メス堕ちTS転生~元男の俺が三角関係に巻き込まれるわけないだろ!~

☆ほしい

第1話 俺が……女に?

朝、目覚まし時計の甲高い音で意識が覚めた。


「……うるさいな」


手探りで時計を止め、薄暗い部屋の天井を見つめる。狭いワンルームは、まるで自分の人生そのものを表しているようだ。ごちゃごちゃした机、脱ぎっぱなしのスーツ、そして隅に積まれた未開封の本やゲーム。


「このまま何も変わらない人生なのか」


自然と口をついて出た言葉に、虚しさが募る。


身支度を整えながら、冷蔵庫から期限切れ寸前のパンを取り出してかじる。それすら味気なく感じる自分が情けない。


「よし、行くか」


絞り出すように呟き、ネクタイを締めると、満員電車へ向かった。


通勤ラッシュの電車は、いつものようにぎゅうぎゅう詰め。肩がぶつかり、息苦しい空間に身を投じるたびに、仕事への意欲がさらに削がれていく。


「これ間違ってるだろ!」


職場に着くと、上司の叱責が飛んできた。頭を下げながら、心の中でため息をつく。「俺だけが悪いわけじゃないだろ」と反論したい気持ちを押し殺し、黙々と仕事に向き合う。


隣の席では、同僚たちが笑い合いながら話している。


「昨日の飲み会、超盛り上がったよな!」


「お前、またあの子にアプローチしたのか?」


俺には関係のない話。自然と、パソコンの画面に目を戻す。孤独感が胸を締め付けるのを感じながら。


昼休み、コンビニ弁当を開ける。味気ないチキンカツに箸をつけながら、またぼやいてしまう。


「俺の人生、こんなもんか……」


定時になり、同僚たちが飲み会の予定を楽しそうに話している中、俺は一人で席を立つ。誘われたけれど、「悪い、今日は用事がある」と適当に断った。嘘だ。何の用事もない。ただ、あの空間にいる気力がなかっただけだ。


帰り道のコンビニで、ビールと惣菜を買って帰宅する。部屋のドアを開けた瞬間、独特の湿気と埃っぽい匂いが鼻をつく。「本当にこのままでいいのか?」と思う反面、何かを変える気力も湧かない。


深夜、パソコンの画面を前に座る。オンラインゲームにログインし、キャラクターを動かしながら現実を忘れようとするが、虚しさだけが募る。「ゲームの中でも俺は誰かの影だな……」そんな考えが頭をよぎるたびに、笑うことすらできない。


ベッドに横たわり、天井を見つめる。今日も、変わらない一日が終わった。


「このままじゃダメだ……」


そう思いながらも、何をすればいいのか分からないまま、ゆっくりと瞼が重くなる。そして、俺は眠りについた。


翌朝、目覚ましの音で目を覚ました俺は、いつものように布団の中で数分ゴロゴロする。重い体を引きずるように起き上がり、顔を洗って鏡を見た。疲れた顔がそこにある。


「今日も始まるのか……」


そんな呟きだけが、部屋に響く。


通勤ラッシュに向かうため駅へと歩いている間、昨日のことや、今日も続くであろう無意味な仕事のことが頭を巡る。ふと気づけば、スマホを片手に持ち、SNSのタイムラインを漫然とスクロールしていた。友人たちの楽しそうな投稿が並ぶ画面に、苛立ち混じりのため息をつく。


「ああ、こんな人生、いつまで続くんだろうな……」


そんなことを考えていた矢先だった。


「――――ッ!」


遠くからクラクションの音が響く。その瞬間、何かが視界に飛び込んできた。


目の前には、巨大なトラックが迫ってくる。


「えっ……?」


反射的に足を止める。動けない。完全に固まってしまった。


運転席に見える運転手が必死にハンドルを切りながらブレーキを踏む姿が視界の端に入る。タイヤが道路を削る音が鼓膜を刺す。


全てがスローモーションのように感じられる中、頭の中にあるのはただ一つの思いだけだった。


「俺……ここで死ぬのか?」


逃げられない。その確信が胸を支配する。足を動かそうとしても、もう遅い。


トラックの巨大な車体がすぐ目の前に迫り、衝撃が来る――その瞬間、俺の意識は途絶えた。


***


気がつくと、暗闇の中にいた。いや、目を開けても、閉じても何も見えない。「ここはどこだ?」と問いかけても、返事はない。自分の声すら響かない。


「終わったんだな……俺の人生」


誰に向けるでもない言葉が、虚空に溶けていく。妙に静かで、冷たい絶望が、胸を締め付けた。


暗闇の中に、俺はいた。音も光も、何もない。ただ、自分が存在しているのをかろうじて感じられるだけ。何分、いや何時間、こうしていたのかもわからない。


その時、不意に声が聞こえた。


「――新しい世界で生き直しなさい」


低くて柔らかな声だった。どこか優しい響きを持ちながらも、冷たく響くその言葉に、俺は困惑する。


「生き直す? 何のことだ?」


返事をしても、声は続けるだけだった。


「与えられた身体で、新たな運命を受け入れるのです」


与えられた身体? 新たな運命? 一体何を言っているんだ? 頭が追いつかない。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! どういう意味だよ!」


