瑞穂さんは今日も竹刀を振る
@compo878744
第1話 古家付き
「下宿先はここにしなさい。」
大学共通テストと二次試験を無事通過して、合格通知を前にホッとして座り込んでいる僕に、父さんはおめでとうも言う前に1葉の写真を突き出してきた。
「あと、これも。」
開封していない内容証明郵便が、祖父と何やら見た事の無い名前の人の連名で届いていた。
誰ですか?この人。
「お前が合格したら渡せと、爺さんに言われていたんだ。横にある名前は、俺からすると従兄弟に当たる人だ。弁護士を生業としている。」
「弁護士。はぁ。」
そんな人がうちの親族にいたんだ。
父さんの従兄弟だと、どんな関係なのかもわからないけど、結婚式や葬式であった事があるかもしれない。
余談だけど、うちの両親は、共に小学校教諭。
公務員。
どちらも温厚な人で、釣られる様に僕も呑気な性格に育ってしまった。
地元の国立大学を進路に選んだのは、自分の偏差値に丁度良かったから。
早稲田や慶応は、頑張ればなんとかなったかもしれないけど、それじゃ早稲田に行って学びたい事があるかって言われても何にも無い。
滑り止めに専修や法政を選んだ通り、本当に何にも考えてない。
自宅から通える大学を選んだだけだ。
合格した国立大学だって、私学よりは授業料が安い(公務員夫婦の息子だから、金が無いわけじゃないだろうけどね)のと、都心のキャンパスに通うよりは通学が楽(座って行ける)だろう。
親が教師だから、教育学部とかどうだろう。
とか。
別に父さんも母さんも、教師になれとか一言も言ってないよ。
ただやっぱり、学校の先生ってのもあるのかなぁと、なんとなく思っただけだ。
しかし。
下宿?
大学はうちから私鉄で1時間ちょいだ。
路線は変わるけど、乗り入れをしているから乗り換えの必要もない。
「あの?ここから通っちゃいけないの?」
「先ずはその封筒を開けなさい。」
「はぁ。」
仕方ない。
ソファに腰掛けると、鉛筆立てからペーパーナイフを取り出した。
どれどれ。
「大学合格おめでとう。スペインから孫が来るから面倒を見てくれ。家を一軒買っておいたから、一緒に住め。家はやる。」
…………?
何これ?
頭からクエスチョンマークを盛大に溢しながら、手紙を父さんに渡した。
父さんはチラリと目を通すと、直ぐ封筒にしまって僕に返して来た。
「一応、事情は聞いてるよ。たしかにこの通りだ。」
「孫って何?僕が知ってる限り、うちの妹と、叔父さんのところの盛之君ぐらいしか知らないけど。まだ隠してたの?」
「孫は孫に変わりはないが、爺さんの姉の孫だ。」
また微妙に離れてるな。
何等身離れているんだろう。
「爺さんの姉さんは、一家でスペインに移住してるんだ。日本の俺らとは縁遠くなってるわな。俺が最後にあったのは、母さんとの結婚式の時かなぁ。」
「うちの一族の秘密を、ここ5分でたくさん知らされたぞ。」
「まぁお前ももう成人だし、いずれは教職も考えているんだろう?」
「まだ何にも決めてないけどね。教育学部に入るからには教員免許は取りますよ。」
さりげなく自分の進路を父さんに宣言しながら、父さんがくれた写真を見てみる。
ええと。
「なんか立派な瓦屋根なんだけど。あと、屋根が高い。」
「まぁ、元は農家だしなぁ。」
「あと、なんか広い!」
「建坪だけで60坪あるからなぁ。」
「少し見えてる庭に大きな銀杏が見えますけど?」
「それは庭から北に向けて撮った写真で、レンズのこちら側は池と築山があるなぁ。」
「この家より広くて大きいんですが?」
「この家は、俺が30の時に爺さんから援助を受けて買った建売だからなぁ。平成3年築で、当時3,000万円。繰上返済を頑張ったから、一昨年払い終わったんだ。良いなぁ、お前はただで家が貰えるんだ。」
「いやいやいやいや。」
いやいやいやいや。
いやいやいやいや。
無いから。
だから僕は18歳で、再来月から大学1年生なお子様で餓鬼で世間知らずだから。
「因みにお父様?この家はどこにあるんですか?」
さっきも言った通り、父さんも母さんも温厚な人で、小さな頃から怒られた覚えが、僕にも妹にも無い。
怒らないから、逆になんか怖かったし、なんでも自由にやらせてくれたから、自分の行動に責任を持たざるを得なかった。
だから、時には、こんな軽口を実の父親に利けるわけですよ。
「あぁ、場所は◯◯市の◯◯駅から歩いて10分もかからないな。」
「…我が家から見ると、大学の先なんですけど。」
「通うのに近くなるだろ。」
「そう言う問題ですか?」
「まぁ、固定資産税と生活費くらいは送ってやるよ。光熱費も請求書をこちらに送る手筈はもう付けてある。家が広いからって、電気を付けっぱなしにするなよ。」
「そう言う問題ですか?」
「あと、孫は来週来るから。そのまま引越ししてもらう。お前も2~3日中に荷物をまとめて引越しなさい。」
「そう言う問題ですか?」
「あと、孫は15歳の女の子だから。」
「そう言う問題で…はぁぁぁ?」
いやいやいやいや。
いやいやいやいや。
いくら親族でも、知らない女の子と同居しろと?
同棲しろと?
「あぁ、これだけ血が離れていれば、結婚も問題なく出来るぞ。子供も大丈夫。」
「あんた何言ってるの?」
父さん、もとい親父にタメ口を初めてきいたけど、もう少し後にもう少しまともな事でいいたかった。
★ ★ ★
3日後。
僕は本当に屋敷で呆然としていた。
平家とはいえ、和室が全部で8部屋。
その内、2部屋に床間つき。
他の6室は、襖を外すと全部解放出来る。
なんだこの武家屋敷。
そのくせ、お風呂は最新式ユニットバスだし、トイレはオート開閉機能付きの明らかにお高い奴。
うち(もう実家と言わないとならないのか)のウォシュレットなんか、ペペペのペーな機能満載。
台所に行って見れば、ガス及びIHのシステムキッチンに、魚焼きグリルの他にオープンレンジがセットされてる。
あぁええと。
開けてみたら、紙で出来た七面鳥の丸焼きが入ってるよ。
多分、ディスプレイ用だ
更には、長嶋茂雄さんでお馴染みの警備会社と契約済みですと?
しかもこれ、父さんではなく祖父の仕業らしい。
僕に何をさせる気だよう。
8LDK(笑)の屋敷で1人呆然としていても仕方ない。
僕は玄関(土間が広~い)の引戸を開けて外に出た。
苔庭に水を回遊させている池と、枯山水では無いけど麓を苔で覆った高さ1メートルほどの築山、は見ない事にして、同じく平家の離れに行ってみる。
大きさは、古い住宅街に残っている木造の文化住宅より一回り広いって感じかな。
中身はというと。
20畳くらいの板の間。あと、トイレと流し。以上!
なんだこの公民館みたいなの。
と言っても、この離れがこの屋敷の肝になる。
とは、この時はまだ知る由もなかった。
いや、この家、掃除をどうすりゃいいんだよ。
………
他サイトで綴って来た物語です。
チート主人公のノンストレス、薄皮一枚隣の世界で繰り広げられている青春?剣道ストーリーになります。
他サイトではそろそろクライマックスに入りますので、こちらで再整理方々矛盾点の炙り出しに再投稿しようかなと思います。
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