第6話 PERSON・ASKING

夜の街。

それは昼間とは違ってまた別の顔を見せる。

目を逸らしたくなる程に色とりどりの眩しい明かりは街中を照らしていた。


「はぁッ、はぁッ…クソッ、こんな事になるならもっと運動しておくんだった……!!」


表通りから離れた裏路地を1人の男が左脇に抱えた黒い四角形のノートパソコンを持って走っていた。

上は白いパーカーと緑のシャツに加えて青いジーンズ、足元は白い紐の付いた黒のスニーカー。

それに癖っ毛の灰色の髪に丸いレンズの眼鏡、そしてあまり手入れされていないのか鼻の下や顎髭が少し目立っていた。後ろからは複数人の怒号と共に銃声が響き、そして何発もの閃光が彼の近くを掠めていく。通りを直進し、そこを左へ曲がって更に進んで行くと彼は追っ手が来ない事を確信し広場の中にあった細長い縦型のボックスの中へ入る。

それは緊急通報システムと呼ばれる物で万が一の事態が起きた時に使用する物。彼はパーカーの右ポケットから小銭を幾つか金銭投入口へ入れてパネルを操作、そして治安局のダイヤル回線を慌てて押す。

少し経つと直ぐに女性の声で繋がった。


『はい、治安局緊急通報ダイヤルです。事件ですか?事故ですか?』



「じ、事件だ…ヤバいのに追われてる!!場所は…えぇーっと、セクター6、セクター6の18番通り!!」



『追われている…ですか?』



「早くしてくれ、殺される!!誰でも良い!早く来てくれ!!早く……」


そして通話は此処で途切れてしまった。

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「……変な電話ですか?」


翌朝、陽香がデスクへ自身のマグカップを置いた時に京香へ問い掛けると彼女は頷いた。


「そっ。昨日の深夜2時、ウチに緊急通報ダイヤルが来たのよ。応答したのは夜勤のオペレーター…彼女の話しによれば掛けて来たのは男性…声からして恐らく30代。殺される、助けてくれって感じだったらしいわ。」


京香がそう話すと陽香は首を傾げて考えていた。


「それで…どうなったんです?その人。」



「生憎、音沙汰無し…局員が現場に駆け付けたけど誰も居なかったらしいわよ。」



「…イタズラにして手が込んでいる様な気もしますけど、私より歳上の人がそんな事するなんて信じられません…そういうの、人としてどうかと思います。」


呆れたのか陽香は椅子へ座って少し眉間に皺を寄せる。すると今度は部屋の入り口のドアが開いて舞依が入って来ると彼女は陽香の前の椅子へ腰掛けてテーブルの上へ銀色のケースを置いた。


「舞依、それは?」


椅子を寄せて来た陽香は舞依の近くへ来て彼女へ尋ねると「頼んでたブツが来た。」と返し、ロック2箇所を外してケースの上葢を開けて中を開く。

そこには黒い拳銃2つが収められていて木製のグリップ部分には銀色のカラスのワンポイントが施されていた。スライドカバーには黒い字で[9mm RAVEN SICKLE]と書かれている。


「流石だぜ、あたしの手にしっくり来る。」


舞依はケースへそれを一度戻し、自身のホルスターから普段使っているグロックをカスタムしたARK17の代わりに届いた銃を左右のホルスターへ収めた。


「頼んでたのって銃だったんだ。」



「SIG P220カスタム ルベルクス・レイヴン・シックル。此奴が有りゃ後はどうって事はねぇ。何やかんや有って届いたのが今日だったんだよ。」


彼女がニィッと笑っていると京香が歩いて来て立ち止まり、舞依達の方を見つめていた。


「しかしまぁ…どうなるかしら?私達も彼等の仕事に巻き込まれたりして。」



「何言ってんだよ、まだあたし達の出番じゃねぇ。それに奴等も今頃は血相変えてファウンダー中探し回ってるんじゃねぇーの?」



「そこの探す要員に私達も押し込まれるかもって事。多分、ローラー作戦でもしなきゃ見付からないわよ。」



「どーだかねぇ……。」


舞依はタバコの箱を懐から取り出し、中から1本引き抜くとそれを口へ咥える。今度はライターを取り出すとそこへ火を付けては煙を吸った後に口からふぅっと吐き出す。すると隣に居た陽香が煙を吸って咳き込んでしまった。


