愚才な武人と天才少女たちの魂の伝承 十三章 日本での異変と変革
不自由な新自由主義の反乱児
愚才な武人と天才少女たちの魂の伝承 十三章 日本での異変と変革
ヒロ達は任務が終わり、直ぐに、日本に帰って来たのは訳が有る。
師匠でも有る、矢早の里のハヤメが、ヒロの在米中に、亡くなっていたからだ。
ユニオンに帰り家に着くと、荷物を片付けシャワーを浴びて皆にそのことを伝えて、明日、皆で矢早の里に行くことを告げる。
エリカは短い間で有ったが、矢早でハヤメに教えを受けた。
それを知って号泣している、それをアリサと美樹が抱きしめて慰めている。
エージェントは任務中、例え身内が亡くなっても、帰れない事が多々ある。
ヒロはあえて娘達には、ハヤメが死んだことを、告げていなかった。
エリカもそれを理解してヒロを責めない。
ヒロは【黙っていて済まなかった】謝罪した。
エリカは首をふって【任務だもんね】と泣きながら答える。
ヒロは一エリカが我慢して、涙しているのを見て愛しさで胸が詰まるが
弟子の前では涙を見せない。
そこにヒトミが帰って来た。
【お帰り、ご苦労だぅたわね。皆も大変だったでしょ】と労う。
ヒロはヒトミの顔を見て【しまった】と声を上げる。
ヒトミから頼まれていたものが有ったのだ、ナパバレーのワインを、アメリカで
直接買って、持ってくることを頼まれていた。
日本ではバカ高い値段で、オプションが付いて、詐欺同然の価格で売られている。
勿論、向こうでも高価で有るが、日本は異常なのだ。
ヒロが忘れたことを謝ると【解っているわよ、ジャン君にお願いして空輸の荷物で
送って貰ったわ】と怒った顔で言う。
ヒロは【それなら、そんな怒った顔するなよ】と言うと。
【ホント頼りない、夕食の準備、さっさとしなさいよ】と言うのだ。
ヒロは【こんな弟使いの荒い姉は姉ちゃんだけだ】とブツブツ言いながら。
娘たちに買い物行くぞと言う。
ヒトミは【エリカちゃんには、お話し有るからここに残って居て】と言う。
ヒロはエリカに笑顔で頷き【良く話を聞いて自分で考えろ、俺は悪い話じゃないと
思う】と言う。
ヒトミはエリカを自分達の養子として、迎える積もりなのだ。
ヒトミが【今日はうちの人も帰ってくるから、きんぴらを作って】と注文する。
コウジはヒロのきんぴらが好きらしい。
ヒロ達は夕食の買い物に行き、鍋と刺身、きんぴらの材料を買った。
ユニオンのスーパーは食材が多彩なのだ。
肉も国内は元より、海外の提携している企業から、物流が有る。
それが貧困国の収入にも成るシステムを作っている。
それは、水循環エネルギーと言う、アドバンテージをユニオンが持って居るから
可能なのだ。
ユニオンの科学部は、今人工的に二酸化炭素を、酸素と炭素に換える、
人工的光合成も研究している。
勿論、植物や自然の力でやるのが、コストも掛からないが、自然への負荷が増え続ける未来を考えるとその研究も必須に感じている。
ヒロ達の今日の夕食は豚肉と、しめじ、ネギ、厚揚げ、鳥のツミレの入った、
こぶ出汁醤油味の、スタンダードな鍋と、牛の細切れが入ったきんぴら、
刺身はタコ、するめイカ、イシガキ鯛の刺身を買った。
ヒトミの夫、コウジも帰って来て、皆で日本の食事を楽しむことに。
ヒロは久々の日本酒、香川県の喜び凱陣、金毘羅大芝居を味わう、皆で鍋をつつき
刺身の大皿をつつき、酒を飲む。
ヒロがエリカに【話は決まったか】と聞くとエリカがうなずく。
ヒロが娘たちに大発表が有ると、エリカを立たせて、エリカ自身に
医学を学ぶ事、そしてヒトミとコウジの養子に成ることを発表させた。
美樹が【エーッ、と驚いて、先生いつ頃から話しが有ったの】と聞く。
ヒロが【アメリカの任務が終わる頃からだ】と答える。
美樹が【急すぎるよ先生】と言うとヒロが【美樹今までと何も変わらない、
同じ家族でチームだ、エリカは医療で俺たちを支え、俺たちは任務をこなす
ユニオンは多様な力で動いて、助け合う共同体なんだ】と言う。
エリカが【皆が怪我や病気しても、安心できる医師に成る】と言うと、
ユウが‘【エリカちゃん偉いわ】と抱きしめハグをする。
美樹が【私も医者に成ろうかな?】と言うと、アリサが【アンタじゃ無理でしょ】と言う。
美樹が【酷い姉様】と言いヒロの酒のグラスを取りあげ、自分で飲むのだった。
ヒロは何でおれの酒を?と思いながら美樹に【まあふてるな、お前には俺がまだまだ
武術を教えて行く】と言うと、美樹はグラスをだして【お代わり】と酒を要求する
ヤンチャな美樹だった。 ヒトミが美樹を見て【昔を思い出すわね】と水樹のことを思い出すのであった。 翌日、車で矢早の里に行き午後に里に着いた、シュウがヒロ達を出迎え玄関に出た。ヒロが【遅くなって悪かったな】と詫びるとシュウは【仕方ないさ、俺たちの仕事
そう言うものだ】と言う。
ハヤメの好きだった日本酒を持って、ヒロが【線香を上げさせて貰って良いか?
これはババ様に】と言うと【有難う兄様】とシュウが答える。
ヒロと娘たちは仏前で線香に火を着けそれぞれの思いにふける。
エリカはまた涙ぐんでいる。
ユミが隣でエリカの肩をなでると【先生と抱き着いて】胸に顔をうずめる。
シュウがヒロに湯呑と酒を持って来て、【一緒に飲んでやってくれ】と言うと
【頂くよ】とヒロが胡坐で座り湯呑を受け取る。
仏壇に湯呑を置き、シュウが酒を注ぎ、そしてヒロの湯呑にも同じ酒を注いだ。
弓美がヒロに封を開けてない手紙を渡し【御婆様から預かっていた】と言う。
封を開けると
【ヒロへ、お主らの事が心配じゃが源三や水樹があちらに良い酒が有ると言うので
飲みに行くことにした、お前らが心配じゃが源三達が心配いらん、
大丈夫じゃ、と言うので楽をさせて貰うことにした。
お前らはくれぐれも、楽をしよう等ど考えるで無い。
そんな素振りでも見えたら皆で化けて出て、昔のように叱りに行くでな。
武とは苦しんで苦しんだ先に見つかる何かぞ。
それぞれの武は違えどもその先に有る光こそが武と心得よ】と書いて有る。
ヒロはそれを見て涙を流し【最後まで訳解んねー無茶ぶりして】と呟いた。
ヒロは心の中で【確かに引き継いだぞ】と言いながら瞼を拭う。
シュウが【今日は泊まって行くだろ】と言うと【世話になると】とヒロが言う。
弓美が娘たちと山に入り、野生のアケビや山栗を取りに行き、ヒロとシュウは
上流の生け簀に生かしてる、イワナやヤマメを取りにいった。
そして近所で貰ったイノシシ肉やマツタケも有った。
しばらくすると、近所の里の人間が小さな子供、男女2人を連れて家に来た。
真矢(まや)と言う女児と溜矢(りゅうや)と言う男児だ。
新しくシュウが教える門下に入る子供らしい、娘たちが可愛いと叫ぶ。
弓が【ヒロ先生よ挨拶しなさい】と言うと、もじもじしている。
ヒロが【こっちおいで】と言っても恥ずかしそうだ。
アリサが【アリサ姉さまよ】と手を広げると男の子が、恥ずかしそうにアリサに
しがみつく。
ヒロがシュウに【どういうことだ?女好きなのか?】と言うと
ユミが【子供に何を言っているのよ】と言う。
その日は山の幸を、皆で食べながらハヤメの思い出に慕った。
娘達も山の幸を食べ、新しく門下に入った子供と遊んだりして
久しぶりの日本を感じていた。
ハヤメは実は随分前から肺ガンを患っていたらしい。
ヒロ達が里を後にして、ユニオンに帰った次の日から、ヒロには新たな試練が
待ち構えて居るのである。
