チート幼女の滅びの舞
私は秋田様に抱え上げられて、神社の舞台へと行きました。
お爺さんもお婆さんも一緒です。
舞台には先程会った氏上様とその側近か身内らしい人達が三人ほど居ます。
舞台の袖には楽団の人たちに混じって萬田先生もいました。
「姫様ぁ〜」
萬田先生は私達を見つけると、周囲の目もくれず私たちの元へ駆け寄って来ました。
「萬田様、お元気そうで何よりです」
「姫様、どうして来てしまったのですか?!氏上様は姫様を囲まれるおつもりです。
どうして逃げなかったのですか?!」
「安心して。私は逃げない。私は拐かされない。
お爺さんもお婆さんも萬田様にも悲しい思いさせない」
「姫……さ、ま」
萬田先生は泣きそうなのを我慢していて声が出ないみたいです。
「秋田様、ありがとう。降ろして」
秋田様は抱え上げていた私を下ろすと小声でそっと言いました。
「姫様、どうしようもなくなったら私は姫様を拐って、讃岐へと逃げます。
宜しいですかな?」
「心配しないで。大丈夫だから」
私は氏上様の元へテクテクと歩いて行き、挨拶をしました。
どうして私の身の回りにいる人達はこんなに良い方ばかりなんでしょう。私も涙が出てしまいます。御伽草子の中のかぐや姫は讃岐にいる事がとても幸せだったんだとつくづく感じます。
「今宵は三日月。月を司る月詠様への敬意を込めて、舞を奉納したく存じます」
「讃岐国造麻呂の娘よ。楽しみにしておるぞ」
何が楽しみか分かりませんが、舞が終わる時にはその余裕を吹き飛ばして差し上げます。横にいる側近さんも覚悟してね。
夕暮れどきの薄暗い空の下、私はしずしずと松明の明かりに灯された舞台へと上がりました。そして懐の扇子を取り出して、神様へ一礼します。
私は扇子で天上を指し、ありったけの青白い光の玉を上空に打ち上げました。
どーん!
周りの人達には、突然の雷が落ちたみたいに感じたでしょう。
観衆が眼を瞑っている間に、私は
チューン!
チューン!
チューン!
チューン!
飛鳥時代ではあり得ない程に眩ゆく、見慣れない色の光。加えて、強制的に興奮状態にさせられた氏上様の目にはどのように写ったでしょう。
さて、舞本番です。今回は即興で歌詞を付けます。
国文学やっていた者にとって暗記する事が当たり前の超有名なアノ詩です。
「
猛き者も遂には滅びぬ、単に風の前の塵に同じ〜 」
きっと、幼女に似つかわしくない滅びの歌詞を澱み無く詠う姿は奇妙奇天烈摩訶不思議に見えている事でしょう。
光の玉は私の上方5メートルくらいで滞空しています。スポットライトを浴びた私は、ちょっとしたミュージカルの主人公気分です。
だけど無理矢理興奮させられた氏上様と側近さん達はうめき声しか出ない様子です。だ・か・ら、もっとドキドキさせてあげる♪
チューン!
チューン!
チューン!
チューン!
さて詩も折り返し部分に差し掛かりました。ここから暗記内容が怪しくなります。
でも大丈夫。扇子にカンニング文字を仕込んでありますから。
ここに来る前に学部の試験で暗記した詩を脳みそを絞り出すようにして思い出して、扇子の片面にぎっしり書き込んであります。
「遠くの異朝をとぶらえば〜。
秦の
これらは皆、旧主先皇の政にも従はず〜。
楽しみを極め、諫めをも思い入れず〜。
天下の乱れんことを悟らずして〜。
民間の
久しからずして
(※作者注:『唐の禄山』は飛鳥時代より後の時代の人なので省きました)
最初に打ち上げた光の玉は徐々に光量を減らしていき、ほぼ消失しました。
という事で、締めの光の玉を打ち上げます。
蝋燭の炎の様な温かい光を夕日の様にゆっくりと。
どーーーん!
そして、その光の玉に目が行っている観客に向けて、鎮静の光の玉(不可視バージョン)を撃ちました。
チューン!
チューン!
チューン!
チューン!
もう一発サービスです♪
チューン!
チューン!
チューン!
チューン!
