小生、社交場にて
枕火流
社交場にて
この瞬間をどれほど待ち望んだか、記述できない。この種の快感は世界広しといえども、ここにしかない。頭の先から足の指先までなんだかホワホワとして、ヒリヒリする。白く靄がゆらゆらと視界を通過してゆく。
ザブンという音と共に、横に入ってくる者がある。彼ははあ、と言ってタオルを頭に載せるとじっと目を瞑ってしまった。これがまた良い。独りではないのである。白い靄を通してみると、そこには4.5人がいる。みんな、何をするでもなく、しないでもなく佇んで、目を瞑ったりしている。またザブンという音がなった。右前からである。見ると、人が1人消えている。それでも残りの人たちはじっと構えている。何も考えていないようであり、哲学者のようでもあった。
私もはあ、と言って目を瞑ることにした。視界は塞がるが、微妙に波音が振動してきてそこに人がいることは把握できる。
ザブという音がした。大きな波音が皮膚を叩いた。また1人が抜けていったらしい。
私はいつも主体であるように感じる。誰か私のことを気にかけてくれた人があろうか。私のことを真剣に考えてくれる人があろうか。私がいなくとも世界は回るだろう。もしひっそりとこのまま溶けてしまっても誰が気がつくだろうか。
さっき抜けた人はどのような人なのかと考えた。私とは違い、明るい顔をしていた。今から友や家族と酒でも飲むのだろうか。恋人はいるのか。薬指に指輪をしていた。おそらくいるらしい。羨ましい。そう思った。
知らぬ間に時間が経っているらしい。体がほてるように熱い。私はタオルを手に取った。
ザブンと音がなった。(あ、ザブンと音が鳴ったな)と思った。
小生、社交場にて 枕火流 @makurabiryu
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