約五か月のアメリカ滞在の後の、メディカルチェック、エージェントは長期の
海外任務の後は、必ずメディカルチェックを行う。
ヒロには悪い予感が浮かんで来る、友歌の妹(ヒロには義理の妹)の
ユリである。
チェックにはユリが待ち構えていた【ヒロ君、お帰り、体調はどう?】と聞く。
ヒロは【疲れは有るけど別に普通だよ】と答える。
ユリは【ふーん、まあ調べたら解るわ】と言う。
そして血液を採取したり、基本的な検査をした後、また新しい機器を使った初めて
受ける検査を色々されるので有る。
ヒロは基本、検査なる物が大嫌いだ。
だいたい医者に俺の何が解る、どうせ死ぬ時は死ぬ。
検査しまくり、結局原因が解らず、弱って行く患者も沢山いる。
また自分の自己回復で、回復していく人間も居る、人間は一人一人体質や生活の
スタイルが違うのを数値だけで語るなボケと思ってる。
これは有る医学者で脳科学者、解剖学者の意見を過大解釈してその思想に成ったが
今の医者に欠けてる部分を示した論でもある。
ユリは散々調べた後、【ふーん、ちゃんと修行はしていたんだ】と言う。
ヒロは【こっちは自分たちの命が掛かっているからな】と言うと
【でもちょっと弊害も現れてるね】とユリが言う。
ヒロが【何の事だ】と聞くと【自立神経がやはり交感神経に傾き、バランス悪いね
ヒロ君コントロールが下手なのね、ロンさんと言う人はパーフエクトと言っても
過言じゃ無かったと】ユリが答える。
ヒロが【ロンもこの検査を?】と言うと【凄く興味を持ってくれたよ、ヒロ君と
違って頭良くて、理解力も早いよね】と言う。
ヒロが【一緒にするな、あいつは仙人だから何でも悟ったふりをしているんじゃ
無いか?】と言うとユリは【ヒロ君が頭悪いだけだと思う】と思い切り言葉で
心臓をえぐる。
ヒロの表情が固まるとユリが【そうそう、そう言う所ヨ】と言う。
ヒロが【何がそう言う所だ、誰でもバカ扱い荒れたらこんな顔になる】と言うと。
ユリは【今、物凄い自律神経がコントロール出来て無いよね、ロンさんに化勁とか
言うの習っているんでしょ、心の化勁がなっちゃ無いよねヒロ君は】と言う。
いつもロンに言われている事では有る。
ユリは【まあそれはさておき、これから戦う最中に、極限の脳の出力から、副交換神経優位に変われるトレーニングをやる、あの渡したスーツは交感神経を高めた感覚を
知って貰う為も有ったの】と言う、ユリが言うのはイメージと呼吸で、自分をよりコントロール下に置くためのものらしい。
トレーニングで究極の爆発力を呼吸と脳の力で発揮できるように、脳の
イメージを使って体に教育する機材らしい。
普通は何十年と掛けて、ひと握りの武術家が会得しうる技術を、早急に機械で行う
ことが良いのだろうか、不安がある。
ヒロは【ユリちゃん、俺、死なないよな?】と聞くとユリは
【人はいつか死ぬんじゃない】と答える、ヒロが【いや、そお言う事じゃ
無くてこのトレーニングで死なないよな】と聞く。
ユリが【やってみて、危なければ止めれば良いんじゃない】と言う。
ヒロが青い顔でこわばると【ヒロ君さ、友歌ちゃんを助けたいんでしょ】と言う。
ヒロが【会いに行けるのか】と聞くと【今すぐじゃ無いけど
近いうちに合えると思う】と言う。
また【でもヒロ君死ぬかもよ】と言うとヒロは【危険はいつもの事だ友歌を助ける
なら危険も承知する】と答える。
それからその機材のトレーニングは先ず週一からスタートした。
このトレーニングは肉体より脳の疲れが極端に強い、上手くコントロール出来て
いない証拠だと言う。
一か月目は週一、二か月目から週二回のトレーニングになった。
朝は娘達と修行、午前か午後にアカデミーで講師を娘達と行い、
自分の修行もこなした。
エリカはヒトミがつけた家庭教師で猛勉強している。
十二月に入り年末が近づいた頃、休息日にヒロはヒトミの使いで自分が通った大学に
娘達三人を連れて訪れた。
エリカにも息抜きに成ると言うので、ヒトミに頼まれたのだ。
恩師の浜にお歳暮を、直接持って行くためである。
彼女は国際的に活躍する、国際経済学者で、武術一辺倒だったヒロを大学に
入学できるまで教え、四年間、英語と経済、歴史、自然科学をスパルタで学ばせた
恩師である。
ヒロがウイスキーやロック、ジャズ等を好きに成ったのも彼女の影響である。
お歳暮にはグレンファークラス25年とアベラワーの27年を持って行った。
浜は【ヒトミ先生には、いつも頂いて申し訳ないと伝えておいて】と礼を言う。
そして【ところでアンタから最近、音沙汰無いけど、どう言う訳?】と言う。
ヒロは【最近海外が多くて】と言い訳をする。
浜は【海外が多い割に土産を送って来ないのはどうしてかな】と言う。
ヒロは彼女に感謝はしているが、頭が上がらず、苦手なのである。
その上その日、研究データーの打ち込みまでゼミ生と一緒にやらされた。
娘たちは大学のキャンパスと言うものを初めて訪れた。
自分たちと同世代の男女が、沢山学んで授業が終わると、一緒に学舎を移動
するのを三人で眺めていた。
ヒロがようやくゼミから抜け出し、娘達と合流したのは夕方前である。
ヒロ達はキャンパスを出て、少し早いが街の炉端焼きの店に顔を出した。
学生時代に良く食べに来た店である。
安価だが魚に拘り、丁寧に炭火で焼き上げる、そして、ここで使う塩は美樹の育った里で取れた自然の塩である、ユニオンを通じて魚や塩を仕入れて居る。
ヒロが店を覘き、店主に声を掛ける【大将もうやっているかな】と聞く。
大将が【いらっしゃい、久しぶりだなヒロ】と笑顔を見せる。
娘達と中に入りカウンターに座り、えびすビールとウーロン茶を頼む。
美樹は勿論ビールである。
焼き物は、うるめいわし、ハタハタ(子持ち)、カマス、サバ
肉は矢早の農家が育てた軍鶏肉、焼き野菜はアスパラ、シイタケ、しし唐を頼んだ。
美樹はうるめ、を食べて、ヒロを見て【これ、うちの里の味だ】と喜んでいる。
そしてヒロに【家でも焼き魚、食べようよ】と言う。
ヒロが【それは無理、姉ちゃんが絶対許さない】と言う。
ヒトミは家が焼き魚臭く成るのを許さないのだ。
生や煮物の臭いは掃除で取れるが、焼き魚は換気扇に臭いは、なかなか取れない。
毎日、換気扇を掃除は出来ないのだ。
大将や娘達と談笑していると、そこに浜が現れた。
こんな早くに仕事を上がるとは思わなかった、ヒロは油断したのだ。
ヒロが立ち上がり【お先に頂いています】と言うと
【いつのま抜け出して来たんだ?】と浜が言う。
ヒロの様子を見て娘たちが驚いていると、浜が【こんな可愛いお嬢さんたちとデートとは】 と言う。
ヒロが【この娘達は部下で生徒です】と紹介すると、
【なるほど、挨拶に顔を出さない訳だ】とハマが言う。
【預かりものなんで大変なんです】ヒロがと言う。
【私の大変さが少しは身に染みたかね?】と浜が聞くと【感謝しています】とヒロが
低姿勢で言う、そんな低姿勢のヒロを娘たちは初めて見る。
美樹がハマに【偉い人なんですか?】と聞くと浜は笑って
【この世に偉い人なんか居ないんだよ】と言う。
そして【皆それぞれ偉いし、そして馬鹿なのが人間さ、誰が偉いとか言っているが、猿とそう大差無いのが人間だよ、自然界を良く見てごらん、どんな動物でも
人間と同じように必死で生きている人間も同じさ】と言う。
美樹が【ヒロ先生はやたらと偉そうに小言を言うんです】と言うと。
