中二幼女の世界征服大作戦
@atushitukasa
第1話 堕天使降臨⁉︎ 世界征服大作戦始動
#1
とある春の日——。
場所は学校、時刻はいわゆる草木も眠る丑三つ時……そんな場所、そんな時間に行うことと言ったら、誰もが真っ先に思い浮かべることだろう、肝試しを。
けれど、残念ながら違う。断じて違う。
私の崇高にして高尚な目的は、そんなありふれたことをする為ではない。
だって、流石に一人で肝試しなんかする度胸ないしな、特に『この島』では。
「クフッ……クフフッ……」
私の目的……そう、それは神聖なる儀式。これから始まるであろう、私の輝かしき栄光に塗れた伝説、その最初の一ページを捲ることにあった。
「ク~ッフッフッフッフッフ~ッ‼ 匂う……醜悪なまでに匂うぞ、卑しき人の子の築きし品性下劣な歴史と文化の匂いが」
右手の人差し指と中指を額に、残り三本の指で左右の目元を覆う。格好よくポーズを決めたところで、背中のマントをバッと翻してみせた。
「されど‼ されど、それも今ここまでよ‼ 我が名は数多の闇より這い出でし世界の覇者‼ 麗しき終末の堕天使、エルストリア・ディ・グランハウザー‼ 我が目を覚ましたからには愚かな人の子なぞ恐るるに足らず‼ すぐさま‼ すぐさま一人残らず蹂躙してくれようぞ‼」
……決まった。最高に格好いいな、今の私。
ああっ、なんだか吹き過ぎる春の夜風が絶妙に冷たい。更には空に輝く満月を背中に浴びて……これぞまさしく「孤高なる闇」って感じだな。
大自然までもが私の到来を祝福してくれていた。
今一度、断言しよう。
私の目的……それはこの島、『白神島』を征服すること。堕天使たる我が軍門に降すことにあった。
堕天使……それこそがまさしく私の真の姿。
……と言いたいところだが、残念ながら違った。
左右でそれぞれ一つに纏めた肩口までの白髪と、碧と赤、光彩の色が違う勝気な神眼(……と言う名のいわゆるカラコン)、十五歳と言う年齢を考えれば、面立ちはまだ幼さを残す方らしい。
自分で言うのも何だが、見た目だけで言えばそこそこ可愛い女の子だと思う。言い換えるなら、何も知らない人々からしてみれば、ただの人間と映ることだろう。
だがしかし、その正体は人間ではない。
この世に存在する三つの世界——三界。
文字通り人間達の住まう人間界、妖怪や悪魔の類が暮らす魔界、そして、私の故郷であり神仏が統治する世界、神界。
私は神界の中国を治める四大勢力、《白帝軍》の長、《白帝》こと
……あっ、いや、今の話は本当だぞ。堕天使云々も本当の話(少なくとも私の中では)だけど、今の話は本当に本当だぞ、信じていいぞ。
世界を渡って、遥々人間界まで出向いた私は、まずは手始めにこの島を征服してやることにした。
何故この島かって?
それは我が血肉を分けし魂の片鱗の導きがあったからに他ならぬわ‼︎
……まあ、早い話が母上に言われたからだな。
人間界を征服? なれば、まずは手始めに日の本の東は孤島、白神島なぞどうかの、と……。
親の言うことは素直に聞く。王族である私は素直ないい子なんだ、堕天使だけど。
「クフッ……クフフッ……今の内に存分に謳歌するがよいわ、人の子よ‼ 仮初めの平和は長くは続かぬぞ? ゆめゆめ油断してくれるなよ?」
町を一望できる学校の屋上、その塔屋の上で仁王立ちを決める私。
「くォオオオらァアアア‼ 貴様そんなところでなァアアアにをやっとるかァアアア‼」
おっと、そんな格好いい私の姿に嫉妬心剥き出しの哀れな人の子が現れたらしい。
見下ろすそこには筋骨隆々と言う言葉がぴったりの大男、暑苦しいジャージ姿の人物が。おそらくはこの学校の教師だろう。ただでさえ、ゴリラみたいな強面なのに、おまけに肩には竹刀まで。
と言うか、何に使うんだ、その竹刀? 今時PTAがうるさいのは神界も人間界も一緒だと思うぞ? 生徒しばいたら即パワハラ案件だと思うぞ?
「ふんっ‼ これは驚いた。人の子如き矮小な存在が、我に意見しようとは。貴様、さぞかしその命……」
そう、生徒をしばいたら即パワハラ案件……だからこそ、私は強面の教師にも臆せず強気に出られる。別に怖くなんかないしな、生徒をしばけない教師なんて。
「やァアアアかましいわァアアア‼ 今すぐそこから降りてこんかァアアア‼」
「は、ひゃいィイイイイ⁉」
だと言うのに、この男と来たら……。
近所迷惑なんてお構いなし。今が夜中だとしてもお構いなし。見た目に違わず覇気のある声量は、それだけで空気を震撼させるには十分だった。
えっ? 近所迷惑なのは私も同じだって?
それは違うな。だって、私は最低限周りに気を使って静かに征服宣言してるもん‼︎
「だだ、堕天使たる我に命令しようなぞ……されど、致し方あるまい。ここは貴様の顔を立ててくれようぞ」
別に怖いから素直に従う訳じゃないぞ、本当だぞ。
神獣であり王女様でもある……そんな私に怖い物なんて、
「なァアアアにを飛び降りようとしておるか、危ないだろうがァアアア‼ 梯子を使わんか、梯子を‼」
「はひゃ、はいィイイイイ⁉」
……ご、ごめんなさい、嘘吐きました。
やっぱり怖いな、このゴリラ教師。
だからこそ、私は足を掛けることにした。
そう、世界征服の第一歩目として、塔屋の梯子にそ~っと……。
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