033
セイクリッドデーモンを倒しながら進んで行くと、今度は地面に紫色の筒が並べられている層へとたどり着いた。
上部からは細い触手が何本も揺れていて、粘度のある液体が糸を引きながら触手から垂れていた。
ホーリークリーナーというこの魔物は移動はしないけど遠くからでも魔法で攻撃してきて、近付くと触手で捕まえて大量の触手を使って洗われるらしい。
洗われて吐き出された人は綺麗になっているのはもちろん、鎧や服などが全て真っ白に染められて出てくるそうだ。
落とすアイテムも特殊でクリーナーの触手と漂白剤を落とす。
触手は粘液には塗れておらず、簡単に曲がるものの触ると少し硬い感触がありブヨブヨとした凹凸で覆われている。
この触手でこすると皮紙の上の乾いたインクや、服のシミなんかが落ちるので重宝されている。
漂白剤は少量を水に溶かして服を漬けると真っ白に染められる。元の色を無視して完全に白くしてしまうので使い方が難しいけど神殿の人達は重宝している様だ。
便利アイテムなので買取額も高くないし、移動もしないので集めて倒す事も出来ない。
そのくせ、どうやら魔法の射程距離が僕達よりも広いらしくて守られながら魔法を撃ち返す必要があり、フラッシングコクーンの様に1人で倒すことも出来ない。
そして魔法耐性も高いんだろう。ダークエリア1回どころか2回やっても倒せないし、ダークランスで倒そうとしても20発は当てないと倒せない。
盾で防いで近付こうとしたテミルは粘液だらけになって帰って来たけど、触手を切り落とせる人ならもしかしたら近付いて倒せるのかも知れない。
刃物を持っているのがエジだけのうちのパーティには相性が悪すぎて、仮にお金が稼げるとしても狩りには来ないと思う。
ホーリークリーナーをちまちまと遠くから倒しながらさらに内側へ進むと、フードを被った神官服の骸骨が現れた。
デッドリッパーという名前のアンデッドにしか見えない魔物だけど、ミズナ曰く亜精霊の一種らしい。
戦うために近づいて行くと、デッドリッパーが大きな鎌を持ち上げてこちらに向かって横に一振りする。その瞬間前を歩いていたティローペがその場に崩れ落ちた。
「は?」
「今のが即死攻撃だね、この層にいる間に何度も死ぬのは可哀想だから担いで早くこの層を抜けようか」
ミズナに教えられてようやく何が起きたのか理解したけど、即死攻撃があんなに理不尽なものだとは思っていなかった。
猛毒の煙の様に避けたり吸わなければいいとか、何かしら対策が出来るものだと思っていたけど。あれでは避けようがない。
テミルと僕で倒している間にアイテムボックスに入っていた荷物を拾い。エジにティローペを背負ってもらって先へと進む。
「即死は成功率がかなり低いはずなんだが一発目から引き当てるとはさすがティローペだな。キケケ」
ログナスが契約者の死を楽しそうに笑っているけど、確かにティローペは割と運が悪いんだよね。
問題がある程ではなく、どちらかというと不運に見舞われた後に幸運が訪れるのでマイナスではないし、結果的には良い方向へ向かうんだけどなぜか不運な印象が残ってしまう。
武器の強化の時もそうだった。結果的には9回中3回成功して結果は良かったんだけど、最初に5連続で失敗したせいで運が悪い印象が残るんだよね。
後から成功したのは僕とエジの分だったしティローペは運が悪かったけどパーティとしてはプラスだった。
空中を滑るように移動してくるデッドリッパーの鎌はなかなか防ぎ難そうだ。
横から来る柄を止めても、刃は後ろにあるから引き戻される時に気を付けないと首や背中を切られる。
本来は対応しないといけない魔法も、足元や頭上など死角になりそうな所から撃たれるので、耐性がなかったらかなり面倒な相手だったと思う。
落とすアイテムは銀と上肥料。肥料は水に溶かして地面に撒くと作物がよく育つらしい。
なんで鎌を持った神官の骸骨がそんな物を落とすのかは分からないけど、麦なら1つで畑10枚分の収穫量が倍になり味も良くなるそうで、王都の方の金持ち農家によく売れるらしい。
レアドロップの割に買取額は高く無いけど、銀をよく落とすので金銭効率は悪くない気がする。
次の魔物がいる層との境目でティローペを復活させて荷物を返す。
「よく覚えていませんが面倒をかけたようですみません⋯」
「いや、あれは仕方ねぇよ避けるとかそういうんじゃなかったしな」
「ああ、後ろから見てても本当に何が起こったのか分からなかったし」
「街に戻ったら即死耐性のカードを買いましょう。幸いにも安いのですぐに買えますし、ミスリル装備に挿しても痛くありません」
皆でティローペを慰め、長めに休憩を取る。
即死の状態異常がある事は知っていたけどまさか離れて立っていただけで死ぬとは思わなかった。考えてみればバジリスクという魔物の石化の魔眼も見るだけで石化するのだから普通にありえる事だった。
自分達に状態異常が効かないので認識が薄かったのだと思う。事前に即死攻撃をしてくるのは知っていたのだから対策をしてくるべきだったよね。
「即死攻撃って何をされたんですか?鎌をゆっくり振った所までは覚えているんですが…」
「いや、本当に振っただけだよ。振り終わったらティローペが倒れたんだ」
「即死攻撃ってもっとこう、強そうな感じかと思っていました。伸びてきた影に飲み込まれたり、黒い斬撃が飛んできたりとか明らかに触れたらダメ!って感じかと…」
「僕もそんな感じのを考えていたけど、まさか抵抗も苦しいみもせずに一瞬で殺されるとは思っていなかったよ」
前にリザレクションがあるから即死耐性はいらないんじゃないかと考えたことがあるけど、あれはダメだね。あんなの何回殺されるか分かったもんじゃない。
死ぬたびにアイテムボックスの中身を拾うことになるし、耐性の重要さをようやく実感したよ。
ティローペに今日は帰って休むかと聞いたけど、死んだ実感が無さ過ぎてなんともないから先へ進もうと言われたので先へ進むことにした。
この先の魔物の様子もそうだけど、ティローペの様子も見つつ今日は早めに帰る事にしよう。
死にかける様な目に遭うと戦士の病なんて呼ばれている病気にかかることがあるけど。
治し方は出来るだけ早いうちに恐怖を克服させるしかなくて、数日経つとユニコーンの角でも治らない病気になってしまうらしい。
今の様子を見るに大丈夫そうだし、本人も大丈夫だと言っているのだから先に進んだ方が良いのかも知れない。
さすがにもう一度即死攻撃を受けてもらうつもりは無いけど、後日対策が出来てから来た時にはすでに遅かったりするかも知れないしね。
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