ブルーフルーツは月より甘く

茂流

1話 序章 青い花

 煌々と輝く満月の光に照らされて、その蕾は絡み合う指先がほどけるが如く、ゆっくりと開き始める。


 開いた蕾から覗く青い花びら。その一枚一枚に織り込まれた命の記憶をたどりながら、彼の花びらは月の光をその身に受ける。


 やがて咲き誇る青い花。満月のもとで満開となった彼の花は、夜を重ねて月齢が細くなるにつれて枯れしぼみ、新月の夜に小さな青い果実を実らす。


 ブルーフルーツ。


 この果実は世界中に分布されていると聞くが、実物を見た者は何故か固く口を閉ざす。それ故に、知る人ぞ知る伝説の果実と言われ、ここ日本では青月果とも呼ばれている。


 この果実を伝説化させている理由は、もう一つ存在する。それは果実を実らせた者の願いを、果実を食した者に具現化させることができるという、伝承の存在だ。


 今宵は新月。天からの光なき夜の街は、人の光で賑わう。喧騒の闇の中、月の光と人の願いを蓄えたブルーフルーツは、今夜もその甘い果実を実らせているのであろうか。

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