「けほッ、けほッ…吸うなら先に言ってよ……。」



「良いだろ…別に。あたしとキョーカとハルカしか居ねぇんだから誰も困りゃしねぇっての。」


向きを変えて陽香の方を向くと彼女は少し笑う。

すると電話が鳴り、京香が応対しに行くと直ぐに戻って来た。


「現場のお偉いさんから…探すの手伝えって。窓際部署でも使ってやるだけ有り難く思えってお言葉付きよ。」



「ちッ…結局、老いぼれ捜査官共の手伝いかよ。さっさと引退して老人ホームでも何処でも行けってんだ。」



「じゃあ行ってきます、京香さん。」


舞依が先に立ち上がって机の傍らに置かれていた小包を開くと中から予備のマガジンを数個手に取ってそれを上着の内ポケットへ忍ばせる。1個のマガジンを舞依は1つ手に取ると京香へ手渡した。


「…キョーカ、此奴の弾の量産頼んだ。」



「手配しとくわ。それと専用の車で行きなさい、恐らく何か有るかもだから。」


ポイッと京香が壁に掛けて有ったキーを手にして陽香へ投げて渡すと受け取った彼女は頷き、舞依と共に部屋を出て歩いて行った。


「……いつの間に名前呼ぶ仲になったのかしら。あの2人。」


去りゆく背中を見ながら京香はポツリと呟いた。

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治安局の駐車場を出て向かったのは一般道、車もハンドル操作は左側で助手席は右という外国の仕様となっている。目的地を入力した後にグレーの普通車は道路を走行し進んで行った。天井にはサンルーフが付いていて、開けようと思えば開く事が出来る。

トンネルを抜けた先で信号待ちの為に停車し陽香が端末を開くと舞依の方をチラリと向いた。


「セクター2のルート20…私達はその周辺を探せって。」



「けッ、かったりぃ…あの辺はマトモそうに見えて実際結構ヤバい所だってのに。」



「ふぅん…そんなにヤバイの?」



「…娼婦、ヤク中、殺し屋とその他色々。彼処は富裕層と一部の貧困層の両方が住まう場所……まぁ言っちまえばある意味夢のドリームランドさ。」



「……それって悪い方のでしょ。」



「言っとくがサツはな悪党共シバきゃ出世が出来んだ、彼処ならハイスコア叩き出せるぜ?」


舞依がニィッと歯を見せて笑った瞬間、陽香は溜め息をついて車を発進させる。途中に差し掛かったゲートへパスを翳すと街の中へと入って進んで行く。

周囲は高層ビルが建ち並ぶ反面、何処か物々しい雰囲気が立ち込めていた。暫く進んだ後に路肩へ車を停めると陽香は端末へ配布された写真を確認すると車から降りる。続いて舞依も降りると彼女と共に通りを歩き出した。


「……確かに嫌な雰囲気。皆、私達を見てる。」



「けどまぁ、もし仮にそのオッサンが生きてるなら奇跡だ。もうとっくにくたばっちまったか…或いはスーツケースの中に押し込まれて何処かに拉致られたかの2択だな……テキトーに探してズラかろうぜ。」


擦れ違う度に感じる視線…特に路地や店の方から向けられる視線は何れも心地良い物ではない。

その一方では彼等へ見下した様な視線を向ける者達が多く居るのが人目で解る。

まるでその目はゴミを見る様な…と言い表すのが適切だろうか。写真を見て尋ねて回るが「知らない」だの「解らない」の何れかが返答として返って来るばかりで埒が明かない。陽香は近くのコンビニへ入って行くと舞依を外へ残して聞き込みへ向かった。

少し経つと肩を落として彼女が戻って来る。


「…やっぱりダメみたい。京香さんに事情話して戻った方が……ん?着信来てる…誰からだろう。」


陽香は舞依と合流すると端末を確認する。

そこには非通知のメッセージが記載されていた。


[今居るのはそこから進んだ先にある赤い屋根の建物の中、急いで欲しい。]


