異世界唯一の透明人間、好き放題生きていく。
春夏 秋田
第1話 透明人間は異世界で生きていく。
俺は異世界転生したらしい。しかも透明人間に――――。
男は一人、地面からはみ出す巨大な木の根の上に座っていた。
辺りは薄暗く、木の葉から零れる月明かりのみが光源だけ、周りは木と生い茂る草が生え連なる森の中である。
男はまるで生きていないように動かず、顔を足の間に埋めていた。
「これが異世界転生……か」
男は跳ねる心を落ち着かせるために、わざと冷静を装いながら呟いた。
「しかも透明ときた、これが俺のチートスキル? どうしろと……」
男には足がなかったのだ。さらには手も体も何もかもが透明になっているのだ。しかしこの男、意外と冷静である。異世界転生をしたのだからもっと焦るものだと思うが、この男はそうではなかった。
最初に座ったのだ、近くの木の根に。
「触られた感触はある、やっぱただ透明なだけか」
男はスリスリ腕を摩りながらいろいろ調べる。
「まぁ体の変化はこれだけか、もしかしたら転生より転移のほうが正しいかも知れん。しかし一番の問題は――」
男は自分の身体を隅々まで触った後、何かを探すように辺りを見渡す。そしてため息をひとつ吐いた。
「森の中に素っ裸で所持品0、さらに身体の色もない……野獣とか魔獣来たら終わりだな……」
男は自分の言葉でブルッと震えた。恐怖した、暗闇から何か飛び出てくるのではないかという不安が身体を巡った。
「……ダメだな、このままじゃ」
男は意を決し立ち上がり、巨大な木の根を降りた。
「っと――まずは異世界人とコンタクトを取ろう、他人から俺がどう映るのか調べたいし」
男はそういうと振り返った。男の背後には、元の世界ではあり得ないほど大きな樹木がそびえ立っていた。男は根本からゆっくり上へと見上げていく。
「でけぇ……ト○ロかよ、いやもっとデカいかこれ?まぁ別にどうでもいいんだけど」
その葉は大きく広がり、頭上の空を覆っている。その規格外の巨大さに再び痛感した。
「コレが異世界転生か――」
――――――――――――――――――――
「……足裏痛ぇ、流石に森で素足はキツイな……」
あれからは、とりあえず人のいるところを目指し森の中を歩いていた。当然の如く整備などされてなく、砂利道が続いていた。さらに光源は月光しかなく地面がよく見えないのと野生生物に対する警戒意識が絶えず、心身ともに疲労が溜まっていた。
「――――じゃどうすんですか!?」
びびった。いきなりどこからともなくかすれ声が聞こえた。
「うるせぇ、黙れ」
今度は違う声だ、間違いない! 人だ!
俺は焦る心を抑えながら声が聞こえた方向に進むことにした。
自分の膝ほどまで伸びた草をかき分けながら早歩きで向かう。
「今襲えば反撃魔法を纏ってるかもしれない、もしそうなら……最悪死ぬか――――」
え、死ぬ……? ちょうどそのタイミングで俺は声の下にたどり着いた。
そこにはデブ、ヤセ、チビというあからさますぎる噛ませ犬みたいな男三人が小さなランプの光ひとつに固まっていた。
森の中にそんなことしているだけで異常なのだが、もっと注目したのがそいつらの服装である。ザ・異世界と言わんばかりの冒険者のような服に身を包んでいた。腰のベルトには小型ナイフが下げられており、大きなローブで顔を隠している。
さすが異世界、雰囲気いいね。まぁ異世界来て現地住民UNI○LO着てたら異世界感ぶっ壊れだよな。
「……」
あ?なんかヤセがこっちて見てくるだけど……もしや俺が見えるとか!?
