エピローグ②
「「さ、さ、最後に一つだけぇ、いいですかぁっ⁉」」
ハイメに言い寄られてタジタジ、という様子の二人のマナオたちが、誤魔化しのようにそんなことを言う。
「こ、これは、マナオ②の分の、本当に本当の最後の、『最後に一つ』ですぅ!」
「そんなの……あとにしましょうよ?」
攻めてくるハイメを無視して、一方的にマナオたちは尋ねる。
「こ、これまで城鳥さんはなぜか、『自分のドッペルゲンガーのことを識別できている』みたいでしたぁ!」
「け、今朝の朝食のときぃ、城鳥さん①のあなたは、倒れたのが②だとすぐに分かったようでしたぁ!」
「どういう系が好きなの? あなたを攻略できる選択肢を、聞かせてよ?」
「②さんと共犯関係だった③さんなら、それも無理ないですぅ! で、でも、そうではなかった①のあなたに、どうして、倒れたのが②だと分かったのですかぁっ⁉」
「えぇ?」
「だ、だって、あのときあの場には、自分以外に②と③の二人がいたのですから、③が倒れたという可能性もあったでしょぉ⁉」
「そ、それ以外にも……これまでの城鳥さんたちはいつも、自分以外のドッペルゲンガーが①②③のどれなのか、を知っているようでしたぁ!」
「ボ、ボクたちは、見た目がそっくりな自分以外の自分たちのことを、何番なのか分かっていないことが多かったのにぃ⁉」
「ふ……」
「ああ、そんなこと」という顔をつくるハイメ。
「それは、当たり前でしょう。……っていうか、気づいてなかったの?」
「あぇ?」
「気づく、って……何をぉ?」
「ふふ……。あなた、すごい推理力なのにそういうことは苦手なのね? っていうか、女の子なんだからもう少しおしゃれにも興味もちなさいよ」
「お、おしゃれ……ってぇ?」
怪しく微笑みながら、ハイメはその「理由」を教えた。
「私たちはね、二日目に三人に分裂したあと……『着る服の担当を決めて』いたのよ」
「ふ、服ぅ?」
「だって私たち、性格がまったく同じドッペルゲンガーだったのよ? だから、朝起きて考えることも、服の趣味もまったく同じ。何も対策しなかったら、三人の選ぶ服だって毎日同じになってしまうでしょう? ただでさえ同じ顔なのに、さらに三人とも同じ服を着ているなんて、最悪じゃないの。だから、自分が増えたときに服も三倍になったことを利用して、同じ服を同じ人物に集めたの。『同じ人物が毎日同じ服を着れる』ようにね」
そこでハイメは、自分の白いブラウスとスカートを指差す。
「①の私は、二日目から今日まで、いつもこのブラウスとスカートを着ていた。それに②は、ライトブルーのワンピース。③は、カーディガンとデニムパンツ……って感じでね。だから、今朝ワンピースを着た城鳥ハイメが倒れたときに、①の私は、それが②だとすぐに分かったってわけ」
「な、なるほどぉ……」
「ふ、服がぁ……」
アニメや漫画のキャラクターでもないのに、この真夏の時期に「毎日同じ服装」なんて。本来なら、そんなこと出来るはずがない。だからルアムやミエリたちなら、ハイメ①②③たちが同じ服三着を一人に集めて、それぞれが毎日同じ服装をしていたことには、気づいていただろう。それに気づかなかったのは、この合宿中ずっとアニメ柄Tシャツで、ファッションに興味がなさそうなマナオくらいのものだったのだ。
そんな彼女に、ハイメはまた嫌らしい手を伸ばしながら……頭の中で考えていた。
そうね。
そう、なのよね。
私たちは、三人で毎日着る服をきめて、お互いがお互いを区別できるようになっていた。だから、私たちが自分たちのことを見間違えることはなかった。
……でも、それって逆に言えば。
二人の自分が協力して、本来自分が着るべきだった服を交換していたら……それだけで、残ったもう一人の自分を騙せる、ってことでもある。
例えば。
今朝、朝食にやってきた①と②が実は、着るべき服を交換していたとしたら?
あのときは、事件の主犯だった③との事前の打ち合わせ通りに、死を受け入れた共犯者の②が、毒の水で作ったカップ麺を食べた……ように思えた。
でも実は、そうではなかったとしたら?
「16を言ってはいけないゲームと同じ遊びだ」なんて言って。「3本目のペットボトルに、唐辛子エキスを入れるイタズラをしている」なんて言って。
本来は②が着るべき服を着た①に、毒の水でつくったカップ麺を食べさせていたとしたら?
だって……私、何度も言ってたわよね? 「自分」のことが殺したいくらい嫌いだ、って。
そもそもドッペルゲンガーって、本物の自分を殺して、なり代わってしまうんじゃなかったかしら?
「ふふふふふ……」
そんなことを考えながら、その「ハイメ」は、妖しく笑うのだった。
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