というメッセージのみで陽香は首を傾げる。


「……赤い屋根の建物?」



「赤い屋根だぁ?何言ってんだか…さっさと、行くぞ。」


2人は再び通りを歩き出し、赤い屋根の建物を探して街中を進んでいると路地裏にそれらしき物を発見する。そこは1軒のバーで中へ入ると昼間にも関わらず男女数人程が酒を飲んでいるのが解った。

既に酔っ払っている者や此方をジロジロと見て来る者が居る。


「……おい、本当に此処か?」



「可笑しいなぁ…そうだと思うんだけど……。」


カウンター奥へ行き、そこに居た中年の黒髪のバーテンダーへ陽香が写真を見せて話をすると奥の部屋へ行けと指をさされる。2人が案内された部屋へ向かうと

そこに居たのは椅子に座り、丸メガネを掛けた黒いボサボサの髪をした男だった。

着ている白いパーカーはシワが少し目立つ他、中に着ている緑色やジーンズも手入れされているかも怪しい。


「……あの!写真の人ですよね?」



「あ、あぁ…そうだよ。良かった…どうやら届いたらしいね…僕の送った秘密のメッセージが。」



「私達は治安局の者です、私は早乙女陽香…彼女は哀原舞依。」


陽香が自己紹介すると彼も立ち上がって手を差し出して来る。陽香の手を握った後に舞依へ差し伸べると彼女は男の方を見つめていた。


「宜しく、イーサンだ。」



「……あぁ、宜しく。」


何事もなく挨拶を終えると彼は部屋の入口と窓のブラインドの隙間を見て何かを確認すると2人へ向き直る。


「……実は少しやらかしちゃってね。」



「やらかした?…何をですか?」


陽香が尋ねるとイーサンは苦笑いして事情を説明し始めた。


「暇潰しと興味本位で色々やってたら、マフィアの取り引きにぶち当たって……それで追われる事になったって訳さ。今じゃオマケに都市保安警察からも追われてる。」


そう説明した時、近くに居た舞依が突然口を開く。


「オッサン…アンタ、ハッカーだろ?それもとんでもねぇタイプの。人様の事ならどんな事だろうと何でも知ってますってツラしてやがる…間違いねぇ。」



「……何故解ったんだい?」



「さぁな…唯のカンって奴だよ。兎に角、早い所ズラかるぞ。長居すりゃどうなるか……。」


突然、バンッという荒々しい音と共にドタドタと足音が聞こえて来ると突然店内から銃声と悲鳴が聞こえ始めた。舞依は入口のドアへ近寄ると2人へ下がれと手で合図、聞き耳を立てていた。

聞こえて来たのは誰かの怒鳴り声と男を探しているというワード。つまり狙いはイーサンということになる。


「…オッサン、お迎えが来たみたいだぜ?スクールバスに乗る準備しときな。」



「まさか彼等か!?冗談じゃない、僕は──」



「ギャーギャー喚くんじゃねぇ…選択肢は2つだ。1つは奴等の玩具にされて飽きた果てに捨てられるか。もう1つは生き延びて行方を眩ますかだ……アンタが決めて選ぶこったな。ハルカ、念の為セーフティ外しとけ。」


舞依は音を立てずにドアを開くと身を屈めてカウンターの中へ忍び込むと蹲っている彼の元へ近寄った。その近くで髪を後ろに縛りながら話し掛ける。


「オッサン、相手何人だ?」



「お、お前…バカか!?危ないから下がってろ!!」



「いいからさっさとしろ。相手は何処の誰で、何人だ?」



「……ドゥーム・マンティス、此処のセクター以外にも派閥が有る奴等だよ。1度目を付けられたら逃げられる訳がねぇ。手下はざっと16人…それからリーダー格のヴィクターが1番おっかねぇんだ。」


彼が小声でそう伝えると怒号と共に思わず身震いした。


「おい、誰かその下に居るのか?居るなら出て来やがれ!!見せしめだ…全員ぶっ殺してやる!!」



「お、俺ももうお終いだ……死にたくねぇッ!!」


そう彼が話した時にカウンターの下から舞依が立ち上がって相手へ銃口を向ける。既に店内に居た客は全員無差別に殺されたらしく、横たわって血を流していた。目の前の男の服装は上下とも黒のスーツと左胸には何かのバッジが付いている。


