君がくれた勇気

@okahano

第1話

友達になりたいって思うのはさ、その人が人気者だからなのか、その人の人柄とか性格とかが気に入ったのかどっちなんだろう。」

車窓に映る岩手山を眺めながら問いかける君の顔は夕日に照らされてよく見えなかったがなぜか泣いているように見えた。私がその言葉を咀嚼しているうちに

「大丈夫だよ、ただの独り言だから気にしないでね。君と会えてよかったよ。またね」と言い、到着メロディーとともに電車から降りて行った。「どうしたんだろう。」それだけで頭が埋め尽くされていく。心配ではあったが、夜に電話する約束をしていたので、そのときに聞こうと思い、電車をあとにした。修学旅行だったから帰るのは一週間ぶりでテンションが上がり、ウサイン・ボルト並みのスプリントで家路を駆ける。久々の家のドアを開け「ただいまー!おみやげの八つ橋、大量に買ってきたよ!」と叫び、居間で寝ていた母を叩き起こした。寝起きで機嫌は悪かったが好物の八つ橋を見るなり、「いまたべてもいい!?」と小学生のように皿とフォークを全速力で用意しせっかく梱包した包みもビリビリに破りさき、テレビを見ながら食べ始めた。私が荷物を片付けようとした矢先に

「速報です。18時にYJ田所線の線路内で人身事故があり、身元不明の高校生が意識不明の重体で発見されました。警察は自殺を図ったとみて捜査を進めています。」とテレビキャスターが淡々と読み上げた。


僕は県内屈指の進学校に入学した。同じような考え、同じような性格の人がいて充実した高校生活が過ごせると思っていた。でも、現実は違った。陰湿な陰口を言うやつ、授業中にゲームをするやつ、仲間外れにするやつ、群れて他人をけなすやつ。頭がいいから、優秀だからといって人格も優れているとは限らないと思った。一緒にいても疲れるだけだと思い、部活を辞め、勉強に専念し友達付き合いを疎かにしていたせいだろう、気づいたころにはどこのグループにも入れなくなっていた。 

今日もいつも通り、ヘッドホンを耳につけ一人で弁当を食べていたが、肩の感触に気づき、見上げるとそこには前園さんがいた。前園さんはクラスでも、いや学年でも一番可愛いと言っても過言ではないほど容姿端麗だった。自分に話しかけるなんてろくなことじゃないんだろうと思い、重いヘッドホンを外すと聞こえてきたのは「一緒にご飯食べてもいい?」というありえない一言だった。

「いいけど、なんで僕となんか一緒に食べようとおもったの?」狭い机の上に彼女はテリトリーを広げていく。

「勉強の仕方おしえてほしいの!この前の考査で赤点とっちゃってさ、確かこの前の考査一位だったよね?」

「前回はたまたまだよ」自慢はしたくないので、謙遜する

「休み時間とかも、ずっと勉強しているからすごいよね。大学どこ行くか決めてるの?」

「一応は東大かな」

「じゃぁ、私もそこ行く!」

現実はそう甘くないと言ってやりたいところだったが、苦笑いをする。

「これから昼休み一緒に勉強しよ」

彼女の提案には頷くしかなかった。

次の日からだった、僕の日常は変わってしまった。

これまでかかわることのなかった。僕が嫌いな仲間内だけで盛り上がる集団いわゆる、一軍と呼ばれるやつらにからまれるようになった。

「お前がなんで前園と一緒に勉強しているんだよ。」「俺も一緒にやっていい?」

明らかに前園さんを狙っている男子から冷たい目線で見つめられ、僕と関わることで前園さんと関係を築こうとしているやつらが群がってくるが僕はもちろん他人の介入を拒み、二人だけの勉強会を開く。

「前園さんほんとに僕と絡んでもいいことないと思うけどな」

「そんなことないよ!だって勉強教えてくれるし、優しいし、話してて楽しいじゃん!そんなことよりもさ、この問題の解き方おしえてくれないかな?」人間関係はこんな問題より難しいだろうと思いながら、解き方を教える。

