斗真とは距離を置くつもりなのだと思う。
沙織の考えもわかる。
けれど、急に冷たい態度を見せなくてもと思う。
「もう、幼馴染としても無理だから……だから、もう関わってこないで。私の考えも変わらないし。そういう事だから」
素っ気ない態度で斗真に言葉を告げると、沙織は背を向けて、その場から立ち去って行く。
斗真は幼馴染の後ろ姿しか見守る事が出来なかったのだ。
はあぁ……やっぱり、ダメなのか。
斗真は屋上にいた。
午前の授業も終わり、今は昼休み時間。
ベンチに座り、購買部で購入してきたパンを食べていた。
隣には弁当箱を膝の上に置いている涼葉がいる。
「ね、斗真。これ食べる? ウインナー」
「いいの?」
「いいよ。私が作って来たの。パン一つだけだと足りないでしょ?」
「え、俺はパンだけでも大丈夫だけどね」
斗真が若干強かった返答をした直後、お腹の音が響く。
「ほら、パンだけだと足りないじゃない」
「そ、そうだね。じゃあ、遠慮なく食べるよ」
斗真は彼女からウインナーを食べさせてもらったのだ。
「他には卵焼きもあるの。これも食べて。結構な自信作なの」
「ありがと」
咀嚼し終えた斗真が口を開いた直後、屋上の扉が開く。
その扉からは沙織が入ってきた。
涼葉と隣同士でベンチに座っているところを、沙織からまじまじと見られる事となったのだ。
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