宴、初日(3)・・・チート舞(VerUp版)
最初の演目が終わり、二番手となる四人の巫女さん達が榊を持っての入場です。
舞台に登壇した巫女さん達による演目が始まりましたが、舞そのもは古来から続く奉納舞です。でもぶっちゃけてしまうと、本来の巫女舞は退屈なものが多いです。舞を奉納する事自体が目的であり、尚且つ厳かにしようとすると、どうしても動きが単調になってしまいます。
そこで萬田先生と相談して、一人ではなく四人で広い舞台を埋めれば見栄えするだろうし、全体が時計回りに回りながら各々が反時計回りに回る事で、バレリーナオルゴールのお人形さんみたいにコミカルで飽きのこない舞になるのでは? ……と提案してみたのです。
四人で舞う事は今までなかったみたいですが、皆さんの反応は好評で明日の演目でも積極的に取り入れてくれました。もっともバレリーナみたいに足を上げる事はしません。この時代の女性は直接肌に触れる下着は身につけていませんから、そんな事をしたら大変です。
あ、でも、巫女の皆さんには私とお揃いのパンツを
いつまでも観ていたいのですが、次は私の番ですので舞台の袖で自分の出番を待ちます。自分自身を落ち着かせるために、先ほどからずっと
オッス、私カグヤ。
【天の声】そのネタ2回目!
現実逃避している間に舞は終わり、遂に私の番になりました。
◇◇◇◇◇
舞台袖から静々と階段を登り、登壇します。
「「「「「ほうっ」」」」」
何故、声があがるの?
まずは神様に一礼です。
演奏が始まりました。
先日の
私も学びました。
【天の声】今更かっ!
そろりそろりと舞を披露します。
そして、扇子の先端からは
チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン!
これは当初からの
『お願い! 舞いの効果と勘違いして!』と念じながら、扇子が
チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン!
ついでに楽隊に人達にも当てて差し上げます。
チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン!
……あれ? 気のせいか観客の皆さん、薄っすらと光っているみたいに見えます。
……どうして?
…………あっ! そうでした!
光の玉を受けてその効果があると、その人はほんのりと光を放つのでした!!
領民のお爺さんを治療した時の映像が頭に過ります。
今までは明るい場所で使うから、全然気になっていませんでした。
皆さん舞台を見上げているのでまだ気付いた様子はありません
ですが、このままでは私がズルをしたのがバレてしまいます。
どうしましょう? どうしましょう? どうしましょう?
光を誤魔化す方法は………もう、これしかありません!
私は舞いの途中で扇子を天に向けて
それと同時に光の玉を
観客から見たら、上空に突如として花火が現れたかの様に見えたはず!
上空が眩しい光で包まれる事で、観客がほんのり光っているのは分からなくなるはず!
何より視線を上に向けてしまえば、客席の状況は目が向かないはず!
そして光の出所は私だって事はバレていないはず!
……たぶん。おそらく。ひょっとして。
「「「「「「「「「「「おおぉっ!!」」」」」」」」」」」
一斉に声が上がります。
私は最後の礼の姿勢を保ったまま、客席の光が消えていくのを確認して、それから四散した光の玉を消失させました。
時間にして五、六秒くらいでしょうか?
私は上空の光になんて気が付かなかったかの様に静々と退場しました。
きっとバレていないはずです。
私が客席に向かって光の玉を撃っていた事も。
上空に現れた光の玉の出所が私だって事も。
……たぶん。おそらく。ひょっとして。
舞台を降りると、萬田先生が私の方へ駆け寄ってきます。
えっ? えっ? えっ?
そして萬田先生は呆気に取られている私をガバッと抱きしめました。
「姫様ぁ〜〜〜、すごく感動しましたわ。こんなに素晴らしい舞を私は観た事もありません。私、感動してしまって声も出ませんわぁ〜〜」
いえ、声出てますやん!とツッコミを入れる間もなく、周りからは拍手が湧き起こりました。
周りを見渡すと、概ね萬田先生と同じ
皆さん、拍手、拍手、拍手の嵐で、ものすごいスタンディングオベーションです。
中には涙を流している方もおられます。
どうやら私のやった
目尻からは涙が溢れております。
「皆の者よ。今宵の宴は生涯忘れえぬものになったであろう。
仄かに光を帯びて登壇する姿は誠に神々しく、また美しくあった。
一部の隙もない舞は観る者を惹きつけ、我が心には天に登るかの様な恍惚をお与えになった。
そして姫の素晴らしき舞に神々が祝福を与え、かような奇跡を呼び起こしたのだ。
まさに神話にし聞かぬ口伝が目の前で起こったのだ!」
「「「「「「「「「「「うおぉぉ〜〜〜〜〜っ!!」」」」」」」」」」」
バレてないけど……。
私、薄っすらと光ってた?
光を帯びていたのは観客だけじゃなかったって事?
そして光の出所は神様!?
何もしないでバレた方が良かった様な気がするのは気のせいかしら?
こんな
逃げ出せるものなら逃げ出したのですけど。
いつの間にか後にいた秋田様が声をかけます。
「姫様、お疲れの所を恐縮ですが最後の挨拶をお願いします」
「………はい」
もうこうなったら最後の最後までとぼけるしかありません。先ほどみたいに静々と登壇して、氏上様の横に立ちました。
「本日お集まりの皆様。私の様な未熟な幼子のためにお越しになられました事を大変感謝します。
この宴は
此度は
本日は誠にありがとうございました」
再び沸き起こる大歓声。
これで良かったのか悪かったのか判別不能、いえ思考が停止状態です。
そんな私に隣にいる氏上様が語りかけてきました。
「姫よ……姫はどこまでも謙虚なお方だ。
この様な神の御技に触れる事が出来た私らは感謝の言葉すらない。
私らが姫にしようとした事は決して許されるものではないはずだ。
なのに姫は私らを許すどころか私らに感謝をすると言って下さる。
私らは神に仕えしことを生業とする氏族。
何時迄も何処までも如何なる場合も私らは姫の助けとなる事を約束しましょう」
思考停止状態の私には氏上様の言葉が重過ぎて、何て答えればわかりません。
どうすれば、どうすれば、どうすれば……
「はい、ありがとうございます」
考える事を放棄した脳みそを無視して、お口が勝手に答えてしまいました。
万雷の拍手の中、もうどうとでもなれという投げやりな思考の片隅で、後悔という名の理性が私にそっとつぶやくのでした。
『もしかしたらとんでもない事をしてしまったかも知れない』
(つづきます)
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