「あ~、そういうことね!わかった!やっぱ私は天才だわ」

簡単な問題わかったくらいで調子乗るなと軽くあしらい、互いに笑いあった。

それからは、ほぼ毎日のように昼休みと放課後は一緒に勉強するようになった。

そんなある日、学校にいつも通り登校すると靴がなくなっていた。そこにはおき手紙がひとつ、「前園と関わるな」と大きく書かれていた。職員室でスリッパを借りてなんとか階段を上がる。クラスに行くと真っ先に前園さんが

「どうしたの?」と話しかけてくれたが、心配をかけたくなかったから「昨日持ち帰ったけど家に忘れちゃった」と言った。この件は言わないつもりだったのに清掃時間にゴミ箱から僕の靴が見つかったことでそうもいかなくなった。

「先生に呼び出されたから先に帰ってていいよ」と前園さんに言い、教室を後にする。先生に誰に捨てられたか心あたりがあるかと言われたがクラスのほぼ全員からヘイトを受けているせいで容疑者を絞ることができず、わかりませんと言うことしかできなかった。

昇降口に行くと僕のことを案じて前園さんが待っていてくれて、「なんで本当のこといってくれなかったの!?」と駆け寄ってきた。

「先に帰っていていいって言ったのに」

「帰り道なんかあったら心配だから、途中まで送っていくよ」

僕の事を心配してくれるのは前園さんくらいだろう

「ありがとう」僕の目からは意図せずとも涙が零れ落ちていた。

「女の子に待ってもらってそんなに嬉しかったんだ」という彼女の一言で涙は止まったが、そんな無邪気な彼女はいつもより美しく見えた。

「なんで本当の事言ってくれなかったの?」道端にある石を蹴飛ばし、不満そうな顔をする。

「実をいうとさ前園さんと関わるなって手紙が下駄箱にはいっていて」

「えーーーーーーー!私のせいってこと?」

「いや、前園さんのせいじゃなくて、根暗で陰湿な僕が君みたいな素敵な人と関わってるのがわるいんだよ」

「違うよ!その手紙書いて、靴捨てたやつが悪いんだよ。思い当たる人いないの私が言ってあげるよ。」

「あの5人組かな。いつもつるんでいる」

「分かった。明日ボコボコにしてあげる」とごぼうのような上腕二頭筋を見せつけてきたが、なにかあったら嫌なので「しなくていいよ」と威嚇する猫をなだめるように諭した。

「高校でもいじめってあるんだね。てっきり、頭が良くなればいじめってなくなると思ってた」と前園さんは駅へとつながる歩道橋の階段を上る。

「僕もそう思っていたよ。」と彼女に続き、駅に入っていった。

「どこの電車乗るの?」と聞かれたのでYJ田所線の810系に乗るよと言ったら同じだったらしく、一緒に乗って帰ることにした。

駅のホームの向かい側にはあの5人組がいた。

「いたよ。あいつら」と前園さんがホームの最前列にいこうとしていたので、必死にとめようと「前園さん、だめだよ」と腕にしがみつき抵抗するもむなしく、ホーム全体に

「織戸の靴捨てたやつゆるさんからなあ」が響いてしまった。「はぁ、すっきりした」と当の本人はにっこり満足気だが、僕は全身に冷や汗をかくのを感じた。あいつらがやり返さないはずがないと思った矢先に

「織戸~!そこでまっとけよ!」という怒号とともに足音が近づいてくる。

「逃げよう」

前園さんの手を握ってホームの一番端まで逃げる。

「一番線に田所行の列車が到着いたします。黄色い線まで下がってお待ちください」

待てるわけがない、もう近くまであいつらはきているだろう。早く来い、お願いだから来てくれ。「スリルあって楽しいね」と楽観的な前園さんを柱の陰に隠し周りの様子を伺ったが、ここまではきていないようだった。