自分が透明ということで完全に油断してした。
「今、そこン草動かなかったか?」
ホッ……やはり俺の姿は見えないらしい。今俺の姿はほぼ丸出しの状態、透明じゃなかったら即バレするレベル。
「気のせいじゃないすか?」
「気のせいじゃないですよ、俺はここにいます」
「……は?」
男たちは何が起こったのか理解できず、動揺したようすで固まる。
「警戒しないで、俺は無害です。ただ少し話したくって」
俺はなるべく優しい声音で話しかける。しかし逆効果だったようで男たちは素早くナイフを抜いた。
「誰だ!? 何者なんだ!?」
「お、落ち着いて、俺は人間です、ただ身体が透明なだけの」
「と、とうめい……?」
男たちはまだ理解できないようなので、俺はさらに踏みよることにした。すると男たちはバッ! とこちらを見た、やっと俺の居場所が分かったようだ。
「……おい、お前いけ」
「え!? ライカさんいって下さいよ!」
「黙れ! お前下っ端だろ!? ライカさんに従え!」
ヤセはチビに特攻させるようだ。とりあえずヤセの名前はライカと言うらしい、ライカがボスか。
「わ、分かりましたよ……」
不満げにチビは前に出てきた、その視線は俺の足、正しくは俺が踏んでいる草に向けられている。そして慎重に手を伸ばす。
俺はその場に立ち止まりその手が触れるのを待った。そして――――。
「います。ここに何か――――!」
チビは手が俺の足に触れた瞬間振り返りライカとデブに叫んだ。それを聞いたデブは驚いたがライカは冷静に質問した。
「それはホントに人間か?」
するとチビはベタベタ俺の身体を触り始める。
おい止めろくすぐったい。
足から腰腹胸頭と全身調べられる。
「は、はい……触った感じ、裸の人間です」
「マジかよ……マジもんの透明人間なんているのか!? てか裸!? よく触れるな!?」
デブの発言を踏まえれば、やはり透明人間は一般的なものではないらしい。ここは少し嬉しい、だって転生までしたんだから特別でいたいじゃん? あと裸に触れるな。
「おい透明人間、お前話がしたいらしいな」
いきなりライカが俺に話しかけてきた。
「あぁそうです」
「そぉか、俺もお前に触ってみたい、そっち行く」
ライカはそういうと俺に近寄って来た。
「いいですよ別に」
俺が言うとチビはライカに譲るように俺から離れた。次の瞬間、想像以上に強い力で肩を触られた。思わずびっくりしてしまった。
「……ホントに透明なんだな」
「そうでしょ――――」
俺が答えようとした瞬間ライカは高速で手を滑らせ俺の首を絞めた。
「ガッ!? ……うグッ――――」
そして絞められたまま背後の木に叩きつけられた。
苦しい、首を絞められるとこんなにも苦しいのか……! 痛い苦しい息できない、死ぬ!!
「こいつ馬鹿だぜ、わざわざ利用されに来やがった」
ライカは俺の首を絞めたままチビとデブに話しかける。
「そこに透明人間がいるのか!?」
「利用ってまさか……」
「そうだ、こいつに最初に行ってもらうことにした」
さ、さいしょ……?
俺は暗く霞んでいく視界の中、そんなことしか考えられなかった。息ができない、酸素が足りない。
「おいなんとか言えよ、聞いてんのか?」
ライカは低い声音で脅すとさらに強く俺の首を絞めた。しかし俺は答える余裕など無く結局沈黙という回答をしてしまった。ハンター試験か。
「ライカそれ絞めすぎなんじゃ……」
ライカの背後からデブが引き気味に止めに入る。
「あ? あぁ悪ぃ悪ぃ、透明だからわかんなくてよ」
ライカはそう言って首から手を離した。俺は遠のく意識に耐えられずライカにもたれかかるように倒れてしまった。
「あ? おいおい大丈夫か? 気絶してるわけねぇよなぁ」
ライカは俺の肩を掴み、立たせようとする。
なにこいつ……飴と鞭? DVの素質あるな、もういいや……このまま気絶したふりで乗り切ろう。
「寝てんじゃねぇぞゴラ!!」
いきなり髪を掴まれ再び木に叩きつけられた。(凄い痛い)
「殺されたくなきゃ従え!!!!」
「し、し従います!!!!」
こいつを一言で表すならば、『ヤクザかよ』だろうな。なんてふざけてる場合じゃない!思わず言っちゃったし……。
「……よし、裏切ったら殺すからな」
ライカはそういうと俺の髪を引っ張り移動し、草をかけ分けると、そこには踏み固められた綺麗な土の道があった。
「あれを見ろ」
ライカはその道の右方向を指す、そこにはなにか、四角い物と正体不明の生物がいた、その丸まった生物を一言で言うなら、『恐竜』だった。大きく発達した後ろ足、馬よりも太い筋肉質の胴体、尖ったくちばし、昔よく見た恐竜に近い体だった。
「今からあれに特攻しろ、近づいて何もなければ帰ってこい」
「わ、分かりました……」
「裏切ったら殺すからな、逃げるなよ」
ライカは俺の掴んでいる髪を見ながら言った、やはり俺の姿は見えない、それがせめてもの救いだった。
「……はい」
「行け」
そういってライカは俺の髪を放す。俺はその瞬間地を這うようにライカから離れる。一定離れてからゆっくり身体を起こし振り返る。
ライカは俺がどうなったのか分からず土の変化で必死に理解しようとしている。
ばーーーーーか!!!!
