とくべつな人

マイペース七瀬

第1話

 2025年1月。

 ここは、東京都調布市。

 新宿駅からは、京王線で20分で来るところだが、たこ焼き店で、仕事をする30代の店員ユウイチは、何だか居たたまれない気持ちになっていた。

 今日は、晴れている。

 そして、今日の売り上げは、まあまあだった。

 近所に神社があって、その参拝客が、帰りにチラホラ買ってくれる。

 ユウイチは、ここのたこ焼き店で仕事をして、もう5年が経過している。

 たこ焼き店は、大阪が本社なのだが、関東にも進出していて、結構、人気はある。

 ユウイチは、大学を卒業してから、会社員をしていたが、身体を壊して、今のたこ焼き店で、仕事をしている。

 主に、たこ焼きを焼いている。

 去年の4月に正社員になって、今も頑張って仕事をしている。

 ただ、前の会社では、上司と口論になって、ユウイチは、解雇になった。

 そして、ユウイチは、もう会社員の仕事はしたくないと思って、食べ物に興味があると思って、今の仕事に、バイトから入った。

「ソース青のり一つ」

 とお客さんは、言った。

「はい、ソース青のり一つですね」

「はい」

「お客さん、ところで、カツオはかけますか?」

「はい」

 といった具合で、いつもやり取りしている。

 お店の中には、飲食するスペースのある。

 たこ焼き以外に、お好み焼き。それと、焼きそば。

 そして、関東の人向けにもんじゃ焼きもある。

 そして、そんな熱心な仕事ぶりをみて、店長は、ユウイチに、

「少しは、休憩したら?」

 と言った。

 ユウイチは、今時の若者には珍しくガッツはある。

 そして、頑張ることを厭わないユウイチは、正社員になった。

 ただ、今日は、ユウイチは、彼女と、今は口を利いていない。

 彼女、とは、サヤカと口を利いていない。

 そのまま、店内から、外を見たら、『ゲゲゲの鬼太郎』のグッズの帽子を被った子供。

 羽織袴を着た男性。

 サヤカは、いつも、一緒に遊んでいたのだが、急に、山梨県へドライブに行くとか言っていた。

 それは、寂しいことやらまたは、他の女性と一緒にいることを悔しい気持ちになっていた。

 そして、今日は、午前中で仕事が終わって、家に帰った。

 職場のたこ焼き店から、徒歩で20分のところだった。

 寂しいなぁと思った。

 部屋で、ほとんど、観ていないテレビをたまにはつけてみた。

 駅伝が放送されていた。

 ユウイチだって、学校時代、200m走で一位を取っていた。

 だから、脚に自信があった。

 しかし、高校2年生の時、練習のし過ぎで、脚を痛めて、整形外科に入院して、陸上選手は、それで、終わった。

 クラブ活動は、それで終わった。

 そして、高校3年生になったら、今度は、受験勉強をして、東京の私立大学に入学した。

 理科系のクラスに入った。

 化学の実験をしていた。

 そして、大学を卒業してからは、化学工場で仕事をしていたが、健康診断で、甲状腺に異常が見つかり、仕事は、辞めた。

 仕事をやめて、それでも、生活するために、家の近所にあるたこ焼き店で、バイトをしていて、今の会社に正社員になって、仕事をしている。

 バイトだった時に、客として来ていたサヤカと知り合って、たまたま、LINE交換をしたら、今に至っている。

 それは、サヤカが、アルコールに酔って、お店で仕事をしていたユウイチのエプロンを汚したからだ。

 少し、思った。

 ユウイチは、サヤカみたいな彼女が、女性であっても、他の人と一緒にいてほしくないとか思っていたのだから。

 男性と一緒にいるわけではなかった。

 今日は、学校時代の女性の友人たちと、山梨県へ行くとか言っていたなぁと思う。

 テレビを観たら、音楽番組が、流れていた。

 ユウイチの好きなバンドだが、どうも音楽を聴いても、元気が出ない。何だか訳の分からない気持ちになってきたときに、ユウイチは、自分がしているⅩも身が入らなくなってきた。

 思えば、この3年何をしていたのだろうか、と思った。

 静寂している部屋の中で、ポツンとサヤカの写真を観ていた。

 そして、LINEを観てみた。

 ここで、どうしようかと思った。

 LINEで、電話しようと思った。

ーもしもし、サヤカ?

ーあけおめ!

ーうん、あけおめだよな。

ーどうしたの?こんな時間に

 困ったなぁと思った。

 いや、本当は、サヤカに会いたいとか思っていても、何て言えば良いのか、分からない。

ー今日、山梨から帰ってくるんだろう

ーそう

ー今日さ、帰ってきたら、うちに来ない?

ーうちって、どこ?

ーオレの仕事をしているたこ焼き、たこ焼き、安くおまけするからさ

ー正月から、たこ焼き?

 と投げやりなサヤカに

ーもう良い!

 とユウイチは、怒ってLINEを切った。

 次の日だった。

 東京大手町から、箱根駅伝が、始まっていた。

 1月2日。

 今日も、仕事だった。

 午後12時だった。

ーすみません

ーはい

ーたこ焼き一箱。ネギ入りで

ーはい

 と言ったら、そこにサヤカが、いた。

 少し、恥ずかしそうに。

 だが、ユウイチは、そこにたこ焼きを一箱、作った。

 焼いたたこ焼きは、いつもより5個多めに入れたのだった。

 

 

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