「おーおー…こりゃまた派手にぶっぱなしやがって。血も涙もありゃしねぇってか。おいオッサン、死にたくねぇならそこで伏せてろ。」



「誰だテメェッ!?」



「…Fuck off《目障りなんだよ、失せな》!!」


舞依は容赦なく引き金を引いて目の前の彼を銃殺。

倒れた瞬間に黒い上着を脱ぎ捨ててカウンターへ乗り、そこから飛び上がると今度は空中から左右の銃口を向けて別の1人を射抜いて彼へ着地。そして踏み台にし飛ぶと今度は舞依の方へ振り返って来た2人を立て続けに射抜いてみせた。


「クソッ、何なんだよアイツ!?」



「遅せぇんだよッ!!」



「ぎゃあぁあッ──!?」



「殺せッ!!ぶっ殺せぇえッ──!!」


異変に気付いた別の男が即座に発砲したが彼女の持つ右手の銃により射抜かれ、呻き声と共に地面へ倒れる。そして今度は別のテーブルを踏み台にし舞依が空中で身体を横へ捻ると両手の銃を立て続けに発砲し2人を射抜いた。彼女へ向けてAK47ライフルが掃射されると

カウンターの奥へ走って戻ると身を潜める。


「ハルカぁッ、車持って来い!!」


彼女が叫ぶと部屋の奥からガラスの割れる音が聞こえ、残った連中もそれを追い掛けようとするが舞依はカウンターへ飛び乗って発砲し足止めを開始、今度は黒光りするハンドガンの銃口が彼女へ向けられた。


「オタクらが使ってんのがレーザー系の銃じゃねぇのは褒めてやる...けど、所詮それだけなんだよテメェらは!!」


飛び降りて駆け出しては地面をスライディングし

相手の股下へ入り込むと発砲された弾丸をスレスレで躱し、その姿勢のまま1人の股下を潜り抜けると3人を相次いで射抜いて撃退、今度は起き上がって目の前に来た1人を射抜いて見せた。すると先程居た部屋の奥から叫び声が聞こえて来る。


「舞依ッ、早く!!」



「解ってる…よッ!!」


舞依は敵による掃射を避けながら部屋の奥へ走るとその最中に上着をかっさらって中へ逃げ込む。そして割れた窓から店の外へ飛び出して車へ乗り込んだ。舞依が飛び乗った事で車は直ぐに発進し店から離れて行く。

すると彼女は助手席のダッシュボードから深緑色の球体を2つ取り出すとボタンを押して窓を開ける。半身を乗り出した姿勢から振り返ってニヤリと笑った。店の周囲には4台の黒い車が停まっているのが解る。


「舞依、何する気!?あんま乗り出したら危ないってば!!」



「アイツらにあたしからとびきりのプレゼントをくれてやる…気に入ってくれるぜ?きっとなぁッ!!」


ピンを2つ右手の指先で引き抜くとそれを左手で投擲、直後に凄まじい音と共に爆発し煙が立ち昇っていた。姿勢を戻すと舞依は左右の銃のマガジンを引き抜いて予備のマガジンを差し戻してからホルスターへしまった。すると今度は後部座席に居たイーサンが顔を覗かせて来る。