浜が大笑いして【面白い娘だね、そんなの猿がなんか言っているって
見てれば良いんだよ】とハマが言う。
美樹がヒロを見て、ニコニコ笑うのだ。
大将がヒロとハマに、黒木本店 芋焼酎 爆弾ハナタレ を見せて勧める。
ハマが【焼き魚にはこれだよ】と言いストレートでちびちび飲み、
ヒロにも酒を注ぐ、【きょうのデーター見てどう思ったね?】と浜が聞くと
ヒロは【今の株価が虚構で作られた価格だと、バカで無ければ解ります】と言う。
ハマが【その通りだ、税制と公的資金で作られた虚構で、本来の日本の企業価値とは程遠い、外資に配当を食わせているような企業もある】と言う。
【これじゃ豊かな国なんて有り得ませんね、データーどうするんです】と
ヒロが聞くと。
【あんなのは今、発表しても何にも成らない、仲間の学者に預け、ユニオンに
上手く使って貰うさ】と言う。
帰りのタクシーで美樹が【先生、焼き魚美味しかったね】と言う。
ヒロが【そうだな、あのうるめいわし、懐かしい】と答える。
美樹が頷き【シャチ兄様が、水樹先生に焼くのが下手って文句言われてた】と言う。ヒロが笑って【俺なんか戦時中の現場で毎日、炭のコンロで魚を焼かされた】と言い
ヒロは美樹の頭をなでで【年末一緒に水樹姉の墓に行こう】と言う。
水樹が逝って一年以上が過ぎていた。
次の休み、美樹と一緒に美樹と一緒に、美樹の里に行き、一泊した。
シャチは相変わらず頑張って、里をまとめ美樹には口うるさく小言を言う。
美樹が可愛いあまり、心配で成らないらしい。
美樹は美樹で、反抗して【兄様うるさい】と逆らっている。
ヒロはシャチに【たまには時間を作って、ユニオンに遊びに来い】と言う
美樹が【兄様、お土産持って来るなら、遊びに来ても良いよ】とシャチに喋る。 ヒロはそろそろシャチに良い縁談でも有れば、と思うのだった。
翌日、帰りの車で、ヒロは美樹と誰か良い相手は無いか勝手に盛り上がって二人で
話し有っていた。
ヒロがイロイロ候補を言うが、美樹が無理だとか彼氏いるとかイチャモンを付けて
良い案が浮かばなかった、本当、余計なお世話の二人だ。
ヒロは年末、道場や自分の資料を整理していると、源三との稽古の動画フィルムと
ノートが出て来た。
その中にある術式の型の画像があった。
攻防一体、防御がそのまま相手を倒すための型式だが。
柔の型式に見えて、受けと攻撃の発勁がほぼ同じタイミングに見えるが
交差法では無い。
交差法とは所謂、カウンター攻撃に近い。
威力は抜群で相手の体重と、こちらの体重が相互に乗り、一撃必殺の打撃も
有り得る、相手のフックを避けロシアンフックなどもそうだ、
しかし同時に、リスクが大きく、見破られたら逆に倒されるリスクも有る。
この動画に有る型式は、源三が旅立つ少し前に、ヒロに直接見せて、何れ習得しろと宿題のように残したものだ。
型式の名を影舞と言う。
ヒロには当時、この術式が自分に習得が出来るとは、思えなかった。
大掃除の後、一人で何度も動画を眺めて見た。
すると一つの事に気が付く、動きの大半は捨己従人(きしゃじゅうじん)己を捨てて相手に会わす動きに見えるが、よく見ると、相手が源三にコントロールされている。
そして相手が完全に同調した時、その相手に合わせ、打撃を加える型式だった。
ヒロは思わず(クソジジイ、俺にその境地を求めるのか)と呟いたのです。
先ずはユリの求める、交感神経と副交感神経のコントロールが完全に出来る
必要が有ります。
年末、家の大掃除はヒロが家に居る時は大半がヒロの仕事だ。
ヒロに取っては、地獄の期間に成る。
修行と大掃除の両立だ。
ヒトミとユウは年末も関係なく病院でコウジは研究所だ。
ヒロは掃除しながら、自分が可哀相に思えて来る。
因みに娘たちは自分達の部屋の掃除と、勉強や、ネットで調べ物を、している。
ヒロは夫婦の確執や、殺人事件のきっかけは、こんな事から起こると思った。
そして大晦日の日を迎えた。
晦日の日はヒロが居れば、おでんと年越しソバと決まっている。
冷蔵庫の中が、おせちの材料や重箱などで、満杯になるからだ。
これもヒロの担当だ、ヒロが居ないときは、全て百貨店のおせちで済ますらしい。
ヒロは娘たちに、料理は美味しい物を食べさせたい、完全に年末の主婦だ。
ヒトミやユリ、そしてコウジも帰って来て、皆で大晦日を過ごす。
ヒロ達エージェントは年末、海外で過ごしたり、紛争地で過ごすことも
多く有る。
平和に過ごす事が出来ない人々も、世界には多くいる。
戦争だけでは無い、貧困、犯罪、不安、小さな諍い。
そんな穢れを本当に綺麗さっぱり、流してくれるならと思う。
ヒロの作るおでんは、牛すじ肉、牛のアキレス腱が、たっぷり入った物だ。
他の具もさまざまな物が入って居る。
ぎんなん、餅巾着、はんぺん、厚揚げ、大根、スタンダードな物から
ロールキャベツ、タコぶつ切り、豊富な具材が楽しめる。
ユウはビール、ヒトミはナパバレーの赤ワインを飲んでる。
ヒロは当然日本酒で、福岡の独楽蔵の古酒を飲んだ。
美樹もヒロの影響で日本酒を覚えだした、違法行為の常習犯だ。
ヒトミが【美樹ちゃんも、水樹ちゃんのように立派な酒飲みに育ったわね】
と言って笑う。
ヒロが【ホントにこのまま育っていいのか?】と言うと。
【先生は気にしすぎよ、ねえエリカちゃん】と美樹が言う。
エリカが返事に困っていると、アリサが【アンタが気にし無さ過ぎなの】と
突っ込む。
美樹の飲酒は何故か公認されていくのだ。
その日、ヒトミの提案で、きっと星のせいじゃない、と言う映画のDVDを観た。
ジョン・グリーンのベストセラー小説「さよならを待つふたりのために」を基にした青春ロマンス映画だ。
ガン患者の集会で出会った、若い男女が、恋に落ちる映画だ。
ヒロはボクシングのタイトルマッチが見たいと言ったが、最高権力者はヒトミだ。
アメリカのラブロマンスなんか、とヒロは言ったが、ヒロが一番涙を流して
観ていた。
美しい情景で、若い二人のラブロマンスだ。
ヒロが泣いているのを見て、美樹が【先生って泣き上戸だよね】とエリカに言うと
【それ、泣き上戸じゃないと思うよ】とエリカが答える。
美樹が【じゃあ泣き虫だ】と言う。
大晦日は出来れば、一人で過ごさず、誰かと過ごすと心も洗われ良い歳が
越せるのでは無いだろうか。
翌日の元旦は、ヒロが詰めたおせちの重箱と、雑煮を囲んで新年を迎えた。
おせちと言っても、煮豆などをヒロが作るわけでは無い。
ヒロがお気に入りの、おせちの食品を重箱に色々詰めた者を皆でつつく。
かまぼこ、雑煮、黒豆、伊達巻、カズノコ、栗きんとん、昆布巻、エビ、
紅白なます、煮しめ、ブリ照り焼き、伊勢海老、ローストビーフ等、様々な料理が
詰められている。
大晦日と元旦は皆家で過ごし、ヒトミとコウジは2日から仕事、娘たちは、それぞれ自由に街に出かけたりしていた。
ヒロも久ぶりに、大学時代の同級生、シローから声が掛かり、夕方から飲みに出た。
大半の店は正月休み、ユニオンの経営するホテルのバーに顔をだすことに。
ユニオンが最近作った高級ホテルだ。
そのホテルには、ユニオンが作った学校の、卒業生なども働き、多くの事情の
有る人達が働いたりしている。
中には元々ユニオンのエージェントだった人間も働いている。
ホテルのバーにはアケミとシンと言うヒロの後輩が働いて居る。
ヒロがアケミを見て【店を間違えました、また来ます】とボケをかます。