「あ!電車来たよ」鋭いブレーキ音を唸らせ、救済のドアが開く。二人で真っ先に駆け込んだ。動き出す車窓の向かい側にはあいつらの醜い顔がへばりついている。

「危なかったね」前園さんはジェットコースターに乗ったかのように楽しそうな顔を浮かべていた。

「殺されるかと思った、」

「スリルあって楽しかったじゃん」彼女には恐怖心というものがないらしい。

「明日から学校どうするの?」と不安げに尋ねる

「私がなんとかするよ~」

「君がいじめられるかもしれないんだよ」

「それでも私は君の友達でいたい」

「優しすぎるよ、君はもっとかっこよくて性格のいい人と一緒にいるべきだよ」

「かっこよくて、性格がいい人が君なんだよ」彼女の言葉はいつも僕を救ってくれる。

「前園さんを失いたくない」

「大丈夫だって!いなくなったりしないし、いつまでも友達だよ。電車ついたから降りるね。帰り気をつけてね」そういって彼女は電車を降りて行った。


次の日、登校すると靴の中に画びょうが入っていたが中から取り出し、気にせず教室へ入る。そこでは5人組と前園さんが口論をしていた。

「なんであんなやつとつるんでるんだよ。俺たちと一緒にいた方が楽しいぜ」それは最もなことだろうとお思う、魅力がないはずの僕にかまってくれるのは疑問しかなかった。

「それは私の自由でしょ、もう二度と私に関わらないで」そう言い放ち、彼らの元から去って僕の方へ歩み寄ってきた。

「昨日大丈夫だった?」

「うん。大丈夫だよ。迷惑かけてごめんね。」

「友達じゃん!お互い助け合うのは当たり前だよ~」

なんて優しんだろう。クラスメイトを避けて浮いているのは自分なのにこんな僕をみとめてくれるのはなぜなんだろうか。

「私がガツンと言っといたから、もう大丈夫だよ。」

助けてもらってばっかりで情けない。

「お礼に今日の夕ご飯奢るよ」僕ができるなんてこれくらいだろう。

「勉強教えてくれるからいいよ!」ひまわりのような笑顔で答えてくれた。勉強を教えるその程度でいいのだろうか。


今日も清掃を終え、教室へと向かう。そこには単語帳をめくる彼女がいた。

「掃除お疲れ様!遅いからもう帰ちゃおうとおもったよ」

「帰っててよかったのに」

「私がいなきゃ帰れないくせに」目を見開いて煽ってきたが知らないふりをした。

「来週から修学旅行だね。」

そうだ。来週から陰キャの僕にとっては憂鬱な修学旅行が始まる。一緒にまわる男子がいないわけでもないが、どうせグループになってまわるのだから、はぶかれるのは目に見えていた。

「一緒にまわる人いないの?それなら一緒にまわろうよ」前園さんはそういってくれるが、世間の目もあるだろう。

「女子で一緒に行くひといないの?」

「いるけど、つまんないから織戸君とまわりたい」

「じゃあさ、自主研修だけ一緒にまわろうよ。前園さんもクラスの女子とまわったほうがいいよ」

「わかったよ~。自主研修は絶対一緒にまわろうね」

「どこ行きたい?」

「やっぱり、遊園地でしょ」

僕はもう遊園地なんてずっと行ってない。本当に楽しめるかは分からない

「嫌なの?」

「友達といったことないから楽しめるか分かんないなっておもって」

「心配しないで!私が楽しませてあげる!」

二人で予定をたてて、遊園地にいくことにした。

しかし、物事はそううま上手くはいかないようだ。次の日の朝に前園さんがクラスの女子から嫌われ始めていることを知った。原因はもちろん僕と関わっていることだ。自主研修で僕と一緒にまわることになった前園さんは、女子のグループから外され始めた。「前園さんのためにも僕と関わるのはやめた方がいいよ」と何度も言ったが、彼女の意向は変わらないようだったので僕は修学旅行が終わってから彼女と関わることを辞めようと思った。


荷物をまとめ、旅行用パンフレットのチェックリストをうめていく。高校では勉強だけ頑張ろうと思っていた。けれど、本当は仲のいい友達、居心地の良い環境でしか自分の本領は発揮されないのではないかと思う。小中はいい人に恵まれていただけなのかもしれないし、僕の性格、人柄が変わってしまったのかもしれない。どうしたら気が合う友達に出会うことができるのだろう。キャリーケースは服でいっぱいになっているのに僕の心にはなんともいえない隙間があいていた。

