38番世界より
@natsunosakana
改変された世界 【P】
先に断っておきますがこの話には地震(ではないとしてもそれに近い)の描写が出てきます。被害(の描写も)は無いとは言えトラウマ等がある方はご注意ください。
今日でちょうど一年となりますのでこの場で、亡くなられた方へご冥福をお祈りします。
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皇紀2599年12月31日 昭和14年 11時55分 大日本帝国・帝都 東京
人々は口から白い息を吐き、体を少し竦ませながらその時を今か今かと待ちわびる。
隣の家や近所の住民と体を寄せ合い寒さから逃れようとしながら雑談に花を咲かせる。除夜の鐘が空気を震わせ、満点の星々が空を彩る。居並ぶ家々の玄関先には旭日旗が垂れさがり、戦時中の物資不足により例年に比べれば少しばかりさみしいものの飾りつけもされ、新年を迎え入れる準備は整っている。
家の中の時計を確認しながらなのか誰かが大声で叫び始める
「10!9!」
外に集まった人々もそれに加わり、除夜の鐘の音をも打ち消さんばかりに大声が大通りに響く
「8!7!6!」
唐突に辺りに飼い犬や野犬のどこか緊張したような、警戒、あるいは恐怖をはらんだような鳴き声が木霊し始める。一部には唐突に鳴き出し始めた犬たちに訝しげな視線を向ける者もいたがほとんどの人は浮かれていて気付いていない。
「5!4!」
ますます上がる民衆の声。それに呼応するかのような激しさを増す犬たちの必死な鳴き声。あちこちを落ち着かなげに彷徨い、中には主人と思しき人の着物の袖を引っ張ってどこかに連れて行こうとする犬もいる始末だ。集まった民衆の中の極一部の人はレールの上を走る汽車がブレーキを掛ける音のような金属のこすれる甲高い音が響いたように感じた。ここにきて大半の人は異様な空気が漂っていることに気が付くがカウントダウンは止まらない。
「3!2!1!」
犬の狂ったような鳴き声が辺りに響き、かすかに聞こえる除夜の鐘の音。満点の星々が一瞬歪み、ちらつく。そして向き合った人々の口から「あ」の音が漏れ出る間すら待たずに人々を唐突に巨大な揺れが襲う。
立っていられないような激しい振動とともに地面が軋む様な不快な音が鳴り響く。辺りは人々の悲鳴で満ちる。
揺れは酷く長く続き、悲鳴も出せなくなるほどに息を振り絞ってもまだ揺れているこの状況に違和感を覚えふと辺りを見回してみる。
揺れに耐えきれずに膝をついた人は数多くいれど、不思議とけがを負って倒れこむ人や倒壊した建物の下敷きになって倒れ伏している人は一人もいない。そればかりか今にも倒れそうに揺れている家々の中で倒壊している建物がないどころか、瓦の一枚すら落ちていないことに困惑する。しかし眩暈によって自分一人が倒れ伏したわけでないことは、道端で膝をついて揺れが収まるのを待ちながらも困惑したように辺りを見回す数多の人々の姿がそれを教えてくれた。
この奇妙な揺れは丁度1分続き、始まった時と同じように唐突に収まっていった。
人々はこの奇妙な揺れについて議論し合うと同時に被害が無かったことを安堵し合うざわめきの中で一人が声を張り上げる。
「此処に何か知らんが大穴があいてるぞ!」
今しがた体験したばかりの不思議な事件でどこか浮ついていた人々は我先にとその声の下へと向かってゆく。声の主はとある一軒家の庭に立っており、その足元の直ぐ側には直径5メートルはあろうかという巨大な穴がポッカリと空いていた。その周囲には数匹の犬が穴を睨み、唸って威嚇していた。それでも人々は特に疑問に思うこともなくその穴へと近づいていった。
その時「ちょっと待った!その穴ボコがさっきの妙な揺れで出来たってんならこれから更に穴が広がったりとか崩れたりするんでねぇか?」と後ろから大声を張り上げたものが居たので人々は、はっとしたように我に返ると急いでその穴から人々は距離を取った。
しばらくその穴を人々が様子見していると大通りから2、3本行ったところの辺りからも「こっちにも大穴があいてんぞ!」という声が聞こえてきた。
さっきの揺れといいこの大穴といい、ただ事ではないと思ったのか、近所でも脚が早いと有名な子どもが「ちょっくら見て回ってくる!」と言うやいなや駆け出して行き、周辺の子どもたちも「じゃあおいら達も」といって方方に駆け出していった。
こうした子どもたちによって辺り数キロ内でも少なくとも7〜8個くらいの大穴があいているのが確認され、帰ってきてこのことを伝えられた大人たちは急いで消防やら警察に電話を掛けて非常事態を知らせようとしたが、電話線は大混乱のようで一切繋がらず、やむなく子どもを使い走りにしてこの緊急事態を知らせることにした。
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