アケミが【お客様、もうチャージが発生しております、どうぞお座り下さい】と
言い返す。
ヒロがシロウに【すまんボッタくりの店の様だ、お前が払ってくれ】と更にボケる。良い子はホテルでこんなボケをやったら、注意されるので、気を付けましょう。
シンが【兄様、早く注文して】言うので、とりあえずジンリッキーを2つ頼んだ。
シロウがヒロに【忙しそうだな】と言う。
ヒロが【どこも課題が満載だから】と言うと
シロウは【日本や世界はどうなって行くんだ?】と聞く。
ヒロが【世界の心配より日本が先にヤバく無いか、こんなスピードで劣化していく国は歴史的にも珍しいぞ】と答える。
シロウが【何故そうなっていると思うんだ】と聞くと。
【決まっている、人に金を使ってないからさ、物や投資に金が回れば当然人に
回らない、物に使った金は人に再度回ることは無い、株もそこから利益が出てもまた株に回る、金が金を産めば、また金を増やそうとするのが、人の本能だ】ヒロ
が言う。
経済の話をしているとアケミが【難しい話はそれぐらいにして】とヒロのボトルを出した、スプリングバンクの25年だ。キャンベルタウンで作られるモルトの香水と
謳われる銘柄だ、アケミが【飲み方はどうする兄様】と聞くのでストレートで加水用の水を付けてくれとヒロが頼むと【めんどくさ】と小さい声でアケミが言う。
ヒロが【聞こえたぞ、俺はお客様だぞ】と言うと【はいはい、お客様、私も頂いて
宜しいでしょうか】と言う、ヒロが【全く、水の里の女はどいつもこいつも】と言うとアケミは【お客様、今のはセクハラとヘイトに成ります、お止め下さいませ】と
言う。ヒロが【そう言えばお前、水樹姉の墓まいり行ったのか】と聞くと。
アケミが【去年行って来た、先生の葬式行けなかったから】と言う。
ヒロは【そうか、あの時はお前任務だったんだろ、それは仕方ない】と答えた。
シロウが【この女性もお前と同じ仕事を?】と聞くので、ヒロは
【去年、現場をリタイヤして、今はユニオンのホテルで仕事しているのさ】と
答える。アケミが【そろそろ、嫁入り修行もしないとね】と言うので
ヒロが【手遅れな気がするが、シン、お前が貰ってやれ】と言うと
二人が同時に【ごめんなさい】と声に出す。
【お前ら二人とも贅沢言っている場合か】と言うと二人は【兄様もな】と
言い返して来た。
シロウは笑ながら【本当だな】とヒロに言う。
【ハマ先生も心配していたぞ】と言うのだった。
ヒロが家に帰ると兄のコウジから、明日ユニオンの研究所に来てくれ、とメールが
送られて来た、また何故か嫌な予感がする。
科学部とエージェントが打ち合わせすることは大体、兵器や武器に
関することが多い。
勿論、通信技術などの意見を聞いたり、色んなケースが有るのだが任務中に使用する技術に関する打ち合わせである。
翌日3日、科学部に顔を出すと、そこにコウジとユリがいた。
ユリがニコニコしているのが余計に不安になる。
コウジは暗い顔でヒロの顔を見る。
コウジが【ヒロ君悪い知らせかも知れない】と言うと
ユリが【どうかな、良い知らせかも知れませんよ】と言う。
ヒロが【どういう事ですか】と聞くと。
コウジが【友歌君たちの星が、また地球に近付いて来ている、今度はかなり大きな
規模でだ】と言う。
ヒロが【攻めて来るってことですか?】と聞くと。
コウジは【そのように私は見ている】と答える。
ヒロが【何故、今頃、しかもどうやって?】と聞くと。
ユリが【ヒロ君、最初に地球に来たのは何年前だった?】と聞く。
ヒロが【三十年近く前だ】と答えると、ユリが【次に来たのは】と聞く。
【二十四年前】とヒロが答える。
ユリが【どうして今まで、来ることが出来なかったと思う】と聞く。
ヒロは【距離的に不経済でリスクが大きい】と答えると。
ユリが【やっぱりバカなのかな?】と言う。
ヒロが【バカにも解るように説明しろ】と言うと。
ユリが【前回の2回は言わば実験的、試しなのよ、地球に攻めて来るには
戦力少ないと思わなかった?】と聞く。
ヒロが【確かに科学力の割にはそこまで破壊力のある兵器でも無かった】と言う。
ユリは【一応彼らも兵士だけど、彼らは捨て石みたいな物、窓際君で
強力な武器を持たされていた訳じゃない】と説明する。
ヒロが【いやいや、待てよ、あれで捨て石って、こっちは仲間が沢山死んでいるぞ】
と言う。
ユリが【良く頑張ったよね、当時の技術力で】と言う。
【結局、他国を責めるには余程の戦力差と人間の力が必要か、または
とてつもない破壊力の兵器で脅す、あるいは特別な技術が必要って事】
【そしてもう一つは地球まで来るのは、非確定要素が大きいの
だから今まで来る事が出来なかった、それにあの国自体の色んな事情が
有るのよ】と言う。
ヒロが【内政的な問題か?】と聞くと
【そう、あの国はあの国で大変だった】とユリが答える。
【でも何故、攻めてくると解るんだ】とヒロが聞くと。
コウジが今から説明しようと言い、
【君はワームホールとかホワイトホールと言うのを聞いたことは
有るか】と聞く。
ヒロが【名前だけはね、でも仮想の話だろ】と言うと。
コウジが【彼らには可能なんだ、ただしかなり不安定だった)答える。
ヒロが(それでこんなに時間がかかったのか)と言う。
ユリが【でもそれで大きな、技術改革が出来たのよ】言う。
ヒロが【それで君も来れたのか】と聞くと。
ユリが【私は別のルートで、来ているんだけどね】と言う。
コウジが【そこで君たちに、新しい技術を使いこなして貰う、必要が出て来る
勿論、戦わない選択が一番良い】と言う。
ヒロが【君は何のために、ここに来たんだ、そんなことを知らせるためか】と聞くと。ユリは【友歌ちゃんを止めるため、このままじゃ彼女は自滅するから】と言う。
ヒロが【彼女が、そんな愚かな道を歩むとは信じられない】と言うと。
ユリが【前に言ったでしょ、ヒロ君の知っている、友歌ちゃんじゃないって、
ヒロ君には、これを使いこなして貰わないと】と言い
ゴーグルを見せる。
そしてある部屋に通されゴーグルに画像が映し出された。
そして画像の中で次々ヒロに攻撃が繰り返される。
ユリが相手に敵意を示してと声が聞こえる。
そして敵意を持って相手を見ると、相手が爆発したり落ちたりする。
ヒロが【テレビゲームか】と言うと、【実際にはリアルな武器が、相手を攻撃するよ、これが人なら相手は死ぬ】とユリが言う。
ヒロが【ちょっとまて、こんなのだと地で血を洗う戦いにまた成る】と言うと
【多分大丈夫、相手も人が出て来るのは最後だから】とユリが言う。
そして【明日からこれで特訓してもらう、勿論、手動の武器も、皆に使って貰うから】と言う。
ヒロが【そんなワームホームだのホワイトホールだのを利用できる文明が有る星が
何故、地球のような星を侵略してまで欲しいんだ、無限循環エネルギーまで持って
居るのに】と言う。
ユリが【どんな高度な文明も、自然の資源まではどうにもならないの、
一度失ったものは取り戻せない、しかも地球のように豊かな星は奇跡なのよ】と
言う。
ユリから相手の戦力や、どのような形で地球を手に入れようとするか。
なども聞いたなんと人工のウイルスを使う可能性も示唆してくるのだ。
それをさせないため、地球に来る前に話し合うか、戦う必要が有ると言う。
ユリの予想では半年から一年後だと言うのだ。
ヒロは話を聞いて非常に暗い気持ちで家に帰る。
娘達は巻き込みたくない。
