DIE2話 弓矢の女その5
矢邊亞弓(やべ・あゆみ)は弓をつがえたまま、じっと待っていた。
「そろそろ出てくるんじゃない?」
ガンハンドマンがバルコニーに出た瞬間、“疾風の弓矢”を放つつもりだ。こちらの姿を発見されない内に狙撃すれば、確実に射殺せる。
「むう?」
胸元のケータイが振動する。彼女は一旦矢を消してケータイを取った。
「もしもし! 部屋から血まみれの男が出てきたッス。女の子が肩持ってるッス」
軽い口調の男の声だ。彼はガンハンドマンが逃走した時のために、亞弓が1日1万円のブラックバイトで雇った男だ。今までずっと、ガンハンドマンのマンションの廊下側を監視させていた。
「男の意識はありそう?」
「うーん。ずっとうつむいてて生気ないッスねぇ」
「傷はどこ?」
「左の脇腹が真っ赤ッス」
世界トップクラスの殺し屋と聞いていたが、あまりにもモロ過ぎる。彼女は何かの罠かもしれないと、緊張の糸を張ったまま聞き続ける。
「あっ! エレベーター使って降りたッス。きゅ、救急車も」
「救急車?」
電話口から救急車のサイレン音が聞こえてきた。
「そのまま担架に運ばれていくッス」
「もういいわ。ありがとう」
彼女は電話を切って、弓を衣装ケースに入れた。どうやら、ガンハンドマンは同居人の通報で病院に搬送されたようだ。SNSで救急車と検索すれば、どこへ向かうかすぐ分かる。
「今夜がガンハンドマンの最期ね」
彼女は般若の面を外して、静かな笑みを浮かべた。
(続く)
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