姫検知初日

 さてやって来ました、太閤検地ならぬ『姫検地』。

 護衛の方を手配するのに二日掛かったので、お爺さんにお願いをしてから三日後です。秋田様もご一緒です。現地に詳しい人というのは土間で土下座していたあのお兄さんでした。私が日焼けしない様にと傘を持ったお姉さんもいます。

 護衛の人は三人。この地域の自警団(スポンサードバイお爺さん)、みたいな人達です。真っ直ぐな刀をぶら下げた人が団長さん。ナタみたいな物をぶら下げた二人が団員さんみたいです。ナタが武器なんて秋田の冬の風物詩みたいな方々なのかしら?

 私は泣きませんよ。


「ごきげんよう。よろしく」


「「「ははぁ」」」


 幼女にそんな畏まらなくていいから、と思いましたが皆お爺さんに雇われている身です。言わば今の私は社長令嬢的な立ち位置みたいな感じですね。今日は私のために出勤しているのだから、名目上の雇用主は私。ここはしっかりと言っておきましょう。


「畏まらなくていい」


「そうは言っても、姫様は姫様ですので不敬なことは出来ませんよ」


 秋田様が皆の意見を代弁します。周りの人達は小さく頷いています。


「分かってる。威張っていると思われるの心外。だから言っておきたかった」


「それ言ってしまうんですか?」


「私、正直」


「確かに姫様が素直で正直な方なのは存じております」


「それじゃ始める」


 秋田様との掛け合い漫才で場が温まったので(たぶん)、皆さんをぞろぞろと引き連れて各家を回ることにしました。

 とりあえず一番の最初は、家人のお兄さんの弥生時代にタイムスリップしたかのような家でした。見渡すと皆同じ家みたいです。

 薄い木の板をバインダー代わりにした紙の束を持って家の中に入りました。


「姫様がお越しになられましたで御座います」


 家人のオジサンがムリに敬語を使うから変になってます。いちいちツッコミを入れていたら埒が明かないのでスルーしましょう。スルーする技術は現代の社会人しゃちくに標準装備されております。(※オプションで外すことも可)


「家に住んでいる人、性別、年齢。全部教えて」


「ははぁ」


 いえ、土下座しなくていいから。


「俺……私は家長のゴン蔵、年齢は40くらいだったと思う。

 これが家内、年齢は42。こっちが二人目の家内、年齢は35くらい」


「二人目?」


「え?はぁ。元々はお……私の弟の嫁でしたが、弟が死んで私が面倒を見るうちにそうなりました」


 この時代、子孫繁栄のためには何でもアリって感じみたいです。


「わかった。続きお願い」


「で、一番目の家内には息子が2人、娘が1人。他にもいましたが成人してここを出ました。

 息子の一人がそこにいるヤツです。年齢は二十だったか?

 もう一人は昨年生まれたばかりです。娘は15ですが、そろそろ嫁にいきます」


 ということは一番の目の奥さんと間に生まれた息子さん二人のうち一人が成人しているって事ね。


「ちょっといいかしら?」


「は、はいぃぃ!

 何でございましょう?」


 家人のお兄さんに話を振ったら、こっちがすごくびっくりするくらいすごくびっくりされました。


「お兄さん結婚しないの?」


「いえ、私めは結婚しておったのですが、家内は一昨年病で死んでしまったのです。田んぼを継ぐため、家内が死んでからもずっと家にいます。」


「気の毒……元気出して」


「有り難きお言葉を有り難うでございます」


 ツッこんだら負けですね。スルーして話をゴン蔵さんに戻しましょう。


「続きお願い」


「はあ、二番目の家内には娘が二人おります。年齢は五つと三つ。連れ子だった息子や娘たちは成人して家を出ましたが、娘の一人がそこの息子の嫁でした」


 ……?

 弟さんの奥さんだった二番目の奥さんの連れ子の娘さんと、実の息子の家人のオジサンが夫婦? 義兄妹で結婚してたの!?

 でも、血筋的には従兄妹になのかな?

