第一話『邂逅:謎ノ女』

 大久保公園前。

 京都の鴨川かもがわよろしく等間隔で立つ、露出度高めの女たち。


 "売春防止法違反立ちんぼ"と思われる。


 一人の中年男が通りがかり、女たちを眺めて品定めする。

 とりわけ上玉の女に、引き寄せられる。


「お姉ちゃんかわいいね。いくら?」

「おじさん、それは単刀直入ストレート過ぎない? 私は"10"よ」

「え、10マン? そりゃ足元見過ぎだよ」

「違う。10じゃないわ」

「あ、もしかして、"10kじっせん"の方? こんなかわい子ちゃんと、それはラッキー! 乗った!」

「違う、10kじゃない」

「なに、じゃあ"10"ってのは何だい?」

「"10"は、"10"よ。9と11の間の"10"。二桁の数字」

「おいおい揶揄からかうのはよしてくれ、こちとら一応軍資金5マン持ってきてる──」

「それなら、5000回ね」

「は? もしかして本当に……10って言ってる? よっぽどの訳アリか?」

「訳が、無いとは言えない。でもあなたには、いい話でしょ?」

「ちなみに10円でどこまでいけるんだ?」

「カフェでお話しするだけよ。こんな美人とお話しできるなら、十分でしょ? 10円なら」

「うーん……謙虚なのかどうだか、よくわからないなぁ、きみ」

「謙虚ではないわ。10円でも、お金を要求しているのには変わりないもの」

「変わったた子だな……。で、お話って、どこで? カフェ? さすがにカフェ代くらいなら出すけど?」

「うん、カフェね。でも、自分で出すわ。お互いに自分の注文は自分で支払いするの。私とお話しするのに10円。どう?」

「わかった、じゃあそこの……スターファックスコーヒー、行こうか」

「そうしましょう。ところで……あなた家族は?」

「え、なんだ急に」

「家族は?」

「えーっと……妻と……娘だ」

「へぇ。仲は? いいの?」

「え、あー。あんまり、よくないな」

「だと思ったわ。これ、私の連絡先。この先、気晴きばらししたかったら、いつでも呼んでくれていいわよ」

「そ、そうか……ありがとう。じゃあ、スターファックス、行こうか」


 カフェに入ってからも話は弾み、それ以来……


 男はその謎の女にぬまった。

 二度目、三度目、四度目……と会う回数を重ねるにつれ、の十円は、百円、一千円、一万円……と上がっていく。この、要求の段階的吊り上げ手法フット・イン・ザ・ドア・テクニックなるものは非常に恐ろしいもので、男は遂に謎の女に会うための資金が尽き……


 これまでに娘から預かった、大事な大事なお年玉に手をつけてしまうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る