霊媒師リリカの受難
やばくない奴
霊媒師ギルド
霊媒師リリカ
とある村は、阿鼻叫喚の地獄だった。三体の霊獣による襲撃を受け、人々は逃げ惑うばかりだった。そこに駆けつけたのは、三人の霊媒師だ。
「奴らを仕留めるぞ!」
「おう!」
「俺たちの出番だな!」
一人は斧、もう一人はハンマー、そして残る一人はモーニングスターを携えていた。彼らは一斉に前方へと駆け出し、眼前の霊獣と交戦した。しかし三人の攻撃は、まるで通用していない。そればかりか、霊獣の反撃により、霊媒師たちは徐々に退き始めている。このままでは、村を守ることなど叶わないだろう。
その時である。
「下がってろ、オレがやる」
そんな宣言と共に姿を現したのは、左手に指輪をはめた少女だった。直後、彼女の手元には、一本の大剣が生み出される。その光景を前に、三人の霊媒師は息を呑む。彼らはすでに、満身創痍の有り様だ。
「武器を生成する『魔術』か……!」
「この場は任せた方が良いかもしれないな」
「チクショー……また手柄を他の霊媒師に取られちまう」
この時、三人は何かを悟っていた。魔術を持たない彼らは、眼前の少女には敵わないだろう。
少女は振り向き、自己紹介をする。
「オレは
得意気にそう言い放った彼女の背後には、すでにオオカミ型の霊獣が迫っていた。されど、ここで対応できない彼女ではない。この少女は、歴とした霊媒師だ。
「よっと」
リリカは大剣を振り回し、霊獣を退けた。それから大剣は弓に変わり、放たれた矢は容赦なく標的の身を貫く。そんな戦闘を繰り広げつつ、彼女は歌を口ずさんでいる。
「空がなぜ青いのかを知りたがっていた僕は今」
先ずは一体の霊獣が仕留められ、その場で爆発する。
「人がなぜ生きるのかを知りたがっている」
リリカはゴリラ型の霊獣を睨みつけ、構えていた弓を巨大なハンマーに作り変えた。
「星がなぜ光るのかを知りたがっていた僕は今」
続いて、彼女はすぐ目の前まで迫っていた敵を殴り飛ばした。そんな彼女の背後から、残る最後の霊獣が襲いかかる。
「命が産まれる意味を知りたがっている」
ハンマーは盾に変形し、攻撃を受け止めようとした。しかし盾は粉砕され、タコ型の霊獣の触手がリリカの両足を捕らえた。触手にその身を持ち上げられた彼女は、一見すれば命の危機にある。その瞬間を目の前にした霊媒師たちは、少しばかり動揺する。
「まずいぞ、このままじゃ……!」
「案ずるな。魔術を使える霊媒師は拘束にも対応できる」
「そうか! 霊媒師による攻撃は指定した対象にしか当たらない……つまり……!」
彼らが言うには、リリカにはまだ余裕があるようだ。そんな彼らの予想通り、リリカは不敵な笑みを浮かべる。直後、彼女の胸部から大剣が飛び出し、眼前の標的の腹を貫いた。そして妙なことに、リリカの胸からは一滴たりとも血が流れていない。そう――彼女の大剣は、彼女自身の体には「当たっていない」ことになっているのだ。彼女は着地し、呼吸を整える。
「これでカタをつける」
そう宣言したリリカは、その場に爆弾を生み出した。霊獣は依然として、先ほど与えられた刺し傷に苦しみもがいている。
直後、その場は激しい爆発に呑まれ、最後の一体も木っ端微塵になった。唖然とする三人の霊媒師の方に目を遣り、リリカは声をかける。
「見た? 見た? オレの活躍、スゲェだろ?」
少しばかり、彼女は興奮気味だ。霊媒師たちは苦笑いを浮かべ、口々に話しだす。
「戦闘中だけはカッコよかったよ」
「何お前、褒められるために霊媒師やってんの?」
「コイツが俺たちより強いの腹立ってきたんだけど」
先程とは打って変わり、彼らは目の前の自信家に呆れ果てるばかりであった。そんな三人の態度を前にしても、リリカの言動は変わらない。
「何が悪いんだ? オレはただ、オレを好きなだけ!」
そう返した彼女は、満面の笑みを浮かべていた。
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