第18話 恋のキューピット亜里沙の作戦
「義鷹様、我が主人扶久姫が寂しがっておられます。国元を離れて初めて心許せる殿方に出会えたと喜んでおりましたのに…。失礼ながら義鷹様におかれましては我が姫の事などはもうお忘れでおられましょうや?」と、亜里沙はド直球で聞いてみた。
義鷹みたいな体育会系?の男は直球に限ると亜里沙はふんでいた。
「まさか!あのように優しく美しい姫君を忘れようなどある筈もなかろう?」
義鷹は焦ったようにそう答えた。
それは亜里沙から見てなかなかに良い反応だった。
「それを聞いて安堵いたしました。扶久姫様は物憂げに、こんな和歌をしたためておりました。恥ずかしくて義鷹さまに渡す事など出来ないと申されておりましたが、寂しそうな姫様のご様子に耐えかねて私、姫に黙ってこっそり持ち出して参りました。義鷹様を想って詠まれた一首ですわ」
亜里沙は恭しくその手にした文を差し出した。
「えっ?そのような事をして良いのか?其方、あとから姫に叱られるのではないか?」
「あら、叱られるくらい何でもありませんわ!私にとっては姫様が寂しくされている事の方が一大事でございます故」と亜里沙はにっこりと微笑んだ。
「何と、
主人が素晴らしいと側仕えもこの様に尽くすものなのだな…と義鷹は感心した。
そして手渡された文を開くと中には美しい女文字でこんな内容が記されていた。
『わびぬれば 今はたおなじ 難波なる みをつくしても 逢はむとぞ思ふ』
(※訳:会えぬなら私はもう死んだも同じです。それならいっそ難波潟にある澪標(みおつくし)のように身を尽してもいいので、あなたにお会いしたいと思うのです)
それは切なくも美しい再会を願う片恋のような文だった。
***【解説】***
はいは~い!分かる方は分かりますね~?そうっ!百人一首の中の一首です。
元良親王っていう平安時代随一のプレイボーイが、当時の上皇お気に入りの后と人目を忍んで愛し合った事ばれてしまい会えなくなったことを嘆き悲しみ愛する人に送ったという一首なんですけどね~。
それは詩歌心なんぞない扶久子が、書ける訳もなく取りあえず百人一首にあった中のちょうど良さそうな一首を亜里沙が記憶の中から抜粋し、扶久子に書かせたものだった。
そう!『会えないのが死ぬほど寂しい~っ』てのが伝わりそうな一首を選んだという訳ですね~!
それを、亜里沙プロデュースによる『亜里沙劇場パート2』とでもいいましょうか?
『扶久子が義鷹に会えなくて寂しくて
************
「な!何と?この文を本当に、扶久子姫が?」
義鷹はあまりにも思いがけぬ姫からの自分への気持ちのこもった文に悶絶しそうになった。
「左様でございます(ウッソー)。姫の御手によって書かれましたものにございます(これはホント)。ただ、それは義鷹様がお見えにならぬ事を寂しく思い、心に浮かぶ思いを唯々綴っただけのもの。それを私が姫の御心を
「い、いや、そんな!其方は紛れもなく扶久子殿が側近の女房、疑う筈もないが…」
「では、どうかお時間の空いた時で宜しいのです。姫にお顔を見せに来ては頂けませぬか?そうだ!今日はこれから芙蓉の方様の所にお呼ばれしております。その時にでもお顔を出して頂ければ最近すっかり沈みこんだご様子の姫も元気が出ると思いますの」
「そ、そのような事が本当に?し、信じられない」
「何がでございます?」
「その…自分で言うのも憚られるが、わたしは醜い!体は大きく顔の彫りは深く、口さがない者達には”天狗の君”やらと囁かれているような男なのだ。そんな私をあのように美しい姫が会いたいと思って下さる等と…」
「まぁああ!そんな事でございましたか!」
「そんな事って?見た目は大事であろう?」
「我が姫には小さき頃から真心が見える御方でございますれば!そのような事は些細な事でございます!神社に母君様の平癒祈願に来られた若君のお優しさ、姫君を迷うことなく保護して下さった頼もしさ!姫君の願い通り私を探しあて巡り合わせて下さった手腕!その全てが姫のお心に響いたのでございますわ!」
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