「ダンジョン革命! ~スライムが目指すホワイト職場~」

ゴジュラスGO中将

第1話 最底辺モンスター、目覚める

――暗い。冷たい。そして、臭い。


目が覚めたとき、俺は真っ先にそう思った。

…どこだここは?

会社の床じゃない。家の布団でもない。天井も壁も岩だらけで、照明の代わりにぼんやりした緑色の光が漏れている。


「……ん?」


自分の体を見下ろして、俺は絶句した。

足が、ない。手も、ない。いや、そもそも頭がない。俺はぷるぷると揺れる半透明の塊だった。


「おい、サボりか?」


突然、背後から声が聞こえた。驚いて振り返ると、そこには同じようにぷるぷるした何か――スライム――がいた。


「あ? 見ねえ顔だな?なんだ新人か。だったら早く自己紹介しろ。俺たちはバディでやるんだからな」

「じ、自己紹介?」


俺の困惑をよそに、そのスライム――名前もわからないが、とりあえず“先輩”と呼ぶことにした――は、ため息をつくように体を揺らした。


「ったく、最近の新人は緊張感がないな。ここはダンジョンの『入口フロア』だ。俺たちスライムは最前線だぞ? 冒険者と最初に戦闘をするのは俺たちなんだよ」


「冒険者?」

俺は聞き返した。


「そう、冒険者。剣やら魔法やらで俺たちを倒して、宝を持ち帰る野蛮な連中だ。

俺なんて通算3285回やられてる」


何だこの話は。俺は理解が追いつかない。というか、俺はなんでスライムになってるんだ? 昨日まではただのサラリーマンだったのに。


「えっと……」

混乱しつつ、俺は恐る恐る尋ねた。

「ここはどこなんですか?」


「だから、ダンジョンだって言ったろ? お前、本当にド新人だな。まあいい、すぐ慣れるさ。最初は怖いかもしれないが、何度でも復活できるから安心しろ」


「復活って……、まさか、死ぬんですか?」


先輩はぷるんと跳ねる。

「当たり前だろ? 俺たちは最弱モンスター。よっぽど運がいいか、相手がメチャクチャへぼい時くらいしか、勝てないんだよ。

子供にだって負けるくらいだ。冒険者になんて、ほぼ100%負けると思ってて間違いない」


その言葉にぞっとしたが、突っ込む間もなく、洞窟の奥から足音が聞こえた。重いブーツの音、そして金属のカチャカチャという音。


「来たぞ!」

先輩が身構えた。


「新人、お前はこの左端で待機な。俺が囮になるから、うまく冒険者の隙をついて反撃しろ。できるだけ頑張って冒険者を疲労させるんだ。それが俺たちで最弱モンスターの役目だ」


「いや、ちょっと待って! 俺、どうやって戦えば……」


そんな俺の困惑をよそに、先輩は冒険者の前に踊り出た。

「さあ、やるぞ新人!」


相手は二人組の冒険者だった。一人は筋骨隆々の戦士、もう一人はローブを着た魔法使い風の男。戦士が剣を構えながら叫ぶ。

「スライムか。ウォーミングアップにもならんな!経験値も少ないし、雑魚モンスターのくせに鬱陶しい!」


剣が光を反射しながら振り下ろされ、先輩はあっけなく真っ二つにされた。


「えええっ!?」


恐怖で体が震える――というか、ぷるぷる揺れる。転生初日からこれなのか? 転生した事すらまだ飲み込めてないのに!?


「おい、新人!」

先輩の声が耳に届く。なんと、真っ二つになりながらも意識はあるらしい。先輩の無惨な残骸が、俺に檄を飛ばす。

「びびってねぇで、お前も戦え!まだ終わりじゃねえ!」


だが、俺は動けない。怖い。どうすればいい? そんな俺の迷いを見抜いたように、戦士がこちら気づいて、俺を眺める。


「なんだこのスライム。仕事に疲れたおっさんの顔みたいな模様があるぞ。ユニーク個体か?!まあいい、さっさと倒すか」


剣士が剣を振りかぶる。

その瞬間――俺は生き延びるために、なんとか必死で体を伸ばし、戦士の足にしがみついた。


「おおっ!? なんだこのスライム!」


「今だ、やれ!」

先輩スライムが叫ぶ。


俺は勢いで体をぐっと締め付けた。足を掴まれた戦士がバランスを崩し、背後の魔法使いにぶつかる。その瞬間、魔法使いの詠唱待機してい火の玉が暴発し――


「「ぐああっ!」」


まさかの自爆。二人の冒険者はあっけなく倒れた。


洞窟に静寂が戻る。先輩が泡のエフェクトに包まれながら言った。

「へへっ…やれば、出来るじゃねえか」


俺は呆然とその場に立ち尽くす――いや、転がり尽くす。これから俺の「モンスター」としての人生が始まるのだと、ようやく実感した。


(……どうしてこうなった。)


――つづく――

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