第17話 義鷹の初恋
義鷹は恋い焦がれていた。
朱鷺羽神社での落雷の折に保護し連れ帰った姫の事を…。
こんな想いは初めての事だった。
美しく優しい姫。
見つめれば恥ずかしそうに頬を染め、見返す瞳。
これまで、どんな女性にも恐ろしいものでも見たかのように目を逸らされたりしてきた義鷹にとって、そんな姫の様子は口では語り尽くせぬ程に嬉しく心ときめく事だった。
しかもその姫と来たら天女か菩薩様の如き美しさなのである。
髪は肩にかかるほどの長さしかないもののその美しさが損なわれているような事は断じてない。
それどころか化粧などしなくとも雪のように白い肌に桜色の唇!すずやかな目元といい形の良いふっくらとした頬といい、欠点を見つけろと言う方が難しい位だ!
むしろ化粧が邪魔なのではないかと思われるほどの比類なき美しさなのだ!
そんな姫が眩しすぎて義鷹は怖気づいてしまい姫の所へ行けずにいた。
会いたくてたまらないのに、あの姫の優しさも笑顔も私の勝手な妄想だったらと怯えてしまっている。
それは先日、父の園近に言われた言葉のせいだった。
「義鷹よ、
(※園近としては、息子があらぬ夢を見て、結局姫に拒絶され傷つくのではと慮って出た台詞だったのだが、これは逆に激しく義鷹を落ち込ませたのだった)
義鷹は、はっとした。
そして思った。
そうだ、かの姫はそれはそれは優しい!
わたしのような醜くい男の視線すら優しく受け止めてくれる…。
だからといって自分に好意など寄せる筈もないのに、一体自分は何を浮かれていたのか?
姫の侍女、亜里沙殿を見つけ出した事にも姫は私に大層恩義に感じておられた。
だからこそ余計にわたしのような醜い男にも優しく微笑まれて…それだけにすぎない!
そうとも!己惚れてはいけない!
嫌われていないというだけの事!
自分が姫のような方に好かれたいだなどと夢にも思ってはならないのだ!
そう思うと、姫の元を訪ねる事も憚られた。
自分が訪ねる事で姫君が妙な気苦労(惚れられてたりしたらどうしようとかいう思い)をされるかもしれないと今更ながら思ったのである。
(※当の本人である扶久子は義鷹が来ない事を本当に寂しく悲しく思っていたのにである)
義鷹と扶久子の恋は始まる前に終わりを迎えようとしていた。
義鷹がそんな辛い気持ちを抱えながら、一人本宮の中庭で物憂げな溜め息をついていると、ふと背後に気配を感じ振り向いた。
するとそこには何と恋しい姫の側仕えの亜里沙が手に文を携えて立っていた。
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