「行ってきます。」大家さんに挨拶をしてパンションを出る。もうここには帰って来られないかもしれない。そう思った。

無事に駅に着き、あってないような出発式に参加する。前園さんは修学旅行の学年リーダーなので前に立って挨拶をしていた。僕にはあんなことはできないだろう。本当にすごい人だ。「それでは、新幹線に乗り込んでください」彼女の合図で吸い込まれるように新幹線に搭乗していく、僕は彼女の隣で座れんじゃないかという淡い期待をもっていたが、残念ながら嫌いなあいつらと一緒の席だった。

「お前さ、今、前園がどうなってるかしってるのか?」席に座ると隣の綾瀬君が肩に手を回して話しかけてきた

「どういうこと?」

「お前のせいでいじめられてるんだよ」

戦慄がはしる。僕のせいで、、

息が上がり、過呼吸になるのが自分でもわかった。あんなに優しくて、明るくて素晴らしい人格をもっているのに僕のせいでいじめられるなんてあっていいわけない。

「ふざけるな」声は震えて、手には汗が滲んでいる。心から出た声だった。前の僕だったら、こんなこといってなかっただろう。

「ふざけるなだと、笑わせんなよ」そう嘲笑し、耳元でささ囁かれる。

「お前が関わってんのが悪いんだろ。ボッチはぼっちらしく一人でいればいいだけなんだよ」

「前園さんは僕に生きる意味をあたえてくれる存在なんだよ。お前らになんといわれようと関わるのはやめたくない。」

「それなら、お前が死ぬか、前園とつながりを断ち切るか選ぶしかないな」と言い、一通のメールを見せてきた。そこには、前園さんを仲間外れにするように女子にいいつけるように指示するような内容がかいてあった。

「修学旅行が終わるまでに考えてろよ。それまでは、お前にも前園にも危害はなんもくわえないでやるから。」そう言い、それっきり彼は話しかけてこなかった。

僕はどうすればいいんだろうか、なぜ僕だけがこんな目に合わなければいけないのだろう。なんで僕とは友達にはなってくれないんだろうか。前園さんにはこんな目にはあってほしくない。たとえ僕が死ぬことになったとしても。


向かった観光地は清水寺だった。新幹線から乗り換えバスに乗り、市街地をとって清水寺に向かう。15分ほどで着き、降りるとそこには前園さんの姿があった。

「やっとおりてきたぁ!待ってたよ」と僕の手を引っ張り、人が溢れかえる清水寺へと続く坂へと連れていく。

「先にお土産買ってもいいかな?お母さんに八つ橋頼まれてたんだよね。」そういって、割引の紙を握りしめて、梅香堂にはいっていく。

「すぐ買ってくるから店前で待ってて」と言われたので、僕は店前で売っているアイスを二個注文して、彼女を待つ。

「おまたせ~!奮発して大量に買っちゃった、え!私の分のアイスもかってくれたの!?ありがとう」僕はまだ何も言ってないのに右手からアイスを奪い去り、清水寺へと続く階段を上っていく。僕もそれに続いて行く。お互いにアイスを食べ終え、舞台で写真をとった。女子と2ショットをとることはないと思っていたが、前園さん撮れたことを誇りに思う。彼女の軽快なステップと僕の若干猫背でどこか不安げな足取りは正反対だが、どこか似たようなものを感じた。

「おみくじあるよ~!ひいちゃお~」と言って彼女はおみくじを引く。僕も引いてみたが、案の定”大凶”で彼女は”大吉”だった。

「大吉だっ、やった~!織戸君はどうだった?」

「大凶だったよ。」

「ってことはふたりとも大吉だね」

よくわからないが励まされた。

集合時間がせまっていることに気づき、ダッシュして何とか時間前に到着することができた。ホテルについてからは明日の自主研修を準備をして早めに寝た。


翌朝、ホテルの前で記念撮影をして、出発する。彼女は電車の乗り方を調べてないようだったので、私が先導して京都駅から枚方市へ連れて行った。入口に着くとまだ開園前だった。

「織戸君は何にのりたい?」

「一押しは”レッドファルコン”っていうジェットコースターと高さ50メートルから垂直落下する”ジャイアントドロップメテオ”らしいけど、故障してて乗れないみたいだからなぁ」

