第6話「決断のとき」
最終面接の日。
涼太はいつもより早く目を覚ました。緊張で眠りが浅かったが、それ以上に高揚感が彼を突き動かしていた。今日は自分の人生を左右する大きな日だ。
「これまでやってきたことを信じるしかない……。」
鏡の前でネクタイを締め直し、涼太は静かに自分に言い聞かせた。
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会場となる企業のオフィスは、前回訪れたときよりもさらに活気を感じさせた。受付で案内されると、最終面接の場は広い会議室で、重厚感のある雰囲気が漂っていた。
面接官は3人。人事部長、事業部責任者、そして社長だ。
「神崎さん、改めて本日はお越しいただきありがとうございます。」
最初に口を開いたのは社長だった。落ち着いた声と厳格な表情に、涼太は自然と背筋を伸ばす。
「こちらこそ、お時間をいただきありがとうございます。」
涼太は静かに頭を下げた。
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面接が始まり、これまでの職歴や志望動機について質問が進む。涼太は準備してきた答えを落ち着いて述べたが、次第に質問は核心に迫るものとなっていった。
「神崎さん、これまでのキャリアを見ると、挑戦的な仕事を避けてきたように見えます。それが今回、この会社を志望するにあたり、どのように変わったのでしょうか?」
社長の鋭い視線が涼太に注がれる。これまでの面接ではあまり触れられなかった、自分の弱点とも言える部分だ。しかし、涼太は逃げずに正直に答えることを決めていた。
「おっしゃる通り、過去の私は挑戦を避けてきました。それは、失敗を恐れ、自分に自信を持てなかったからです。しかし、その結果、人生で多くの後悔を抱えることになりました。今はその経験を糧に、たとえ失敗しても、前に進む覚悟ができています。この会社で新たな挑戦をすることで、自分の限界を超えたいと思っています。」
面接官たちは真剣に耳を傾け、静かな沈黙が流れた後、社長が口を開いた。
「失敗を恐れるのは誰にでもあることです。ただ、挑戦の中で何を学び、次にどう生かすかが重要だと私は思います。神崎さんがそれを理解しているのであれば、この会社での活躍を期待したいですね。」
涼太はその言葉に小さく頷き、手に汗を握りながら最後まで集中力を切らさなかった。
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面接が終わると、涼太は会議室を後にし、オフィスビルの外に出た。緊張から解放された彼は、大きく息を吸い込んだ。
「これで……やるべきことはやった。」
手応えはあったものの、結果がどうなるかはわからない。それでも、自分の全力を尽くしたことには満足していた。
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その夜、涼太は自宅で真奈美に電話をかけた。
「真奈美、最終面接終わったよ。」
「お疲れ様! どうだった?」
「正直、うまくいったかはわからない。でも、全力で伝えたよ。」
真奈美はその言葉に優しく微笑むような声で答えた。
「それが大事だよ、涼太。結果はどうあれ、涼太は一歩進んだんだから。」
真奈美の言葉に励まされ、涼太はその夜を穏やかに過ごした。
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翌日、涼太のスマートフォンが鳴った。画面に映った「圭介」の名前を見て、彼は緊張しながら電話に出た。
「涼太、結果が出たぞ。」
圭介の声はいつになく真剣だ。涼太は息を呑みながら答えた。
「……どうだった?」
「おめでとう、採用だ! お前、やったな!」
その瞬間、涼太の目に涙が滲んだ。10年前に諦めた夢を、今の自分が掴み取ったのだ。
「本当に……ありがとう、圭介。お前がいなかったら、ここまで来られなかったよ。」
「お前が頑張ったからだよ。さあ、これからが本番だぞ!」
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電話を切った涼太は、未来への新たな扉が開かれたことを実感した。過去を変えることだけが目的ではなかった。このやり直しの人生は、未来をつかむためのものだったのだ。
「ここからが、本当のスタートだ。」
涼太の心には、希望と決意が強く刻まれていた。
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