夕食は手抜きで、鍋とおせちの余り、おでんの余り(冷凍していた)で済ます。
手抜きと言えども、味に手を抜きたくない。
鍋を矢早早の里の軍鶏肉と野菜で造る。
出汁は日本酒を水で薄めず沸騰させ、そこにコブとイリコをさっと入れて、
1分ほどで外に出し、薄口しょうゆで味を調え、そこに具材を入れて行く。
ヒロ流の日本酒鍋だ。
ヒトミやユウも帰って来て皆で食べた。
ヒトミが【今日アケミちゃんから、お礼のメールが届いたわ、昨日行って来たのね】と言う。
ヒロが【ボトルの期限が無いとか、五月蝿かったから、でも何で俺にじゃ無く
姉ちゃんにお礼なんだ】と言う。
ヒトミが【貴方にお礼は恥ずかしいんじゃない】と言う。
ヒロは意味不明と思いながら【美樹、アケミが美樹の事、元気にやっているか
気にしていたぞ】と言う。
美樹が【先生、アケミ姉様、なんで現場を離れたの?せっかく
上級エージェントに成ったのに、なんかガッカリ】と言う。
ヒロが【なんでガッカリなんだ】と聞くと【要は怖く成ったんだよね、
エリカちゃんみたいに勉強して医者に成るわけでも無いし、ホテルの
バーテンしているなんて】と美樹が言う。
ヒロがギョッとした顔でヒトミと目を合わす。
ヒロは【バーテンの何がダメなんだ?俺たちみたいに戦って居たら
偉いのか?アケミは別に怖くて今の道を選んだ訳じゃ無いユニオンには
アケミのようなスタッフも必要なんだお前は大きな勘違いをしている、それが解るまで修行を休んで考えて観ろ、別に怒っている訳じゃない、
これはお前のための宿題だ】と言う。
ヒロが【ごはんを食べたらアリサもエリカも美樹と一緒に考えてやってくれ、美樹は明日の夕方俺に報告してくれ】と言う。美樹は驚いた顔でエリカとアリサを見た。
アケミには任務地で親友と呼べる友人が出来た、彼女は医師でシングルマザーだが
不幸にして、突発性の心疾患で亡くなったのだ。
アケミは彼女の子供を育てるため、危険な任務を下りたのだ。
ヒロが美樹に伝えたかったのは、そのことでは無い。
良く、この職業は立派だとか、勘違いしている人間が居る。
軍隊の兵士が偉い、自衛官は偉い、医者が偉い百歩譲って、たまたま世話に成った
人間に感謝するなら、それは当たり前だが、本人が自分の職業を立派だと思うのは
大きな間違いである。
また周りの人間が、誰々は医者に成ったんで偉いね、出世したから偉いね、
何が偉いものか、その人間は、自分の為にその職業を選んだだけである。
世の中の職業で偉いも偉くないも無い、多くの職業で世の中が回っている。
美樹にはそれを解って欲しかったのだ。
次の日の朝錬は、美樹を休ませ、アリサと二人で修行した。
皆で朝食をとり、ヒロはユリの所で新しいトレーニングを行うが
中々上手く行かなかった。
動物は身体と脳が繋がって動くものだ、そうそう脳だけで何かを
コントロールするのは難しいものである。
心技一体と言うが、それは心と体が繋がって居るから、出来るので
脳だけで何かを動かすのは、そう簡単では無い。
トレーニングが終わり、ヒロはユリにそのことを訴えた。
ユリは【向こうの兵士は、誰もが慣れていることだよ】と言う。
ヒロは【こんなのテレビゲームじゃ無いか、実際の戦いに成れば
最後は人海戦だろ】と言う。
ユリは【人海戦に成れば多くの人が死ぬ、それは向こうもよ、
ヒロ君は友歌ちゃん助けたいんでしょ】と言う。
ヒロは【それはそうだけど、これで助けられるのか】と聞く。
ユリは【作戦通り行けばね、それにこっちは沢山の人間を向こうに
送れない、こっちにまで来させたら、それこそ大惨事、向こうもこちらもね】と
言う。
ヒロはユリによる、トレーニングが終わると、午後はフィジカルトレーニング
と影舞の型式の修行を続けた。
夕方、買い物をして家に帰ると、美樹が落ち込んだ顔をしてヒロに手紙を渡す。
そこにはヒロとアケミへの謝罪文が書いてあった。
そしてなんと、美樹自身が泣いてる漫画絵が大きく書いてある。
ぴえーんが丘どすこいノ助とか書いて有る((笑)
ヒロは美樹に【俺とアケミに謝って欲しいじゃ無い、お前に気付いて
欲しいだけなんだ、昨日も言っただろ】と優しく言った。
美樹は【でも先生、機嫌が悪いの判るもん】と言う。
ヒロが【そう見えたら悪かった、それは多分違う事でだ、
もう一度俺が何を解って欲しいか考えるんだ、解らなければ色んな人に聞いてもいい】と言った。
そこにユウが帰って来て【お兄ちゃん、まだ説教しているの、まだ美樹ちゃんの歳で
そんな事、解る訳ないじゃん】と言う。
ヒロが【それが解らないとダメだ特に俺たちの仕事は】と答える。
ユウが【美樹ちゃんチョット借りるわ、二人のご飯、要らないから】と言って
出かけて行った。
ユウと美樹が掛けたのは、活け魚料理を出す料理店だった。
そこには生け簀の中に、多くの活け魚が泳いでいた。
イカ、石鯛、伊勢海老、カレイ。
ユウはビールを頼み、美樹にも注いで飲ませ、イカとカレイ、石鯛
を刺身で頼んだ。
ユウが美樹に【このイカの刺身に、どれだけの人が関わっていると思う)と聞く。
美樹が(イカを取った人と料理をした人)と言う。
ユウが店の大将に、どれだけの人が関わっている?と聞くと大将は【数えきれない人が関わって居ます】と言う、美樹が【えっ?】と驚く。
ユウは【美樹ちゃんには一面的な物しかまだ見えて無いのよ、イカを取るための網や道具、船、燃料、それを扱う市場やお店、お店の建物や道具、数えきれない人が居ないと、この刺身一つ食べれ無いのよ】と言う。
そしてユウが【まあ食べなさい】と刺身とビールを勧める。
美樹が刺身を食べ【美味しい】と言う。
ユウが【皆が働いてくれているからこんな美味しいもの食べれる、
ここの魚たちも、それぞれ色んな餌を食べて、海の中で生きている、
多様性って、そう言う事よ】と教える。
美樹が【ユウ先生にとってヒロ先生も多様性ですね】と聞く。
ユウが【ウザイけど、あれでも居ないと寂しいものヨ】と答えると
【料理と掃除もしてくれますしね】と美樹が言う。
ユウが【そんな事お兄ちゃんに言っちゃダメよ、すぐ拗ねるんだから】と笑う。
二人が家に帰り、店の領収書をヒロに渡して請求する。
ヒロが【何でおれが払うんだ】と聞くと【美樹ちゃんの教育のための経費でしょう】とユウが言って、美樹は【ご馳走様でした】と頭を下げる。
ヒロが美樹に【俺が言っている事が解ったのか】と聞くと、【イカとカレイと石鯛と漁師さんと船とお店の人とエトセトラと】答える。
ヒロが【何だそりゃ】と言うと【チャンと解っているから】とユウがヒロに言う。
ユウと美樹が組むとヒロには天敵であった。
翌日朝、美樹は手紙に、自分が間違えて居た事、自分はもっと強く成り
その強さで社会で生きて行きたいと書いてヒロに渡した。
ズキュンー♥ー>ぽえんと書いて締めくくっていた。
ヒトミに後で二つの手紙を見せると大爆笑して笑う、ヒロは何だ?これ?と
思った。
年が明けて、ヒロと娘達そして、世界の選ばれたエージェント達に、特性に合わせ様々なトレーニングと修練が行われ出して3カ月が過ぎようとした頃、
合同で訓練が行われることが通知された。
場所は北アフリカの砂漠地帯を一部封鎖して、総勢500人程度その中には
マリ、アリサ、チヅル、美樹も入って居た、ヒロはマリアに電話を入れ問い詰める。
マリアは【まあ、もう通知が来たの、まだ訓練の段階だから、決まってる訳では
