3話

「楓。あんたは世界中の陸上選手を敵に回してるよ」


「だって事実だと思うんだよね。そうでもなきゃ個人種目でこんなキツい競技じゃなくてさ、別のチームスポーツを選んで仲間と楽しくスポーツするって」


「まぁ、一理あるかもな。……ウチだって自分勝手で負けず嫌いだし」


「でしょ?」


「楓ほどじゃないけどな。加えてあんたは頑固な癖にどっか抜けてるから、チームプレイなんて絶対無理」


「いやいや、さすがに言い過ぎ言い過ぎ」


「しかも好奇心旺盛すぎて周囲の事が見えなくなって、自分勝手な振る舞いでモメる事もあるしさ」


「そこまでじゃないって!」


「違うんだったら駅伝にも出ろよ」


「う……。ま、前向きに善処する事を検討する……かな?」


 苦々しい表情を浮かべ、顔を逸らしながら楓が段々と語気を弱める。

 言いくるめられる楓の表情を見て、休憩中の長距離仲間達も笑いながら愚痴混じりの雑談を始めた。

 矛先となっている楓はたまったもんじゃない。


 楓は駅伝のような、複数人で協力して勝利を目指すという種目がどうにも苦手だった。

 自分が区間賞くかんしょうを取る程に早く走っても、他の人が抜かれれば駅伝は負ける。自分まで敗北する。


 サポートはできない。

 自分が全体で一位のタイムを出したにも関わらず、敗北という結果を突きつけられる事がどうにも納得がいかなかったのだ。


 そう考えれば、渚に指摘された欠点――そもそもは自分が言い出したことだが。

 自分勝手や頑固というのは、反省すべき事実だよなと思い直した。思い直した所で、生まれ持った気性というのはそう簡単に変わるものではないが。


「お前等っ! くっちゃべってる元気あるならインターバル追加だ! 二百×四、トラックの間はジョグだ。準備しろ!」


 ジョグとは、ジョギングの事だ。

 四百メートルあるトラックの二百メートルをダッシュして、二百メートルをジョギングする。速度変容速度変容をともなう練習だ。


「「「はい!」」」


 顧問の怒声に全員が内心でマジかよと思いつつ、即座に身体を動かしてスタートラインまで走る。

 ラップタイムを記録する為、スポーツ用の腕時計を握りながら構え、顧問の声を待つ。


「ゴーッ!」


 汗が滲む互いの身体をぶつけ合いながら、スタートと共にポジションを奪いながらダッシュした――。



―――――――――――

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