第2話 涼葉との一緒の時間

「鈴木君って、いつも放課後は何をしてるの?」

「幼馴染の沙織と遊んでいたりとか」

「幼馴染? 亜寿佐あずささんと幼馴染なんだね。だから、いつも関わっていたんだ」


 二人は今、街中におり、アーケード街近くの道を歩いている。


「でも、今日はなんで亜寿佐さんとは帰宅しなかったの?」

「それはさ、色々あって……別れることになって」

「別れる?」

「振られたって事だよ……」

「付き合ってたんだ」

「そうだね。一応ね」


 鈴木斗真すずき/とうまと沙織は幼馴染同士であり、恋人同士でもあった。

 他の人からしたら、付き合っているとは思われていなかったらしい。


「大変だね、鈴木さんも」

「まあ、ね……」


 あまり思い出したくない出来事である。


 斗真は少々俯きがちに頷く程度で、隣にいる神谷涼葉かみや/すずはに対しては、あっさりとした話し方で返答をしておいた。


 何がいけなかったのもわからない。


 何に対して沙織が不快に感じたのかもわからず、未だに、斗真のスマホには彼女からの返答はなかったのである。


「まあ、人生は色々とあるしね。そうだ、ここだよ。私が言ってた喫茶店」


 街中を歩いている途中に、涼葉が立ち寄りたかった喫茶店が見えてきて、彼女はその店屋の看板を指さしていたのだ。


 二人は店屋の扉を開け、夕暮れ時の今、入店する事にした。


 二人が入店すると、女性店員から席まで案内され、そこに向き合うように座る。


 店内はそこまで混んでいる様子はなく、至って普通。

 程よい感じのBGMが流れており、大人びた洒落た雰囲気が、この場を包み込んでいるようだった。


「鈴木君は、何にする?」


 正面の席に座っている彼女がテーブルにメニュー表を置いていた。


「どんなのがあるの?」

「こういうのとか」


 斗真がメニュー表を覗き込むと、彼女が商品名のところを指さしていたのだ。

 この喫茶店では、コーヒーやココア、ケーキやパフェなどを中心とした飲食が提供されているらしい。


「ここのコーヒーとか美味しいと思うし、飲めるなら注文してもいいかも。それと、レアチーズケーキも、おススメなんだよ」

「そうなんだ」


 メニュー表に掲載されているケーキの写真を見ても、普通に美味しそうに見える。

 レアチーズ以外にもピックアップされていたケーキがあったが、斗真は彼女から勧められたレアチーズケーキにする事にした。


「じゃあ、普通のコーヒーとレアチーズケーキで」

「わかったわ。その二つね」

「神谷さんは、決まってるの?」

「私は決まってるわ」


 涼葉は斗真の方を見つめた後で、席に座ったまま挙手し、スタッフを呼びだしていた。




「鈴木君。幼馴染の亜寿佐さんから振られて大変そうだけど。何か悩み事があるなら、私に相談してきてもいいからね」


 注文を終えた後、涼葉の方から話しかけてきたのだ。


「ありがと……悩みっていうか。沙織がどうして急に考えを変えたのかなって。それが気になってるんだ。同性なら何かわかる事ってないかな?」


 斗真は彼女から意見を聞いてみる事にした。


「んー、でも、どうなんだろうね? 私はそこまで亜寿佐さんと関わったことが無くて、よくわからないけど。まあ、何か気に障る事でもしたんじゃないの?」

「そうだね……俺も最初そう思ったんだ。でも、色々考えても思いつかなくて」

「そうなの? じゃあ、何だろうね」


 涼葉も首を傾げていた。


「他に思い当たる事ってない?」

「それがあまりなくて」

「変な事をしたとかは?」

「変なこと……いや、何もしてないと思うけど。昨日まで普通だったから。今日の朝くらいから様子がおかしかったんだよね」

「今日の朝から……だとしたら、私もわからないかも。ごめんね」


 なんの対策も思い浮かばないようで、申し訳なさそうな顔を浮かべ、涼葉は断念していた。


「でも、些細な事なら、早く解決した方がいいんじゃない?」

「そうだね」


 斗真は席に座ったまま、改めてスマホを確認してみる。

 がしかし、彼女からの返答はなかった。


 そんなに嫌な事をしてしまったのかな。


 斗真も対応策を見つけることが出来ず、頭を悩ませていたのだ。


 話の区切りがついたところで、女性店員が先ほど二人が注文した飲み物とケーキを持ってやって来た。


 テーブル上には、写真よりも綺麗なケーキが並べられる。

 レアチーズケーキの上からは、ブルーベリーソースがかけられていた。

 その隣にはコーヒーがあり、女性店員が立ち去った後、斗真は涼葉と一緒に、それを飲む。


 コーヒーは良い味わいになっており、薄すぎず濃すぎもしない丁度いい感じだった。


「やっぱり、ここのコーヒーは美味しいね。チーズケーキを食べてみなよ」


 涼葉から促され、斗真はフォークを使い、レアチーズケーキを食べてみる。

 口に運び、咀嚼した。


 口内に広がってくる、ブルーベリーソースとチーズの甘さが程よく心を満たしてくれる。


「どうだった?」

「普通に美味しかったよ。おススメしてくれてありがと」

「まあ、嫌な事も忘れられる味だったでしょ」

「そうだね。もしかして、俺が暗い顔をしてたから喫茶店に誘ったの?」

「まあ、それもあるね。ただ、私が喫茶店のケーキを食べたかっただけなんだけどね」


 涼葉はペロッと舌を出して、可愛らしい笑みを見せていた。


 そんな彼女の姿を見て、斗真は安心していたのだ。

 今日、彼女と付き合い、街中で遊ぶことが出来て良かったと思う。

 心の中でそう感じていた。


「それで、亜寿佐さんの件はどうする? でも、明日になったら、彼女も気分が変わっていると思うし。また、明日会話してみるとかは?」

「そ、そうだね。そうしてみるよ」


 幼馴染の沙織とは、明日、直接会話した方がいい。

 明日になれば、彼女の気分も変わっているだろうという想いを抱きながら、涼葉と喫茶店で過ごすのだった。




「今日はありがとね」

「別にいいわ。また、明日からもよろしくね」


 二人は喫茶店でのやり取りを終え、外にいる。

 街中を歩きながら、アーケード街の入り口付近で別れる事となったのだ。


「ちょっと待って」

「え?」

「鈴木君とは、まだ連絡先を交換していなかったよね?」

「そうだね」

「丁度いいし、ここで交換しよ。これから付き合って行くんだし」


 涼葉がスマホを通学用のバッグから出していた事で、斗真も制服のポケットからスマホを取り出す。


「鈴木斗真ね」


 涼葉の連絡交換用アプリに、斗真のアドレズが登録された事で、鈴木斗真という名前が画面上に表示されたようだ。


「じゃあ、普通に斗真って呼んでもいい? 斗真も私の事を呼び捨てでもいいし」

「じゃあ、神谷……涼葉さんの方がいいかな?」

「どっちでもいいよ。呼びやすい方でいいから」

「だったら……涼葉さんで」

「わかったわ、斗真。また明日ね」


 涼葉はスマホをバッグにしまった後、手を振ってその場から立ち去って行ったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る