俺はなるべく土を動かさないようにつま先で走りだす。
誰が首絞めてくる奴の言うこと従うかよ! おいあいつバカだぜ!? 口約束ホントに信じてやがるww。
そんな感じでライカを煽りながら例の四方形に近づくとだんだんその全容が見えてきた。
「これ……馬車か?」
それは洋画やらマンガやらで見た、馬が部屋を丸ごと運ぶ乗り物だった。この世界では馬ではなくあの恐竜が引っ張っているようだ。
しかしその部屋は本当に部屋のようだった。小窓にはカーテンがかかっており壁はコンクリート製、屋根も付いている。扉も木製でできておりよく分からんドラゴンの模様が彫られていた。
「すげ……いやのんびりしてる暇ない」
俺はゆっくりドアノブに手を伸ばす。
――――最悪死ぬか―――― 。
その瞬間、ライカが最初言っていた事を思い出した。
「最悪死ぬ……。死にたくねー」
恐怖を意識しないようにわざと軽い口調で言う。震える足を押さえながら考える。
「正直逃げれる、ここでこの馬車を無視してどっか行くことだってできる、ここで最悪死ぬよりずっとマシだ……でも」
俺は少しの沈黙の後、ドアノブを力強く握る。
「――誰かの不幸は無視できないーー」
ここで馬車を無視したら、結局あいつらが来るかもしれない、そして最悪その反撃魔法がなければこれに乗る人は襲われてしまう、それは無視できないと言うこと。
まだ中に乗る奴が善人とも分からないのに。
「当たり前だろ、だから俺はまず『逢う』んだよ」
俺は自分の疑念を無理やりねじ伏せ、扉を思いっきり開けた。
―――――――――――――――――――
中は想像とは大きく違った。想定していたのは左右にソファーが備え付けられているものだったが、部屋にはソファーなどなく、ほぼ全てがベットで埋められていた。
ベットの上には角に寄せられたクシャクシャの薄い布や散乱した本がそこらじゅうに落ちていた。壁には棚がありびっしり太い本が並べられていた。
「馬車と言うよりキャンピングカーみたいだな……んで――」
俺は逆手で戸を閉めながら斜め下を見る。
そこには人が寝ていた。
あらゆる光を跳ね返すほどの純白の肩甲骨ほどの髪、整った稚拙美を感じる幼く丸っこい顔立ち、肌の露出が多い半袖の薄着の胸元から覗かれる豊満な胸、驚くほど白く細い腕と足。その全てが一つになることでまるで、女神のようだった。
その女はスースー寝息を立てて寝ていた。
「おい、起きろ」
俺は女の肩を揺さぶり声をかける。すると――。
「ん、んん……ふぁっ……」
女は小さく声を漏らしながらゆっくり目を開けた。
「おい起きろ、襲われるぞ」
「……それも悪くないです」
「は?」
女は虚空を見ながら呟くように言った。が、ゆっくり状況を理解し始めたのか半目で辺りを見渡した後不思議そうに自分の肩を見た。
「……? 夢……誰かに話しかけられたような――」
「夢じゃない、現実だ。そして俺は透明だ。とりあえず急いでこれ走らせてくれ、男三人がこれを襲おうとしている、こっちも殺すぞ宣言されてる身なんだ」
俺の現状と要求を簡単に言う。女は黙って聞き終えると口を開いた。
「そう、ですか。まぁこんな森の中でフォレスト家の家紋掲げてたら狙われて当然ですね……そしてあなたは特攻役をさせられたって訳ですか……惨め」
「あの、俺そいつらの仲間とかじゃないからな? 善良な一般人だからな? ボソッと言わないで?」
女は「あらそうですか?」と興味なさげに呟きながら俺の前を横切りベットの上を移動する。
「それより早く走らせてくれ、あいつらがくるかもしれん」
俺が言うと女は真顔をこちらに向ける、実際しっかり俺を見ているわけじゃなく、声が聞こえてくる方向を見ている感じだ。
「はいはい、今やってます」
女はテキトーに返事しつつ壁とベットの隙間に手を突っ込んだ、すると突っ込んだ隙間からほんのり光が漏れてくる。
「なにそれ、なにしてんの?」
「ファラウマはしっぽの先っぽで情報を読み取ります、だから手に思いを纏わせて握れば意思疎通が図れるんです」
「ファ? ウマ?」
俺は気になり隙間を覗く。そこには硬い表皮の尾が床から出ているのを彼女は優しく握っている、そして彼女の手は白い光を纏っており、その光は尾の先端から身体の方へ脈打つように流れていく。
