1章 太陽の下から灰の中へ

1話


かえでラストファイトー!」

「ラスト腕振れ!」

「顎上げんな! 川越ラストファイトーッ!」


 まだ残暑が続く九月の上旬。

 埼玉学園総合高等学校の陸上部専用グランドに、汗をびっしりかいた部員達の声と、インターバル走をする生徒達がいた。


 長距離種目、短距離種目、跳躍やフィールド競技を専門にする者など。

 総勢六十名近い陸上部員達の声があちこちから飛び交う。

 それに加え、グランド外からも歓声に近い声が飛び交う。


 厚いゴムで出来た真っ赤なタータンが炎天下の熱を吸収し、表面に肌が触れれば軽い火傷すら負う。

 汗が垂れれば即座に蒸発する。

 百メートル先は陽炎かげろうのように揺らめいて見える程の熱さだ。

 

 そんな過酷な環境でも、陸上名門校として名高い高校の学生達は目に情熱の炎を宿して練習に臨む。


「――……っ。なぎさ、ラストファイトーっ!」


 黒髪ショートウルフヘアーで、身長170センチメートル前後の細身の女性――大宮楓は、自分がゴールラインを越えた瞬間、即座にトラックからフィールドへ移動して後続の応援に声を出す。


 僅かに遅れて二番目にゴールしたのは川越渚。黒髪短髪でいかにもスポーツ少女といった容姿だ。


 二人は幼い頃から近所に住んでおり、同じ陸上クラブに通い、同じ中高一貫校へと進学した。

 部活も常に一緒で、種目もお互いに長距離専門。

 幼馴染みであり親友、そして好敵手という間柄だ。


「よし! 五分休憩!」

「「「はい!」」」


 続く全員がゴールしたのを見て、顧問が指示をする。

 部員達は顧問の指示に返事をした後、各々水分補給などの休憩へ移動する。


「大宮さん! 格好良い!」

「楓先輩! こっち向いて下さい!」


 野次馬のように見ている同じ学校の生徒達。既に部活が終わったのか、今日は部活がないのか。


 いずれにせよ、多数の野次馬の視線を独占しているのは――大宮楓だった。


 川越渚も十分に女性として美しい魅力的な外見だが、楓には敵わない。

 楓は元々、日焼けすると肌が真っ赤になり痛む。

 その為に日焼け止めを塗ったりしていることもあるのかもしれないが、陸上選手らしいとはいえない程、雪のように白く絹のようにきめ細やかな肌。

 さらには大きな瞳に高い鼻、モデルのように均整の取れたスタイルで、男女ともからアイドルのように見られていた。


「――相変わらず、楓の人気は凄いな」

「いや……。どうせ長続きしないって」


 切らした息を整え、吹き出る汗をタオルで拭いながら渚と楓は苦笑する。


「まぁ、確かに今は人気にブーストかかってるのもあるだろうけどさ。やっぱ世界陸上U―二十で金メダルってのは、抜群の宣伝効果だよ」

「そんな宣伝効果を望んで走った訳じゃないんだけどな」


 少し困ったように、そして面倒くさそうな表情で楓は言う。



―――――――――――

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