「嘘~!それ目当てに来たのに、どうしようね」

「とりあえず、乗れそうなやつ乗ってこう」

「そうだね!」

彼女とまわる遊園地はとても楽しかった。彼女の笑顔、笑い声、しぐさ全てが愛おしかった。時間的に最後のアトラクションだったので勇気をだして彼女に

「観覧車乗らない?」僕は彼女に告白しようと思って誘った。

「いいよ!」

観覧車の中からは枚方市を一望することができた。前園さんは窓の外の景色を楽しみながら写真を撮っていたが、僕は心の中で告白のタイミングを計っていた。観覧車が頂上に差し掛かる。意を決して口を開いた。


「僕と付き合ってほしい。前園さんじゃなきゃだめだ。」


前園さんは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに優しい笑顔を浮かべ、「ありがとう。私も好きだよ。」とハグをしてくれた。僕は全ての幸せを手に入れただろう。全ての人から好かれたい、嫌われたいなんて思わない方がいい。この世に一人でも自分の存在を認めてくれる人がいるならば、それだけで生きる価値はあるだろう。


僕は幸せをくれた彼女を救いたい


宿に帰り、身支度をする。明日はもう盛岡に帰る。前園さんと話せるのも明日で最後だろう。

翌日は大阪城に行き、ガイドの指示に従って行動した。僕のバスと前園さんのバスは号車が違かったため、合流することはできなかった。人の波に流されながら天守閣まで行き、大阪を観る。天下人も人間関係で悩んだことはあるのだろうか。

大阪城をおりてバスに向かう。そこにも前園さんの姿はなかった。

いつからだろう、前園さんがいないときは孤独感を感じる。前は一人で教室の隅でご飯を食べてもそんなことを感じることはなかったのに、自分の気持ちの変化に驚いた。誘導されるままバスに乗り、新幹線に乗り換える。隣に座る綾瀬君は徹夜で外を出歩いていたらしく寝ていた。こいつとももうあうことはないだろう。

駅で解散式を行い、そのまま各自帰宅になった

「前園さん一緒に帰ろうよ」

「うん!」

「修学旅行楽しかったね」

「前園さんのおかげで楽しかったよ。ありがとう。」

「私こそ一緒にまわれて楽しかったよ!ありがとう」

「友達になりたいって思うのはさ、その人が人気者だからなのか、その人の人柄とか性格とかが気に入ったのかどっちなんだろう。」車窓に映る岩手山は美しい。僕はこんなに幸せでいいのだろうか、前園さんを守らなくていいのだろうか。なんで君は僕と友達に恋人になってくれたんだろうか。そう思うと涙が出てきた。もう決意はできていた。

「大丈夫だよ、ただの独り言だから気にしないでね。君と会えてよかったよ。またね」と言い電車をあとにする。困惑する彼女の顔を見送り、幸せを願った。


前園さんには生きる価値をもらった。そんな彼女には幸せに生きてもらたい。ここで僕の人生が終わってしまったとしても彼女が幸せに生きてくれるなら僕は満足だ。

「一番線に下りの列車が到着します。黄色い線まで下がってお待ちください」

僕の体は電車のスポットライトに吸い込まれていった。


体中が痛い、ここはどこだろう。「織戸、織戸君」

そこには涙で顔がぐしゃぐしゃになっている前園さんがいた。

「目を覚ましてくれてよかった。なんでこんなことに、」

「き、君に迷惑をかけたくなかった。」口に覆いかぶさる呼吸器のせいで上手く喋れない。

「だからって、なんかあったなら相談してよ。電車にとびこむなんて」そう言って、抱きしめてくれた彼女の体はとても温かかった。

「織戸。本当にごめん」そこには綾瀬君がいた。

「俺たちの中ではただのおふざけのつもりだった。こんなにも精神的な負担をかけさせてしまって、償っても償いきれないと思っているよ。俺は本当は織戸と友達になりたかった。でも、いじることでしか関わることができなくて、もし、織戸がまた同じ学校に通ってくれるならと友達になりたい。」そういって僕の手を握ってくれた。

「ありがとう。もういいんだ。その言葉が聞けただけで嬉しいよ」

その後、僕は2か月間の療養を過ごし、学校に登校することができるようになった。前園さん、綾瀬君のおかげでクラスにもなじむことができた。

人は対話することで成長する。話さなければ何も始まらない。

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