第3話 魔力

 強くなるため、一秒たりとも無駄にできない! とは言ったものの、この二週目の人生において無駄な時間がある。


 そう、学校の授業だ。


 小学校二年生の学習範囲は中身18歳の俺にとっては苦痛過ぎた。


 というわけで、この時間は全面的にトレーニングに充てたいと思う。


 無論、授業をサボるという訳ではない。あまり不真面目な生活をしていると、双葉に怒られてしまう。

 幸い、魔法使いの修行には座ったままできるトレーニングが存在するのだ。


 その名も魔流フロー


 魔法使いとして生まれた者には、『魔力細胞』と呼ばれる、魔力を生み出す特殊な細胞を持っている。魔力細胞は通常の細胞と同じく、エネルギーを消費して魔力を生み出す。


 だが魔力は体の中に一定以上ストックしておくことはできず、溢れた分は体外に排出されている。

 水分のような感じだと思ってくれていい。水分も、余分なものは汗や尿、呼吸を通じて体外に排出されている。


 だが魔力と水分の違いは、自分の意志でコントロールできるところにある。体内の水分を自分の意志で操ることはできないが、魔力は自分で操ることができるのだ。


 そしてその方法を俺は一週目の人生で既に習得済みだ。二週目に入ったことで肉体は巻戻ってしまったが、一週目で得た知識や体得した技術は引き継がれている。


 魔力の操作によって普段垂れ流しになっている魔力を体内に留め、循環させる技術。それが魔流フローなのだ。


 魔流フローのメリットはいくつかある。


 まずは筋力、持久力の向上。

 魔力を筋肉に循環させることで筋肉の動きが最適化され、疲れにくくなる。


 さらに新陳代謝の促進。

 全身の細胞が活性化し肌や体調が整う。


 続けて集中力と反応速度の向上。

 魔力が神経系に作用することで、思考のスピードが上がり、瞬間的な判断力が高まる。


 などなど上げれば切りがない。


 とはいえ、魔流フローを始めたからと言って、すぐにこれらの恩恵を受けられる訳じゃない。はじめは小さな効果だ。


 だが、魔流フローを続けることで体内の魔力細胞の数が増えていく。一度に生み出せる魔力の量も増えていくと言うことである。


 通常、魔法使いとしての訓練は10歳を越えてからがいいとされいている。理由は様々だが、シンプルに魔力の扱いが難しすぎて、低年齢だとうまくコントロールできないのが理由だ。


 現に一週目の俺も10歳の時に父親から魔流を教わったが、マスターするのに時間がかかってしまった。

 そもそも魔力のコントロール自体が難しい技術なのだ。魔法使いとして生まれても、この魔力コントロールすらできずに人生を終える魔法使いも大勢いる。


 かくいう俺の母さんもその一人だ。


 だからこそ、この年齢から魔流によって魔力細胞を増やせるのは大きなアドバンテージ。一日一日は小さな積み重ねでも、10歳、15歳まで続けていけば圧倒的な差となる。


「……すぅ」


 呼吸を整え、自分の中にある魔力細胞の動きを感じ取る。


 ぷつ……ぷつ……と、心臓の脈動と共に魔力が生み出され、体の中を巡り、そして全身の毛穴から溶け出すように外に放出されている。


 現状、垂れ流し状態だ。それを自らの意志で留める。そして、体内に循環させる。


 突如、違和感と拒絶感が体を襲う。当然だ。本来排出される余分な魔力と生み出され続ける新しい魔力が同時に体内を巡るのだ。


 体全体がビックリして、拒絶反応を起こしている。だがそれも最初の内だけだ。


 段々と体が慣れてきて、ぽかぽかと暖かく……いや、熱くなってくる。


 全身が活性化していくのがわかる。ゲームとかで全ステータスがアップしている状態があるが、こんな感じなのかもしれない。


 成功だ。一週目ではあんなに苦労した魔力コントロールからの魔流フローがこんなに簡単にできてしまった。あとはこれを続けるだけ。


 とにかく魔力細胞を増やし続ける!


「結城くん? 授業聞いてる?」

「は、はい!」


 おっと。魔流に集中し過ぎたせいか、先生睨まれてしまった。

 授業中はあの先生の目を誤魔化しつつ、全力で魔流を極めていく必要がある。

 なかなかスリリングで面白いじゃないか。


 授業時間45分×6時間。これから毎日、この時間を魔流の修行に充てさせてもらう。


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