第9話 激しい誤解 By扶久子

 あり得ないと思いつつもタイムスリップ?の可能性は否定できず、むしろどんどん確信する。

 えええ~?

 でもなぁ…いやいや…。


 だけどなんで自分だけ?

 亜里沙は一体どうなったのか?

 泡沫夢幻堂ほうまつむげんどうで十二単体験をし、同じ場所にいた筈なのに…。


 そもそもここは本当に平安時代なのか?むちゃくちゃ、それっぽいけど…。

「あ、あの今は西暦何年ですか?何時代?」と私は義鷹さまの母上様に聞いてみた。

 我ながら阿呆な質問である。


「は?せ…せい…?何ですか?時代って?今は弘仁こうにん五年(西暦八一四年)ですが…」


「え?こ…こうにん?」訳の分からない元号らしき答えに私は凹んだ。


 元号なんて聞いても何時代かなんて知らないし!覚えてないしっ!

 せいぜい、明治、大正、昭和、平成くらいだよ聞き覚えがあるのは!と思う。


 平安時代に憧れはあったものの、それはあくまでめくるめく平安絵巻の世界への憧れであり歴史にそれほどの興味があった訳ではない!

 歴史だけなら亜里沙の方がよほど詳しかった筈である。

 むしろタイムスリップしたのが自分ではなく亜里沙ならば今の自分のように運よく保護されなくても持てる知識と知恵、そして度胸で難なく乗りきれてしまいそうなのになと、そんな事を考えてしまう。


 そう、亜里沙なら…。

 ああ、亜里沙に会いたいなぁ。

 そんなことを思いつつ溜め息をひとつつく。

 そんな私に、その場にいらっしゃる女性陣(義鷹様の母君と女房達)が心配そうな目を向ける。


物憂ものうげですね…お国元から遠い都で一人、さぞご不安でしょうが姫君。姫君さえ宜しければ、ずっとずっと我が家にいてくださって構いませんのよ?私は本当に心からそう思ってますの」

 そう言いながら芙蓉のお方様が私の手をにぎってこられた。


「え?」


「どうぞ、私の事もと思って!何ならもう母とお呼びになって!」


「えっ?えええっ?」

 私は驚いた!うん!普通に驚くよね?

 何か親身になってくれすぎ?

 私は愛想笑いをしながらふと後ろに控える女房さんたちに目をやると何か微笑ましいものでも見るように生暖かい笑みを向けられた。


 ん?なんだこの生暖かい微笑みは?

 そして何故か義鷹様が困ったようにうっすらと頬を染めていらっしゃる?


「まぁまぁ、お方様、そのように詰め寄っては姫君が驚いてらっしゃいますわ」


「そうそう、とにかく、ここでのお暮しに慣れて頂いて…」


「どちらにしても姫君のお国元までは何か月もかかるとのこと…ましてや女子の身では帰るだけでも命がけ!余程頼りにになる供のものがおらねば…」


「むしろ無事にこの都まで無事にたどり着いた事が奇跡に等しいですわ!姫君、本当に運がよろしゅうございました」


 女房たちは何とか『良かった』という方向に話を落ち着かせたいようで…うん。

 それも優しさからの言葉だと感じたので素直に感謝の気持ちが湧いて出た。

 そうだよね…昔の車も電車もない時代だもんね?命がけだよね?

 昔の人は旅にでる時、二度と会えないかもと水杯みずさかずきっていうのを交わしてから旅に出るっていう話を聞いた事がある。

 祈願成就で神社仏閣への旅ですら命がけだったのだと今さらながら実感した。


 ほんとは新幹線で二時間ちょいぐらいで京都に来たんだけどと思うも言える筈も無く押し黙る私だった。

 そんな私に義鷹様が口を挟んだ。


「姫君!朱鷺羽ときのは神社で起きた落雷で供の者とはぐれたという事ですが供の者は何名いらっしゃったのですか?あと人相を…捜索の手がかりに致します故」


「えっ?ああ、そうですねっ。一緒に旅して来たのは(旅って言っても修学旅行だけど)亜里沙という名の私と同い年の女子です!亜里沙は私なんかと違ってもの凄い美少女で萌黄と薄萌黄色の組み合わせの着物をきていました。もう一人はええと立ち寄ったお店の女性で…」


「「「えっ?」」」

 と、一斉に皆が目を丸くした。


「姫君!供のものはまさか一人だけだったというのですか?」


「え?ええ…神社で落雷にあった時にはもう一人お店で知り合ったお姉さんがいましたが…」


「まさか讃岐さぬきから二人きりで来た訳ではありますまい?」


「え?ええ、そうですね。出発時は二百名くらいですよ?」と答えた。

 嘘は言っていない。

 今回の中学校の修学旅行の参加者、三年生の総勢が一クラス四十名×5クラスで大体そのくらいの筈だ。


「「「「なんと!」」」」


「それほどの供の者が居たとは、それで納得です。長旅でいらっしゃったにも関わらず、その整った身なりに染み一つない装い…旅の途中でも甲斐甲斐しくお世話する者が数多あまたいらっしゃったのですね?よほどの大家たいかの姫君様でいらっしゃるのでしょう」


「どこか浮世離れした世間知らずな感じも、さもありなん!二百名もの従者を連れての行幸が出来るようなご身分の姫君でしたのね!」と何やら女房たちの目がまるで尊い者を見るような目になった。


 あ、何か誤解されてる!しかも激しく!そう思った私は慌てて言いなおす!


「そ、そんな、私なんて偉くも何ともない只の小娘です。一緒にいたのも大事なで従者だなんてとんでもないです。でも神社で一緒にいたのは私と亜里沙だけです」


 そう言うと何故か皆はしんとした。

 あれ?何か間違った???と私は焦った。


 義鷹さまの母上様など何故か涙目で女房たちなど既に涙を流しまくっている。

 why?なんでだ?


「なんと心清らかな姫君でしょう。一緒に旅してきた者達は従者などではなく”友達”だなどと…」


「二百名もいた従者達とこの京にたどり着くまでにたった二人にまでなられて…」


「どれほど辛い旅路だったかはかり知れませんわ」よよよと泣き崩れる女房達。


 激しい誤解にどう返したものかと思ったが、ほかの同級生たちがこの時代?この世界?にきている可能性は多分”ゼロ”だろう。

 もしかして来ているとしたら、同じあの場所で落雷にあった亜里沙とメイクをしてくれたお姉さんぐらいだ。


 変に同級生たちを探されてもいる筈がないので、もうそこは誤解させておこうということにした私だ。ごめんね!優しい皆様…と心の中で謝る。

 そして不自然じゃない言い訳も思いつかぬまま適当に話をあわせた。(もう、本当にごめんなさい!と心の中であやまりつつ嘘八百を並べたてる)


「そ、そうなのです。長旅の途中、病に倒れたり賊に襲われたりで最後には親友の亜里沙だけになり…神社にたどり着いた時には神社へ案内してくれたお店のお姉さんと三人きりだったのです」


 そして、義鷹様は私から亜里沙やお姉さんの特徴、服装などを聞きとり、部下達にも報せ捜索の為の御触書も貼りだしてくださるとの事だった。

 この世界にもしも亜里沙も来ているのなら会いたい!


 勘違いにまみれて激しく誤解され困惑するが結果オーライだ!

 私はこの超絶イケメンな義鷹様に拾われた事を心から感謝した。

 それが例え同情だとしても…。

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