無いのよ、明後日どうせマリと東京に行くから、その時話すわ、幹部が集まり東京で
会議も行うから、貴方も参加するのよ】と言う。
マリアとマリが日本に来て、コウジの居る研究所で集まった。
会議は翌日に、ユニオンのホテルで有るらしい。
コウジの研究所に行くと、既にマリア、マリ、コウジ、それにユリも
集まっている。
ヒロがマリアをにらんでいると【機嫌が悪そうね】と言う。
ヒロが黙っていると、娘のマリが【パパ、心配しないで、私たちは大丈夫だよ】
と言う。
ヒロが優しく【マリ、これだけはダメだ、これは大人が解決するべき、遺恨なんだ】と言う。
コウジが【まあ、落ち着いて、聞いてみよう】と言う。
ヒロが用意された椅子に座ると、
ユリが【これはマリちゃん達の、助けが必要なのよ】と言う。
ユリが言うのは、マリ達、選ばれた女性エージェントを、交渉の使節団として
向こうに送り話をする、その場にはユリ自身も参加する。
それを送り出す母船には、第一陣としてヒロ達、選ばれた兵団を一緒に送り出し
外から、いつでも救出が出来るように見守る、と言うものだった。
ヒロはあくまでも反対すると言い張る。
ヒロはコウジに【向こう送り出すって、どこまで行くんです】、と言うと
木星の近くまでらしい。
ヒロは【そんな所まで運べる船が有るのか】、とユリに聞くと
ユリは自慢げに【有るのよ、それが、痩せる思いでコウジ先生と頑張ったんだよ】
と言う。
ヒロが【そんな痩せてないだろう、痩せたようには見えない】と言うと、
マリが【パパ、それセクハラだから、ユリちゃんに謝って】と言う。
ユリはマリを抱きしめ【やっぱり私のマリちゃんね】と言う。
ヒロがため息をつき【すいませんでした】と謝罪すると、船の設計図や完成写真を
見せて、2カ月でテスト飛行等を行うと言う。
ヒロはコウジに【そんな短い期間のテストで大丈夫なのか】と聞くと
コウジは【これは短い期間で造った訳じゃ無いんだ、以前から彼らの船を
調べて、二十年以上、思考錯誤とテストを繰り返していた】と言う。
ユリが【そこに私と言う天才が現れアドバイスしたんだな】とまた自慢げに言う。
ヒロはまたユリの事を頭良くても、性格はおバカの部類だ、学者に良く有りがちな
タイプだと思いながら、ユリを見つめた。
それでもヒロはマリアに【俺はまだ納得はしていない、子供たちを巻き込むのは
反対だ、明日の会議で、それを主張する】と言う。
マリアが【本当こうなったら頑固ね、時間かけて話し合うしか無い】と言う。
マリが心配してマリアに【パパ達と一緒に居ても良い?】と聞くと
マリアが【そうね皆と一緒に居なさい】と言う。
ヒロとマリが家に帰ると、アリサと美樹が修行から帰って来た
美樹が【アカデミーの演習場に新しいジェットバイクや戦闘車両の
シュミレーターが入って来てたよ】と言う。
ヒロが【そうか新しいシステムを導入するんだろ】とごまかす。
美樹が【新機能が満載とか、技師の人が言って居た】と言う。
マリが美樹に【皆が安全に戦える為によ】と言う。
アリサが【先生、なんか落ち込んでいるの?】と聞くとマリが【パパは心配性なの、
私たちがパパを支えてあげれば大丈夫】と言う。
美樹が【先生、落ち込んでないで、何か作ってお腹減った】とせがむと
ヒロが【そうだな、何か作ろう】と言うと【私大盛でね】と美樹が言う。
【本当に良く食べるわね】とアリサが言うと【私、若いんだもん】と答える。
ヒロが【ニ八(にはち)ソバを作るから、エリカも呼んで来い。】と言って
出汁を作り、そばを茹でる、具材に牛肉と卵と野菜をたっぷり入れて、作る。
高たんぱくでヘルシーなソバだ。
ヒロは昼食の後、娘たちを残し、新しいシュミレーターを見に行った。
その機動性も大きくレベルアップしてるが、何より武器の種類と威力が格段に違う、明らかに今までの物と考え方からが違うのだ。
こんな物まで作ってと感じる。
これを人に使えば、大量殺人に成りかねない、そう感じた。
ヒロはコウジに電話して怒りを伝えた。
【あれじゃモアブ、大規模爆風爆弾兵器、以上じゃ無いか、あんな物が必要なのか】と言う。
コウジは【あれは使用するために作った訳じゃない、明日ユリ君から、説明が有ると 思う】と言う。
若い頃に見た惨状が、思い出され気持ちが悪くなる。
帰って皆の夕食の支度はしたが、ヒロは食欲が湧いてこない、ユウに言って
一人オートミールとプロテインとサプリで済ました。翌日ホテルの大きな部屋で会議が開かれた。
百人ほどの人間が集まり、そこにはチヅルやジャン、シャチ、シュウなど、多くの
知った顔も居た。
国連からも人が来ているようだ、勿論、シークレットミーティングである。
ヒトミの紹介でユリの説明が有った、先ず相手の人数は百万人で有る事、そのうち
実際の兵士は、1万人に満たない事、相手の兵器の大半がドローン兵器で、
地球の陸兵に当たるのは千人ほどだと言う事。
そして相手は最終的に細菌兵器を持って、地球を攻める可能性が有る事。
つまり千人の陸兵は捨て駒なのだと言うのだ。
また彼らには、小惑星を地球にぶつける技術も有る、がそれは流石に
行使することは無いだろう。
目的は地球の資源の全権か、地球の人類の滅亡の2択だと言う。
ヒロだけでなく、多くの人間が信じられない事で有り、そんな事は不可能だろうと
想像出来なかった。
しかし彼らの作ったウイルスはそれが可能だと言うのだ。
ヒロが挙手をして(そんな突拍子も無いことは信じられない、そんな危険なウイルスは向こうだって危険だろ、ウイルスならこちらもワクチンを作れば対抗出来る、
そんな直ぐに地球の人間が全員死ぬようなウイルスなんか作れるのか)と言う。
ユリが【エボラ以上の毒性でインフル以上の感染率と思えば良いわ】と言う。
場内がどよめく。
ヒロは【そんな非人道的な事を、友歌がするはずが無い、有り得ない】と言う。
ユリが【それが有り得るんだな、言ったでしょ、ヒロ君の知っている友歌ちゃんとは
違うかも知れないって】と言う。
ヒロが【そのウイルスの設計図さえ解れば、防ぎようが有るってことか】と聞く。
ユリは【ヒロ君バカと思っていたら、それくらいは判るのね】と公衆の面前で
ユリが発言する。
ユリが説明を更に続ける、こちらは使節団として、マリ達二十人を送り込む、
それに同行して五百人の船団を、木星の近くの彼らの近くに待機させる。
最悪彼らを食い止めるため五百人で一万人の兵力と戦うというのだ。
そのための武器の開発だったのだ。
相手の兵器は、ユリが特性を知り尽くしている、何せ基本システムを開発したのは
ユリ自身だと言う。
そしてユニオンと国連は、彼らと資源の交渉を勧める、準備をすると言うのだ。
様々な意見が出て、質問が飛び交うなか、ヒロはそれでも反対の意見を言って
こちらから攻めるのを止め、彼らを地球に受け入れる事を主張した。
会議は結論を得ぬまま、一旦終了して、明日に結論を持ち込むことに。
国連からの代表たちも、結論が出せずに、それぞれ相談したり、するしかない。
それはマリアも予想の範疇だった。
チヅルやアリサ、マリや美樹が、ヒロを心配して、ヒロの近くに来る。
マリが【パパ大丈夫?】と声を掛ける。
娘たちの顔を見て自分の事も、回りの人間に対しても、怒りと嫌悪感がこみ上げる。
娘たちをホテルのカフェで待たせて、再びマリアに電話して部屋に行くとそこに
ヒトミとユリが居た。
マリアが【まあ来ると思ったわ】と言うとヒロがマリアをにらむ。