必死に問いただそうとするが、声に届いている気配はない。それどころか、声はどんどん遠ざかっていくようだった。


その時だった。


体が――いや、何かが吸い込まれるような感覚に襲われた。


落ちていくのか、上っていくのかもわからない。ただ、意識がどんどん薄れていく。俺はただ流されるしかなかった。


***


目を開けると、そこは知らない場所だった。


ふわりとした柔らかい感触に包まれ、俺はベッドの上に横たわっていた。見上げた天井には木彫りの装飾が施され、ほのかな灯りが揺れている。


「……ここはどこだ?」


起き上がると、周囲を見回した。見たこともない豪華な部屋だった。質の良さそうなカーテンや家具が並び、窓からはどこか異国の景色が見える。


不安とともに、何か違和感を感じた。体が――軽い。異様なほどだ。


ベッドを降りると、足取りが驚くほど軽やかだった。ふらふらと立ち上がり、部屋の隅にある大きな鏡に目を留める。


「……あれ、何だ?」


鏡に映る姿に、思わず足が止まった。


そこにいたのは、俺じゃなかった。


長い髪がさらさらと肩に流れ、白い肌は輝くように滑らか。目元はぱっちりとしていて、どこか儚げな美しい女性の顔が、俺を見返していた。


「え……?」


思わず鏡に手を伸ばす。触れると、鏡の中の女性も同じ動きをした。


「なんだよ、これ……なんで俺が、女に……!?」


震える声で呟きながら、俺は鏡の中の姿を凝視し続けるしかなかった。


「嘘だろ……」


俺は震える手を鏡に伸ばし、そっと触れた。鏡の中の女性も同じように手を上げ、俺を真っ直ぐに見返してくる。その姿がどう見ても、自分だなんて信じられなかった。


「俺が……女に?」


信じがたい現実に声が震える。いや、これは現実じゃない、何かの間違いだ。慌てて自分の身体を確認し始める。


髪――長い。手に取ってみると、絹のように滑らかで柔らかい。

肌――つるつるしていて、傷一つない。触れるだけで驚くほど柔らかい感触だ。

体――明らかに華奢で、丸みを帯びたシルエットになっている。胸元に手を当てると、確かな膨らみがあるのを感じ、慌てて手を引っ込めた。


「こんなバカな話があるか!」


もう一度鏡を見つめ直すが、そこに映るのはやはり俺ではなく、絶世の美女だった。信じられない気持ちが渦巻き、頭が追いつかない。


さらに追い打ちをかけるように、声を発して気づいた。


「……俺の声、これかよ?」


驚いて発した言葉が、透き通るように高く柔らかい声だった。耳慣れた低い声ではなく、どこか儚げで女性らしい響き。これが俺の声? 嘘だろ、冗談じゃない!


「おいおい、なんだよこれ……どうなってんだよ!」


鏡の前で完全にパニックに陥る。何度顔を触っても、体を確かめても、この事実は覆らない。俺は――どうやら本当に女になってしまったらしい。


足元がふらつき、耐えられなくなってベッドに倒れ込んだ。柔らかい布団に包まれながら、荒れる呼吸を必死に整える。


「これ、夢だよな? 夢に決まってる。俺が女になるなんて……そんなことあるわけないだろ!」


自分に言い聞かせるように何度も呟くが、体中で感じる違和感がどうしても夢のようには思えない。


「一体どうして、こんなことに……?」


視界が揺れる中、俺はひたすら現実を受け入れたくない思いで、その場にうずくまるしかなかった。


ベッドに倒れ込んだまま、しばらく放心していた。けれど、じっとしていてもこの異常な状況は何も解決しない。深く息を吸い、体を起こした。


改めて部屋を見回すと、やはり見覚えのない場所だということが嫌でも分かる。

装飾が施された大きなベッドに豪華なカーテン、金色の縁取りが施された鏡や家具。どれも俺が住んでいた狭いワンルームとは似ても似つかない。


そして、窓の外に目を向けた瞬間、息を飲んだ。


そこには、まるで中世ヨーロッパの絵画のような街並みが広がっていた。石畳の道、赤い屋根が連なる建物、遠くには城のような建造物まで見える。信じられない風景に、思わず窓に駆け寄る。


「……ここ、一体どこだよ……」


戸惑いが押し寄せてくる。夢なのか、現実なのか、それすら分からない。自分が今、何をしているのかさえ曖昧だ。


「俺はどうしてここにいるんだ?」


頭を抱え、思考を整理しようとするが、まとまるわけがない。


その時だった。


「セリア様、ご気分はいかがですか?」


突然、ドアがノックされ、中に女性が入ってきた。驚いて振り返ると、そこにはメイド風の服を着た若い女性が立っていた。微笑みを浮かべた彼女が、俺に向かって優しく問いかけてくる。


「セリア……? 誰だそれ」


咄嗟に出た言葉に、彼女は首をかしげた。


「どうなさいましたか? セリア様」


不思議そうな顔をするメイドを前に、俺は慌ててごまかすしかなかった。


「いや、その……なんでもない」


できるだけ自然に振る舞おうとするが、内心ではパニック状態だった。この女の人は誰だ? セリアって誰のことだ? 何より、どうして俺をそんな名前で呼ぶんだ?


「では、朝食の準備が整っております。ご一緒に参りましょう」


彼女に促され、俺は重い足を引きずるように部屋を出た。廊下の豪華な装飾や窓から見える景色が、ますます現実感を薄れさせていく。


「ここ、本当にどこなんだ……?」


小さな声で呟きながら、俺は不安を抱えたまま、見知らぬ世界を歩き出した。

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