「い、幾ら何でも無茶苦茶だ!!もっと穏便に出来ないのかい!?」



「うるせぇ、そもそも追い掛けられるてめぇが悪ぃんだろが…ったく。」


舞依は左手で髪を掻き分けて溜め息をつく。

そして横へ置かれた上着のポケットからタバコを取り出したがそれも止められてしまった。


「あ、それと僕は非喫煙者…だから吸うのは止めてくれるかい?そもそもキミはよく見たら未成年じゃないか。その歳でタバコを吸うのは良くないと思うけどな。」



「はぁ!?チッ…わぁーったよ、クソッ!!一々うるせぇオッサンだな……。」


舞依はタバコを戻し、右手で頬杖をついて窓の外を眺めていた。流れて行く景色と青空を横目で見ていると彼女は舌打ちし不機嫌そうにする。

回り道した末に別ゲートからセクター2を抜けると後は治安局の有るセクター7へ向かうだけとなる。

だがミラーを見ると突然後方から黒い車が差し迫って来ているのが解った。銃声と共に3人の乗った車へマシンガンによる射撃が行われ、ミラーやボディに弾が着弾して行く。


「まさか追って来た!?」



「第2ラウンドか…へッ、上等じゃねぇか。オッサン、死にたくねぇなら伏せてろよ!!」


陽香が付近のスイッチを押して天井のルーフを開くと舞依は再び左右のホルスターから銃を引き抜く。そして左右のスライドカバーを引いて弾を装填、上半身を乗り出すと両手を広げてニィッと笑うと共に引き金を引いて発砲し始めた。


「After you,you worthless BUSTER《とっととくたばれクソ野郎》!!」


銃声が響き渡り、車のフロントガラスやボディへ目掛けて舞依の放った弾丸が炸裂していく。

それでもお構い無しに相手は舞依達へ発砲し続けたが途中でカーブを曲がり切れず大破して炎上する。


「挟み込んで射撃しろ、何としても奴を逃がすな!!」


次から次へと車が差し迫る最中、舞依はマガジンをリロードし再び銃口を向ける。


「そう易々と逃がしちゃくれねぇか…おい、もっとスピード出せねぇのかよ!?」



「無理よ、これ以上出せない!!」


陽香はそう返事をすると素早くハンドルを右へ切ってカーブを曲がると通りを直進し続ける。

そして何とか振り切るとセクター4、5と通りを抜けて車は更に突き進んで行った。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

セクター5と6を繋ぐトンネルを突き進むと陽香は端末で京香と連絡を取る。その間、舞依はサンルーフの上で襲撃に備えて待機していた。身を屈めていたイーサンが舞依の方を見上げながら彼女へ話し掛ける。


「なぁ、キミ達…国家治安局はいつもこんな危ない真似をしてるのか?さっきからドンパチばっかじゃないか!!」



「るっせーなぁ、ンな事知るかよ。上の目的はアンタの身柄の確保と事情を洗いざらい聞き出すだけ、それ以外の事なんざハッキリ言ってどうでも良い。それになあたしらはやれって言われた事だけを黙って遂行するだけ……それが窓際部署の役割ってモンさ。」



「窓際部署だって!?冗談じゃない!!もっとちゃんとした捜査員を──」



「…嫌なら此処で引き摺り降ろしてやろうか?元を辿ればてめぇが撒き散らしたモンだろうが。てめぇのケツはてめぇが拭けってんだマヌケ。」


ギロッと舞依が睨み付けて威圧すると彼はそれ以上、何も喋ろうとはしなかった。

あと少しでセクター6を抜けるゲート付近の広場まで差し掛かった所で車が急停車したのだ。


「おわッ、あっぶねぇ!!何してんだハルカぁッ!?」



「前ッ…!!前に誰か居る!!」


舞依が振り返るとそこに居たのは店で見た同じ黒いスーツに身を包んだ男、だが唯一違うのは青く光る目を持つ鬼の様なマスクを付けている事。その左手には細長い何かを握り締めている。彼女は彼の方へ右手に持つ銃の銃口を向けて叫んだ。


「聞こえてんのか?そこ退けよ、コスプレ野郎!こっちは急いでんだ…てめぇのショーに付き合ってる場合じゃ──ッ!?」


舞依が咄嗟に右側へ身体を捻り、何かを避けた。

パラパラと髪の毛が舞い散ると彼女は車の上へ這い出て立ち上がり、虚ろな鋭い目付きで標的を睨んでいた。恐らく投擲して来たのはナイフだろう。


「……やろうってのか?仕掛けたのはそっちだぜ?」



「キサマらは既に袋のネズミだ…もう此処から先へは逃げられん。我々ドゥーム・マンティスは一度獲物と認識したモノを最後まで追い…そして狩り取る。例えそれがどんな相手だろうと同じ、変わりはない。」