【そう睨まないで】とマリアが言うと、ヒロは【本当にそれでいいのか?国連の連中は自分達が犠牲を払う積もりは無いんだぞ、あの話し方は遠回しに、犠牲を全て丸投げするつもりだ、俺たちが死んでから、また考えようってのが見え見えだ】と言う。
ヒトミが【落ち着きなさい、あの人達も仕方ないのよ、こちらもあの人達に
何か求める積もりじゃ無いわ、アリバイと証拠を作りたかっただけ】と言う。
ヒロが【何のためにだ、娘達の命まで危険にして何のアリバイを作るんだ、
金を出させるためか】と言う。
ユリが【本当に捻くれているね、友歌ちゃん達を最終的に助けるためよ】と言う。
ヒロが【それなら最初から受け入れたら良いじゃないか、100万人くらいの人数
ならユニオンの力で何とか成るだろう】と言う。
マリアが悲しい顔で【無理ね、地球の人間にそんな許容力が有るとも思えない、
お金や資源の問題では無い、心の問題よ】と言う。
ヒロが愕然として【それならユニオンが守ってやれば良いだ】と言う。
マリアが【そのためには彼らに、私達の力も示さなければダメなのよ友歌さん達は
以前の差別され、世界に散らばった民族と同じ心境なの】と言う。
ヒロが解った【それなら娘たちは巻き込むな俺たち大人だけで何とかする】
と言うと、ユリが【お願いマリちゃん達が命綱なの、私が責任もって彼女たちの
安全を確保する、そのための手筈も準備しているから】と懇願するのだ。
ヒトミが【とにかく落ち着いて、皆で食事でもしましょう、貴方も昨日からまともに
食べて無いでしょ、朝からサプリとアミノ酸しか取ってないし】と言うと。
ヒロが【一日ぐらい問題ない、ボクサーは数日塩分さえ抜いて、アミノ酸とビタミンだけで過ごす俺にはまだ体内に脂肪も筋肉も、たっぷりリザーブが有るから一週間ぐらいアミノ酸と水分で活動できる)と答えると、ユリが【これ以上バカに成ったら困るでしょ】と言う。
ヒロが【良いんだよ、脳の顕性遺伝は、全部姉ちゃんに持ってかれているから、気にするな】と
答える。ユリが【やっぱヒロ君面白いわ、実験動物として】と言う。
マリアが【まあ仲良くしましょ】と言ってマリ達を呼んで、ホテルの中に有る高級鉄板焼き
レストランに入った。
娘達は喜んで居るが、ヒロは少し不満げだ、コース料理で肉の種類と、肉の量
そして追加で、海鮮の鉄板を選べるスタイルだ、ヒロはそのスタイルがあまり好きでは無い、
当然良い素材で上手く焼き上げて居るだろうが、食材でパフォーマンスするのが好きでは無い。
ヒロは海鮮で伊勢海老を選び肉はヒレを100g、頼んだ。
娘達はこの鉄板のスタイルが初めてで喜んで居るようだ。
美樹が【先生乾杯しよう】とヒロにビールを注ぎます。
ヒロが笑って【嬉しそうだな】と言うと、美樹は【私達が一番重要な任務だって
チヅル姉様から聞いた】と言う。
チヅルが【先生、大丈夫よ、私達がマリちゃんを、きっと守るから】と言う。
美樹が【自分の弟子を信じなさい】と言うと、マリアが【頼もしわ、美樹ちゃん】
と言う。
アリサが【先生、大丈夫だから】とヒロの手を握って励ますと。
ユリが【ヒロ君はモテるんだね】と言うと、マリが【ユリちゃん、パパは優しいから皆に人気なの】と言う。
ユリは【ふーん、そうなの】と不思議そうに答える。
食事が終わりヒトミが【少し、上で飲みましょ】とヒロをさそう。
バーに行ってカウンターに座って、ヒロは王室御用達のブレンドウイスキー
ロイヤルハウスホールドを頼む。
ヒトミはショートカクテルのアレキサンダーを頼んだ。
それを飲みながら【二人で飲むのは久しぶりね】と言う。
ヒロが【姉ちゃんも俺も忙しいからな】と言う。
ヒトミが【友歌先生が、居なくなった時のことを思い出すわ】と言うと
ヒロは【あの時はすっかり騙された】と言う。
【悪かったと思っているのよ、あの時は言えなかったの】とヒトミが言うと。
ヒロは【解っている、俺もそこまでガキじゃない、皆に感謝してる】と答えた。
ヒトミが更に【貴方、死ぬ積もりじゃ無いわよね、生きて彼女を連れて帰りなさい】と言うと
【出来る限りはやるさ、マリ達だけは守る、命を捨てもな】と言う。
ヒトミが【本当にバカな子ね】と言いながら手で涙をそっと拭う。
カウンターの中のアケミは、聞こえない振りして、グラスを拭いていた。
翌朝、皆で集まりビュッフェで、朝食を取る、ヒロはマリアとヒトミに
【娘達とユニオンの家に帰る、会議にはもう参加しないで良いか?】と聞く。
娘たちにそのことを告げると、
美樹は【エーッ午後のケーキバイキング食べたかったのに】と不満を言う。
マリが【我慢して私が帰ってケーキを焼いてあげるから】と言うと
ヒロが【もしかしてマリア直伝のあのケーキか】と聞く。
マリが【そうだけど、どうしたの?】と聞くと。
ヒロは【あのケーキは止めておけ】と言う、マリが【美味しいのよパパ】と言う。
ヒロは【美味しいけど夜中ずっと悪夢にうなされた】と言う、
マリは【そんな物入れないわ、きっと邪気を払ってくれたのよ】と言う。
【そんなのじゃ無かった、一週間ぐらい悪夢を見た】とヒロが言う。
【変なパパ美樹ちゃんが、変に思うから止めて】とマリが美樹を見ると
【やっぱりケーキは大丈夫です】と美樹が言う。
ヒロが【ケーキは身体に悪いから、止めておこう】と言い、その日の修行の後に
フルーツで糖分を補った。
因みにケーキは脂肪分と砂糖を一緒に取るから太りやすいがカロリーを
取り過ぎなければ体に悪い訳では無い。
ただし添加物には注意を払う事が賢明だろう。
帰りの車の中でマリが【ウイルス兵器を使うなんて本当かな?ママが
パパの知っているママじゃないって、どう言う事?】と聞く。
ヒロは【会って見ないと解らない、友歌を救い出すしかない】と言った。
アリサはチヅルから新しい暗器(隠し武器)の事を聞いているようだ。
帰ってすぐヒロ達は、修練場に行き、武器を想定した戦術や動きの修行を始めた。
銃器も、レーザーシュミレーターを使っての実技を何度も繰り返す。
経験則を繰り返すしか、武器も体術も体に身に付かない。
午後からはヒロはユリの開発した、兵器のシュミレーターの訓練をした。
脳の切り替えや、コントロールに慣れては来たが、このシステム自体が好きに
成れなかった。
ユニオンは以前からドローンの技術を沢山使うが、自分の指で繊細な
コントロールをして、相手の兵器のみを、無力化する物が大半だ。
ユリは相手の方も大半が、ドローンの戦力と言うが、陸兵も千人ほど居ると言う。
その千人の陸兵をこの兵器で、一気に殺すならば大量虐殺だ。
今後の演習できっと、相手の戦術の子細や、こちらの戦術をユリから
説明されるだろうが、ユリを本当に信じて良いのだろうか、と言う疑念が消えない。
しかしとにかく娘達だけは助けないと、こちらの被害も出来ればゼロで。
ヒロは国連の態度が、太平洋戦争の末期、劣勢となった日本軍が戦局を
挽回するために、アメリカの戦艦への体当たり攻撃である「特攻」に踏み切り、
最終兵器として、戦艦大和を作り、それを特攻させた連中と同じに感じた。
莫大な費用を費やし大和を作りながら、それを特攻と言う無棒な作戦に
費やした、当時の天皇と海軍司令部と今回の国連、自分たちは何もリスクを
負わず、ヒロとユニオンに丸投げする連中は皆、同じだと思ったのだ。
そんな思いと共に、トレーニングと修行や訓練が続き、1か月後に