私は深々とお辞儀をして舞を奉納し終えました。
誰もが呆気に取られて何も声を上げません。
当たり前です。そうなる様に仕組んだのですから。
精神の急激な
まして天女かも知れないと思っていた幼女がこれだけの事をやってのけたのです。
ここで「ひっ捕えろー」と言えたら、それは
でも安心して。追撃の手は緩めません。
「
ならば、くれてやろう!」
光の玉を氏上様の隣にいる側近さんにぶつけました。
チューン!
その側近さんはほんのりと光を放った後、髪の毛がハラリハラリと抜け落ちていきました。ドン引きですね。
「すぐには死なぬ。
毛が全て抜け落ちたら、次は爪だ。
爪が全て抜け落ちたら、次は歯だ。
歯が全て抜け落ちる頃にはその身体は生きた屍となり、身体中の血が汗の様に吹き出してくるであろう。
ゆっくりと死の恐怖を味わうが良い!」
……というゾンビ映画を観ました。(笑)
「お、お、お、お待ちくだされ。我々は天女様に害をなす事は毛頭考えておりませぬ。そう思われたのなら行き違いがあっただけに御座います」
「私に虚言を吐くとな?」
氏上様の隣にいるもう二人の側近さんに光の玉をぶつけました。
チューン!
チューン!
その側近さん達もハラリハラリと毛が抜け落ちていきます。
「も、も、も、申し訳ございません。全ては私の独断にて行った事。罪は私めにございます。この者らには慈悲をお与えくだされ!」
あら?意外。
こうゆう時は『秘書が勝手にやりました』というのが定番じゃない?
「
可哀想なので扇子で氏上様を指し示す様に見せ掛けて、精神鎮静の不可視の光の玉を撃ちます。
チューン!
「今、国は大いに乱れているのです。天女様の御威光を以ってこれを鎮めて頂きたくお願いしたいのであります」
ついでだかから
「騒動の元凶は誰(たれ)か?」
「
あー、これは乙巳の変の前ですね。
手に掛けられた皇子という事は……、確か聖徳太子の息子が蘇我氏に討たれたはずです。
「
「はい、歳に似合わぬ博識と視野の広さに感銘致しました」
「もうすぐ、滅びの一族に蘇我氏が加わる。それを知って、なお力を欲するか?」
「まさか、その様な事が起こり得るのでしょうか?」
「私の言葉を疑うのならそれで構わない」
「いや、まさか、そんな……」
「天上の知識ゆえ、全てを明らかにはできない。ただ蘇我氏の凋落には中臣氏が関わる、とだけ言っておこう。
その上で問う。そなたは力と共に滅びの運命を欲するのか?」
「滅相も御座いません。私は国の安寧のみを願っております。
私は身の丈に合わぬ力を望み、一族を滅亡させるような愚鈍に成り下がるつもりは毛頭御座いません」
よし、いい具合に話を誘導できました。
「分かった。私心なき事、罪を認める潔さ、
そして今宵の件は月の美しさに免じ、この件は不問とする」
「ははぁ〜」
氏上様はお白州の咎人(とがびと)みたいに平に土下座しております。
とりあえず、側近の髪の毛を復活させましょう。私はCMのCGで見たみたいな元気な毛根のイメージを乗せて光の玉を三発、気絶している側近さん達へ撃ちました。
ちょっと脅かしすぎたみたい。
ハッタリなのに。ニンニン。
見る見るうちに髪の毛が復活していき、それを見た氏上様は安堵している様子です。
ではあとひと押し。
「
秋田殿に是非お願いしようか」
秋田様、無茶振りごめんなさい。でも恐怖による支配はいずれ綻んでいくものです。仕返しだってあり得ます。仲良くなっておけば、これからも楽しい薄い書物が借りられるでしょう?
「は、はい!喜んで」
氏上様は一も二もなく私の提案に乗って来ました。
「それでは秋田様、お願いします」
「えっ!今ですか?」
「そう、今です」
本当にごめんなさい。こうゆうのはノリが大切なの。
「それでは……
名を…………なよ竹の…………かぐら、うっほん。
なよ竹の
ああ、やっぱ私がかぐや姫なんですね。もしかしたら違う名前になって、違う運命を辿る事を期待してたんですけど……(がっくし)。
【天の声】だから無茶振りしたんかーい!
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