新年の夜明け

@riiiiii77

新年の夜明け

「あけおめ。」

 

 時刻は0時ちょうど。新年の恒例行事のあけおめLINEが送られる。コピペのような簡単なメッセージで対応するが、失礼ではないだろう。

 送られたLINEにあらかた返信し、漏れがないことを確認するためにトーク一覧を見た。そこには送信済み1分前と書かれたトーク欄が大半だが、1つだけ送信済み5時間前の表示がある。



 自分には好きな人がいる。

 高校に入学し、新しい部活に入るとその人はいた。髪は首に届かないぐらいのショート、マスクをしていたから顔全体はわからないが綺麗な黒い目をしていた。周りの女子と比べて特段可愛いわけではなかったが、俺はいつの間にか意識し始めていた。

 すれ違ったときはずっと目で追ってしまうし、声が聞こえただけでそっちを見てしまう。やめようとは努力しているものの体がいうことを聞かない。そこで俺はあの人のことを意識していた、好きだということを知った。そのことを知ったのは夏休み前だった。


 俺は部活でのアドバイスを口実にその人のLINEを登録した。それからは部活にまったく関係のないことも頻繁に話すようになった。

 

 夏休み中に一度だけあの人と出かけた。俺の住む町は田舎だったから遊べるところは無く、電車を使って他県に行った。電車で隣に座って話したときが今までで一番楽しかったと思う。

 停車駅の目の前には大きなショッピングモールがある。中に入るとあの人が「ゲームセンターに行きたい。私の実力見せてあげるよ。」と言った。ゲームセンターに行くと真っ先にクレーンゲームをやり始め2,3回コインを入れれば景品は手の中にあった。何回かクレーンゲームをやって飽きたのか次はレースゲームをやり始めた。定番のものは俺もできるので対戦したが手も足も出なかった。悔しい気持ちが湧き出たが、あの人の勝ちの笑顔を見ると自分のことなんてどうでもよく思えた。

 その後はフードコートでお昼ご飯を食べ、服屋さんを少し回り、日が暮れ始めたので行きと同じ電車で帰った。

 帰りの電車はお互い疲れていたので口数は少なくなっていたが、相変わらず隣に座ってくれた。


 それからというというと部活が忙しくなり土日はほとんど潰れてしまった。また、遊びに行きたい気持ちはあるが、そんなことも言い出せずに冬休みに入ってしまった。


 冬休みに入りLINEを何度か送ったが明らかにあの人のに返信が返ってくる速度が夏よりも遅くなっていた。夏のときは長くても1時間以内には返ってきていたが、冬休みは長いと5時間も返ってこないときがあった。

 もしかしたら嫌われてしまったかもしれない。

 しかしそれを知る術もあるわけ無く、モヤモヤ感をやどしたまま大晦日を迎えた。


 テストが終われば『お疲れさま』、熱で部活を休んだ日は『大丈夫?』。

 なにかしら自分を気にしてくれるLINEを送ってくれた。

 いつものあの人なら年開けは『あけおめ』を送ってくると思っている。



1月1日0時20分

 あの人のあけおめLINEはまだ来ていない。

 年を越して20分。友達と話しているかもしれないが20分何も起こらないということはLINEが来ないと思っていいだろう。自分から送ってもいいが返信は期待できないだろう。

 嫌われてしまったのだろうか。なにか気に障ることをしてしまったのだろうか。ここまでの8ヶ月間のことを振り返ってみるがそのようなことはしていないはずだ。それか自分が気づいていないだけか。


 LINEは来ないとは思いつつも、もしかしたらと思って1時間待ってみるも何も送られなかった。


 明日の朝には貰えるかもしれないというほぼないと思われる期待を抱き一応LINEの通知音をONにして布団に入った。



1月1日6時26分

 布団の横に置いておいたスマホから朝の晴れやかさと共に、LINEの通知音が鳴った。


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