砂漠の一部を封鎖して五百人が、様々な演習や船や武器の扱いを訓練した。
何よりも驚くのはその武器の威力です。
重イオン加速器で加速して、ビーム、重粒子線を扱う武器。
ヒロの扱う兵器は、超強力な電磁波を利用した、指向性エネルギー兵器をドローンに備えた飛行型の兵器だ。
大型のタンカーを敵に見立てた演習で一瞬でタンカーの形が変形する、威力だ。
ヒロはマリアがこの戦いに、国連や他国の人間を加えなかった理由をようやく
理解した。
こんな技術が有ると判ると、世界が変わる。
大体この武器に使用される、膨大なエネルギーシステム自体、素人の
ヒロにも晒してはならない物だと理解出来た。
ユリと言う女は恐ろしい女だ、余計に地球に来て協力したのが不思議に思った。
ヒロはこの演習中ユリに直接何度も理由を聞いた。
ユリは友歌を助けたい、の一点張り。
ヒロが【大体、このシステムを、君が向こうで開発したんだろ】と聞く。
ユリが【私一人じゃない、研究チームで造ったのよ】と言う。
ヒロが【それは俺たち地球を、攻めるために作ったんじゃないのか?】と聞く。
ユリが【違うわよ、別の理由が有る、あの星の、事情が有るのよ】と言う。
ヒロが【ウイルス兵器も君が作ったのか?】と聞くとユリは
【面倒臭い人ね、ヒロ君の事思って黙っいて上げたのに友歌ちゃんが天才的な医学者
だって知っているでしょ】と言う。
ヒロが【何を言っているんだ、そんな事が有るわけない、何のために俺を騙してる、ウイルスも君が作ったんだろ】と言う。
ユリが【悔しいけど、医学については友歌ちゃんは天才なの、それにユリちゃんも 好きでそんな危険なウイルスを開発した訳じゃ無い、同じウイルスの治療の研究をしていたの、よん所ない事情で、
ウイルスを兵器にするしかなかったのよ】と言うのだ。
ヒロが【まさか使ったのか】と聞くと【仕方無かったの、あっちに行けば解るわ、
友歌ちゃんは二重人格を患ってしまったのよ、あちらでは良く有る
ケースなの、それくらい追い詰められていたの】と答える。
ヒロは呆然とするしか無かった。
チヅルやアリサ、マリや美樹、使節団として行く人間は女性のみ
である、ユリからあちらの風習や施設のこと、話し合いの戦略など講義を受けた。
使節団にはエージェント以外のスタッフも居る、そのスタックにも護身術などを
アリサやチヅルが教えた、因みに護身の基本は逃げ方だ。
相手を倒すことに、未練を持っては逃げる事が出来ない
時に逃げるスキを作るための技術だ、攻撃は一撃でダメージを与える事が
必須で有る。
普段の生活で使える身の周りの物を常に想定し
力の弱い女性は攻撃に情けを持たない事が寛容でもある。
一番大切なのは常に危険に近づかない事で男性と安易に二人っきりに
成るのはお気楽すぎる行為だと言う事を肝に銘じるべきだ。
演習や戦術の部分で驚いたのは、すべてが広大な砂漠と言う設定で
相手の施設は地下の中に有る。
外に出撃した敵を攻撃する設定だった。
相手の城は地下の中に埋まっていて籠城を取っている設定だ。
しかしアラブのドバイが砂漠にビルを沢山建てて年を作ったが
砂漠に地下に人の住む都市を作ったとは驚くべき事だと感じた。
それほど荒廃した小さな惑星のような物を移動させる技術力にも驚愕してしまう。
ユリが言うには月の三分の一くらいの、惑星を移動させていて、そこには地球と同じように空気が存在するらしい。
しかし緑の無い、そんな場所に空域が散在するのか。
それも技術力で造られたものなのか。
そんな高度な文明と戦えるのか、更に不安になる。
ヒロは、例えウイルスのリスクを考えても、地の利の有る地球で戦う方が
有利では無いのか、と思うがもうスタートしているのと、同じである。
不安が残るまま演習が終わり、一旦、日本に帰って一週間ほど準備と休息をして
あちらに出発することに。
こちらは母船二艘に、百五十人と三百五十人に分れ、あちらに向かう。
目的の場所まで二カ月必要だ。
ユリは自分の通信設備で、向こうの仲間と連絡を取り、こちらの使節団と交渉の
準備を行ってもらう、日本に帰ったのは、六月半ば梅雨には入って無かったが、ヒロには空が梅雨色に見えた。
日本最後の夜は、皆で家で過ごす、予定ではヒロ達先発の後、残りの後発にマリアが搭乗して
やってくる予定だ。
最後の夜マリアも日本に来て、マリ達とヒロを見送ることに成った。
今日は総勢十一名分の食事をヒロが用意した。
魚貝類はオホーツク産の毛ガニを人数分湯がき、刺身はアイナメ、ヒラマサ、
カレイ、タコを刺身に、そして牛すじ肉とジャガイモ、玉ねぎで肉じゃが
マリアとヒトミのために高級なチーズ、ウオッシュ、白カビ、アオカビのチーズセットと生ハム、のオードブルを作った。
最後の日本酒に選んだのは、三重県の作、中取りと、ほしいずみ夢吟香大吟醸だ。
マリが【向こうに行っている間、美樹ちゃんもお酒飲めないね】と言うと、
美樹が【えっ?なんで?】と聞く。
ユリが【講習で言ったでしょ、あの星ではお酒は違法で重罪なのよ】と言う。
美樹が【聞いてない、そんな国さっさと滅ぼして姉様の母様だけ助けて
帰りましょう】と言う。
ヒロが【アホか、酒、禁止の国滅ぼしたら、中東の大半の国と戦争しなけりゃ
いけなくなる】と言う。
美樹が【そんな人権無視の法と、私は断固、戦う】と息巻いてる。
ヒロが【お前を連れて行くのは、やっぱり心配に成って来た】と言うと。
美樹は【エース抜きでは大変でしょ、見つからない様にこっそり飲むから大丈夫】
と言う。
ヒロはますます心配に成るのであった。
翌日ヒロ達は百五十人を先発隊として出発します。
ユニオンの船は木星まで約二カ月で近づける。
スペースシャトルの十倍以上のスピードで推進します。
そのため莫大なエネルギーを必要としますので、大きな船には水から水素と酸素、
そして人間の輩出した二酸化炭素を分解して酸素とカーボンを作る循環システムを
搭載しています。
何度見ても良くこんな艦をワザワザ作り、遠くまで遠征をする気に成ったとヒロは
思った。
艦の中は思ったより広く、空間が取られ、二カ月の期間が苦痛に成らない様に
作られています。
因みに重力は、磁力や推進力で自動調整され地球と変わらない重力です。
操縦システムは、全てユリが作ったプログラムにより、自動化されています。
到着するまで大半の人間は、普段の生活以外、やることが無いのです。
二カ月の間船の中で訓練や、トレーニングを兵士は行い。
それぞれの任務に応じ準備をしていきます。
食料はほとんどレトルトや、容器に詰められた物とサプリ等で、我慢するしか
有りません、ヒロにはこんな時は、オートミールとプロテインバーや
プロテインドリンク、プロテインバーが役に立ちます。
ヒロの船にはジャンやシュウも乗って居ます。
二人とも銃器、飛び道具のスペシャリストで戦いに成れば、大きな戦力に成ります。
ヒロに取っては修行で組手や約束組手の相手として、うってつけな二人で
娘達や彼らと修行を繰り返すことで退屈な日常が苦には成りませんでした。
娘たちはユリが開発した、向こうの言葉の翻訳機と、ユリの授業でコミ二ケーションが完璧に出来るように訓練をしていた。
愚才な武人と天才少女たちの魂の伝承 十三章 日本での異変と変革 不自由な新自由主義の反乱児 @tbwku42263
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