おばちゃん、「禁セクハラ」の厳命に悶える!
柊 あると
第1話 ふっ! セクハラなんか、するかよ!
おばちゃん、故あって3か月ほどコンビニアルバイトをした。
おばちゃんの勤務時間は16:00~22:00まで。同じシフトに入るのは、17:00~21:00勤務の17歳高校2年生2人同時か、1人だった。
初日。おばちゃん、店長から17歳を紹介されるが、おばちゃんの脳みそは、今時の「ハイブリッド脳」ではないので、苗字を平仮名で言われても記憶できない。漢字で書かれたネームプレートを凝視し、漢字を脳みそに刻む。
「よっしゃ、覚えたで! よろしくお願いします」
17歳にぺこりと頭を下げるおばちゃん。
かぁ~! かぁ~! かぁ~!
しらけ鳥が飛んでいる。
「無反応かよ!」
まぁ、自分の三倍は生きてるおばちゃんに、かける言葉は脳内格納庫にないのだろう。おばちゃんもそのままスルー。
「17歳の男の子(あえて少年とは言わないおばちゃん)を見るって、何十年ぶりだ? ほぼ異世界人だぞ?」
おばちゃんは、正体不明の生き物をソロっと観察する。じっくり見ると、「セクハラだ!」とも言われかねないからな。
1人目の17歳、ガリガリに痩せてて、ちょっと猫背。そう、「柿の種」に猫面をつけたような子だ。しかもぱっつん前髪で眼を隠し、黒いマスクかけてるから、雰囲気だけでの判断だが、ちょっと気弱でナイーブな感じがする。
もう一人の17歳は、「チロルチョコ」にサイコロを乗せたようなガタイ。こ奴はちょっとワンパクそうな、「きかん坊」って雰囲気だ。って、お菓子で体型を表現していいんかい!
「パワハラじゃね?」
あばばばば! やばい、やばい!
おばちゃん、軽~く店長からレジのトレーニングを受けて、「後は、17歳たちに聞くように」と言われてお仕事開始。
おばちゃん、レジ打ちだけは直ぐにマスターするように言われたから、それに専念。おばちゃんは結構パソコン関係には精通してるので、レジ打ちはサクッとクリアー。
それに、わからないことを聞くと、17歳たち、意外と丁寧に教えてくれる。
question and answer のコミュニケーションは取れている。
「ふむふむ、この程度の関りでいいだろう」
テンプレ対応で、適度な距離感を維持し、17歳の世界に踏み込まないようにするおばちゃん。
勤め始めて3日目、店長が深刻なまなざしで、17歳2人とおばちゃんを呼び寄せた。
「他系列のコンビニなんですが、従業員同士の『セクハラ問題』が起きました。本人はちょっと肩を触ったくらいの気持ちだったようですが、触られたほうが『セクハラされた』と訴えたそうです。軽い気持ちでも、むやみに従業員同士、触らないように気を付けてください」
またしらけ鳥が、われらの頭上を飛び回っている。
「これ、おばちゃんと17歳に言う? 別次元に生息してるおばちゃんと17歳が、気軽にボディタッチするとでも思ってんの? 触る理由ないし。軽い気持ちも重い気持ちも、そもそも性的感情自体、おばちゃんと17歳の間では発生しないぞ? おばちゃんは自信を持っていう! 吾輩の辞書に『セクハラ』の文字はない!」
ナポレオンの名言を引用するのは、おばちゃんだからだ。
17歳を見ると、おばちゃんと同じ顔つきだ。
「そうだろう。そうだろう。17歳がおばちゃんに『むらむらぁ~~! セクハラ、タァーーーッチ!』なんてありえないぞ?」
おばちゃんはこうして、
「ふっ? セクハラなんか、するかよ!」
と、小馬鹿にして、17歳に触る気もなくアルバイトを始めたのだった。
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まさかこの後、「禁セクハラ」に、悶えることになるとも知らずに……。
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