「すげぇ綺麗」
「……そうですか」
彼女はそう言うとゆっくり手を離した、すると光はだんだん萎んでいき、ついに完全に消えてしまった。
「コレで走ってくれます、あと三秒、何かに掴まってください」
彼女は放置してあった乱れた髪を整えながら言った、そして――――。
「――――揺れますよ」
次の瞬間大きな揺れが俺を襲う。俺は慣性に耐えられず思いっきり転けた。
「痛え棚の角に頭ぶつけた!!」
「……」
無視された。
――――――――――――――――――――
「ここまで来たら大丈夫でしょう……大丈夫ですか?」
彼女は再びファラウマの尾に触れると揺れはしだいに小さくなっていった。
「揺れるとか掴まれとかはもっと早く言って? 俺にも準備ってもんがあるから」
「すみません、透明だったので……」
「それ関係ある?」
俺はぶつけた頭を摩りながら身体を起こし、ベットに座る。
「もう透明魔法解いてもいいんじゃないですか、結構離れましたし」
彼女はさも当たり前のように言った。
「いや魔法とか使えないから、透明なのは……生まれつき? みたいな」
俺が説明すると彼女は不可解そうに小首を捻る。
「そんなことあるんですか? あなた生まれは?」
うっ、出身地か……日本て言うか? うーん……。
「ま、まぁ……日が昇るところかな、東側」
「は?」
全然伝わらなかった。そもこの世界に日があるのかすら分からんぞ俺。
「……ま、言いたくないならいいですけど」
「そうしてくれると助かる、ありがとう」
「では名前は?」
名前か、今までの前世の名前でいくか思い切って改名するか。別に名前に不満があるわけじゃないが……迷うな。
「……まぁ、それは保留という事で」
「はぁ、姿も生まれも名前も分からない。……完全に関わりたくないタイプ」
彼女は俯きながら言った。
あの聞こえてますからね?
「んで、俺が言わないで聞くのもアレだけど、君の名前は?」
俺が質問すると、急に黙り出し動かなくなった。そして数秒後、やっと彼女の口が開いた。
「メアリー……メアリー・フォレスト・レンズです」
彼女は目を閉じ軽くお辞儀をするように言った。なんだか社交辞令みたいな口調だった。
「メアリー・フォレ……? うん、いい名前だ」
メアリーか、彼女っぽい名前だと思う。まだ全然メアリーのこと知らんけど。
メアリーはと言うと、変わらない半目で自分の指先を見ていた。いじいじ指いじりしている。
「驚かないんですね……察しがいいんですか?」
メアリーはそう、悲しげに呟いた。しかしいまいちなんのことか分からん。
「何に? なんかあった今?」
俺が聞き直すとメアリーは顔を上げた。が、視線はまだ下を見ている。
「フォレスト・レンズ……です、分かりますよねこの名前」
「え、ぜんっぜん分かんない、なにそれ」
「…………」
俺が言うとメアリーは動かなかった半目が少し開かれた、驚いた様子で絶句している。俺はハッと気づく。
「あ、悪い。なんか分からんが、これじゃ察しいいじゃなくて悪いな」
なにか不快にさせてしまったのだろうか。ここは異世界、何が相手の逆鱗に触れるか分からない。
「いえ、全然……分からないならいいんです……そのままで」
彼女はまた半目に戻ると俯きながら言った。その頬はどこか紅く染まっているように見えた。
「そうならいいが……で、折り入ってお話があるんだがいいか?」
俺がメアリーと逢い、この異世界で今一番やりたいことだ。
「な、なんでしょうか……」
俺は軽く息を吸い心を落ち着かせてからゆっくり告げた。
「メアリーの旅について行きたいんだ、同行させてほしい」
「いいですけど」
「そこをなんとか――え、いいの!?」
想像の何倍も軽く決まった。もっと渋る物かと思っていた。
「えぇ、でも一つ言うと――」
そこまで言うとメアリーは近くの本を手に取り、俺に向ける。
「私、旅人じゃなくて、家庭教師ですけど」
その本の表紙の字は読めなかったがおそらく教科書のような物なのだろう。
「あ、あー家庭教師、あーそうなのか……」