「はッ、寝言は寝てから言いな。」


舞依は車から飛び降りて地面へ降り立つと運転席側へ進んで行き、陽香へ話し掛けた。


「……悪ぃ、ちょっとダチと遊んで来る。オッサンの事そっちに任せたぜ。」



「……解った。けど早く帰って来てね…今夜の夕飯は舞依が好きな奴にするから。」



「あいよ…楽しみにしとくぜ。」


2人は視線だけで合図を交わすと舞依は車の正面へ立ってニヤリと笑った。即座に車がバックし引き返すと走り去る。


「おいお面野郎、てめぇなんざサシで充分だ。とっとと掛かって来な。」



「女。これを見ても…そう言えるか?」


目の前の彼は左手に握っていた黒い鞘から突き出た柄を右手で握り締めて抜刀、そして銀色に輝くその刃先を舞依へと向けて来たのだ。刃渡り約70cmのそれは柄まで含むと95cmはある。


「…随分とご立派な獲物だな。誕生日にママから買って貰ったのか?」



「ふん……そのくだらん戯れ言がいつまで言えるか楽しみだ。」



「…いいからさっさと来いよ、ど阿呆。」


彼女の挑発を皮切りに男が駆け出し、舞依との間合いを詰めて右手に握った刀を力強く振り下ろすと

舞依はそれを後退し避けて両手を向けて発砲する。

一発目の弾丸が男の左を逸れ、二発目の弾丸を彼は刀を左へ振り払うと弾を斬り裂いたのだ。


「その構えは2挺拳銃…それも扱うのは実弾か。エネルギーブラスターが主流なこの時代には珍しい……何故だ?」



「昔読んでたマンガの真似だよ…カッコイイだろ?あたしと同じ女がこのスタイルで戦ってたんだよッ!!」


直後に刀の刃が左下から右斜め上へ振り上げられると舞依は身体を仰け反らせスレスレで避ける。即座に右手の銃を発砲、相手の右足太腿を射抜こうとしたが彼が持つ左手の鞘で手首を殴られると射線をズラされ、弾丸は地面へ命中した。


「DAMN 《クソ》!!」



「…遅い!!」


右足による膝蹴りが舞依の腹部へ命中、一瞬怯むと今度はそこへ刀が素早く頭上から振り下ろされる。

両手を即座に交差させて銃身の上部で刃を受け止めるとそのままギリギリと競り合っていた。少しでも気を抜いていたら身体を真っ二つに斬られていたかもしれない。


「てッッ…てンめぇええッ…!!」



「筋も良い…反応も良い…女…一体誰に仕込まれた?」



「あぁ…?答える義理は…ねぇなぁあッ……!!」


舞依が咄嗟にそれを振り払うと素早く両手を前へ突き出して銃口を差し向け、引き金を引いて発砲した。しかし、彼は放たれた弾を斬り裂くか或いは躱すかして舞依へその刃を突き立てるべく迫り来る。

そして鞘を投げ捨てると刀の柄に左手を添えて刺突を繰り出すが舞依はそれを身体を左へ捻って避け、飛び退く瞬間に再び右手で発砲すると距離を取ってマガジンを投げ捨ててリロードを行った。そして今度は舞依が仕掛ける。片手で何発も発砲しながら距離を詰めて確実に仕留めるべく挑み掛かった。


「ッ──!!」



「くッ──!!」


両手持ちから力強く振られた左への斬り払いを飛び退いて躱し発砲、弾丸が男の頭部を掠める。

今度は右から来た斬り払いを地面へ転がりながら避けて立ち上がり、尚も左右の銃で発砲して追い込むが彼は走って距離を図る。そして再び舞依との間合いを詰めると彼女の頭上から刀を振り翳したがそれを彼女は身体を素早く捻って男の背後へ回り込んで発砲するが避けられてしまった。お互い飛び退いて距離を取り、再度接近し掛けた時だった。


「そこの2人動くな!!都市保安警察だ、武器を捨ててその場に跪け!!」


そう名乗った男が身に付けているのは治安局とは異なる紺色の制服、そして2人へ向けられているリボルバータイプのブラスターガンだった。いつの間にかもう1人警官が増えている。


「……ちッ。おい、まだ続けんのか?」



「興が冷めた……何れまた貴様の首を狩りに来る。その時まで精々長生きしろ、女。」


彼は刀を向けて後退ると姿を消してしまう。

その場に残されたのは舞依と2人の保安警察のみ。

近寄って来た1人に対し、彼女は左右の銃を足元へ置くと身体を隈無く触られていた。


「……さっきの奴は?仲間か?」



「さぁな。ダチに見えるか?てか、ベタベタ触んじゃねぇよ…気持ち悪ぃな。」



「身分証IDを出せ、市民が携行するのは義務として法律で決められている。」



「……ほらよ。」


舞依はポケットからパスケースを取り出して手渡すとそれを彼は確認し直ぐに返却して来た。


「D.L.Sライセンス…つまり治安局か。帰っていいぞ、貴様達の様な輩を捕らえたら何されるか解らん。」



「そりゃどーも…オタクらに捕まってレイプされたり、娼婦街へ売り飛ばされるよりかはマシってこったな。」


そう呟いて舌打ちした彼女は銃を拾い上げ、ホルスターへ戻そうとすると近くに居た若い警官がそれを聞いていたのか舞依へ銃口を向けて来た。彼女も即座に左手の銃を彼へ向けて睨み付ける。


「おい女、口を慎まんか貴様ぁッ!!」



「るせぇぞアメ公。てめぇのケツ穴余分に増やしてやろうか?あぁ?」


お互い睨み合った末に舞依を調べた男が割って入り、「止めろ」と双方を宥めると彼女は舌打ちし銃を下ろす。


「ですが巡査長!!」



「……止めろと言った。早く行け、此奴がブチ切れて暴れ回る前にな。それとこの前は部下が世話になったな…それに免じて見逃してやる。」



「了解、お巡りさん。」


舞依は2人へ敬礼し、その場を歩いて立ち去った。

そして約1時間半掛けて治安局へと戻るのだった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「ウチで面倒見るだぁ!?ふざけてんのかキョーカぁッ!!ウチは老人ホームじゃねぇんだぞ!?」


翌朝、治安局内にあるA.C.Tの本拠地兼室内に舞依の声が響き渡った。横に居た陽香が喰って掛かろとする舞依を押し留める。


「ふざけてないわよ、真面目に話してるじゃない。情報参謀役が必要だったから雇ったの。それに…このまま返したら恐らく彼は元居た家には帰れないだろうし。」



「ちッ……そんで、オッサンは?」



「彼なら彼処の倉庫の中…もう既に寝床兼作業場ワークスペースにしちゃったけど。」


舞依は陽香から離れると彼が部屋代わりとしている倉庫のドアのノブを思い切り手前へ引いて開いた。


「やいオッサン!!あたしはアンタを認めた訳じゃ──」



「やぁ……もう朝かい?昨日の夜…徹夜してネットしてたから…いい加減着替えて寝ようと思って…それから……寝間着を寝たのが夜中の…何時だったっけ。」


舞依の視界に飛び込んで来たのは全裸でベットに横たわっているイーサン、どうやら着替えていた最中に寝落ちしたらしい。


「ンなこたぁいいからさっさと服着ろぉッ!!見たくねぇモン朝から見せてんじゃねぇッ!!」


バンッと彼女は荒々しくドアを閉めて戻って来る。

そして振り返った際に扉を足で蹴飛ばした。


「あー、クソッ!!最悪だチクショウッ…あの辺の奴食えなくなる…朝からポルノビデオのファックシーン見せられた気分だぜったく……。」



「舞依…大丈夫?」



「ハルカぁ、明日の朝メシはあたしだけメニュー変えてくれ……暫くウィンナーもソーセージも要らねぇや。」


応接室にあるソファへ腰掛けた舞依が天井を仰ぎ、その横へ事情を知らない陽香が付き添っていた。

頭脳担当としてイーサンがA.C.Tへ加わったが今回出会した存在…ドゥーム・マンティスとの間に因縁が出来てしまったのは言うまでもない。

4人体制となったA.C.Tは新たな形で動き出し始めた。

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DOUBLE-BUDDY-STRELITZIA 秋乃楓 @Kaede-Akino

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