「はい、今これからの生徒さんの自宅に出向いてるところなんです」
「そうだったのか……しかしそれってその生徒に確認取らなきゃダメじゃん」
勝手に知らん透明人間ついて来てたらあっちだって怖いだろ。
しかしメアリーは特に気にしないようだ。
「ま、いいんじゃないですか? どうにかなるでしょう。最悪、あなたはいない体でいけばいいでしょ」
メアリーは平然と言った。
「そ、そんな軽いノリでいいのか? まぁいいなら俺もいいんだけども……」
「でももしそうなったとして、仮にバレても責任は負いませんからね」
あーそーね。そーゆーことね……勝手に着いてこい精神か、まぁメアリーにも保険はほしいか。そっちの方が俺も楽だ。
「分かった、絶対迷惑かけない、約束する」
「そう、じゃ私も約束します……」
メアリーはそう言うと、宙に手を伸ばし何かを探し始める。俺は理解できず眉を寄せる。
次の瞬間、その綺麗な手のひらは優しく俺の頬を包んだ。俺の心臓が跳ねる。
「――――あなたのことは、私が面倒見ます」
その距離の近さに戸惑ってしまい言葉がうまく出せない。
「あ、あぁうん……ありがとう……」
俺の言葉を聞いたメアリーは納得したそうに小さく息を吐いて離れた。俺は硬直していた体の骨が抜け、大きくため息を吐いた。
「はあぁぁぁ……お前、なんでこんなことすんの? 勘違いしちゃうだろ」
「すみません、でも透明なんだから仕方ないですよね、こういうのはあなたのことちゃんと見ながら言うものですから」
こいつ、意外といい奴なのかもな。まぁ分かっているが。
「確かにそれは同意だが……でなんで寝てんの?」
メアリーは全く俺を気にすることなく、最初と同じ体勢で寝っ転がる。
「眠いからです、私昼型なので夜中は活動できないんです……ふぁ……」
メアリーは天井につけられている電球のような物に手をかざす。すると光が一人でに消えた。魔法の力ってす、すげ〜……。
「あなたも寝たければどうぞ勝手に……」
「あ、あぁうん……寝られるかな……」
メアリーに誘われて俺も横になる。目の前にはメアリーの後頭部が見える。ちゃっかりメアリーの方を見て寝る俺、透明人間の特権てことで。
「てかお前男と関わったことある? あんなことされたらウブな子はコロッと落ちちまうぞ」
「まるで自分はそうじゃないみたいな言い方ですね、ありますよ男ぐらい」
メアリーは小さい声で言い返してきた。
「別にそういうわけじゃないけど……一応アドバイスってことで」
「アドバイスって……安心してください、こんなことしたの、あなたが初めてですから」
「そう言うことを言ってるんだよ俺は?」
全くこいつなんでこんな意識しちゃうこと言うんだよ……。
「そ、まぁいいので寝ましょうか」
メアリーは寝返りを打ち、さらに丸まる。俺は寝たい人にこれ以上構うのは気が引け、寝返りを打ち天井を見る。
「でも裸で寝るとか、初めてだな……」
「は? 裸なんですか?」
独り言のつもりで囁いたが聞こえてしまったようだ。
「ま、まぁそうなんだよ……生まれつき……」
「はぁ……変なことしないでくださいね、もししたら殺します」
「重っ……罰重ない? もっと命を大事にしようぜ……いや変なこととかしないけど」
「賢明です」
メアリーはそう言ってからはお互い無言になった。特段話すこともなかった。
寝ている間にもファラウマは少しずつ進む。ほんの少し振動するベットの上でメアリーは激しく鼓動する心臓に手を当てながら、呟いた。
「どうしてもって言うなら……いいですけど――」
メアリーは激しく後悔した、なんでそんなことを言ってしまったのか。頬がさらに紅く染まっていくのが自分でも分かる。
しかしいつまで経っても返事はなかった。メアリーは痺れを切らし声を出した。
「あ、あの……――」
それでも返事はない。メアリーは不審に思い耳を澄ます。
「すー……すー……すー……」
「………………寝てる」
歩き疲れ考え疲れ、すでに体力の限界だった。
メアリーは安堵しつつ少し悲しいという複雑な感情で再び横になった――――。
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