 そういえばこの時代は異母兄弟でも結婚できるんでした。かの聖徳太子といわれる厩戸皇子うまやどのおうじのご両親が異母兄弟だったはず。おそらく母親が違えば近親者扱いではないのでしょう。


「よく分かった。ありがと。つぎ田んぼ見せて。」


 家の近所にある5反の田んぼを見に行きました。

 田んぼの広さの単位は”タン”。一反は約30メートル四方で、1の360倍との事です。

 と、秋田様が教えて下さいました。

 一歩の大きさを聞いたら2メートル弱四方、つまり一坪くらいです。つまり5反だと……えぇーっと1800坪、かな?

 私は行った事が無いのですが東京ドーム何個分の広さなのかしら?


【天の声】0.4個分だ。


 田んぼの様子ですが、稲の収穫が終わって稲株(刈った跡)がバラバラにあります。しかし現代の感覚からするとすごくスカスカな感じがしました。

 ……いえ、逆ですね。

 もともとこのようなスカスカだった稲という植物を、栽培技術の向上や品種改良といった先人の努力によって進化した姿を私たちは当たり前だと思い込んでいるのです。先人の努力に感謝をしなければなりませんね。

 なむなむなむなむ。

 ただ少し気になるのは、その努力をした先人の方々への感謝の行き先が未来になってしまいます事です。


 はい、これで一件目の調査が終わりです。約十五分掛かりました。子供の体力には限界がありますから、この調子ですと今日一日で調査できるのは二十件くらいですね。


 ◇◇◇◇◇


 お昼過ぎに家へと戻りました。

 傘持ちのお姉さんに足を洗って貰ったのですが、その時、ツキッとした痛みを感じました。どうやら草履で擦れたみたいです。こちらの世界に来てからあまり外に出歩くことをしないので仕方がありません。

 きっと明日はひどい筋肉痛に苛まれそうです。

 疲労感もかなりあります。この幼女の体はもう少し運動して鍛えた方が良いかもしれませんね。

 どうしようかと思案していたら、頭の中にとある四文字が浮かんできました。


 人・体・実・験

 竹取物語の中でこう記載されております。


『(光が満ちる)その子を見るとお爺さんは苦しい事も止み、嫌な事も静まった』

 ……と。


 つまり私か、私の出す光の玉のどちらかにヒーリング効果があるみたいです。その効果が(物語の)お爺さんの思い込みによるものなのか、実際にヒーリング効果があるのか分からないままでしたので、いつか試してみたいと思ってました。しかし、こちらの世界に来てからケガも病気をしていなかったし、光を他人(ヒト)にぶつける機会(チャンス)もありませんでした。

 思い込みの激しそうな(現実の)お爺さんでは実験台(モニター)にならなさそうですし……。


 では実験開始です。

 まずは草履で擦れた足から。


 光の玉を浮かべて

 ……ぽわっ


『傷よー治れー治れー治れー』と3回唱えて、

 光の玉を傷口にそぉーっと近づけていきました。


 ???


 私の作る光は熱を感じないはずなのですが、何故かほんのりと温かく感じます。

 じゃあもっと近づけてみましょう。

 ……熱くはないですね。

 それでは患部にくっ付けてみましょう。


 !!!


 光の玉が足の傷口に触れた瞬間、光は傷に吸い込まれて消えてしまいました。

 すると皮が剥けて赤くなっていた草履ズレはキレイさっぱり消えておりました。


 実・験・成・功!


 やはり光の玉には治癒(ヒール)の効果があるみたいです!

 では次、歩き疲れた脚にやってみましょう。怖いのでまずは右脚だけ。

 光の玉を浮かべて……ぽわっ

『治れー治れー治れー』と3回唱えて、右脚の太もも付近に近づけていきます。

 するとスッと脚に吸い込まれていき、脚に溜まっていた乳酸が一気に流れ去ったかのような爽快感が右脚のみに感じられました。

 逆に左脚の疲れが強調される奇妙な感じに襲われました。


「あわわわわ。左脚も治れー治れー治れーーっ」


 慌てて左脚にも光の玉を呪文と一緒に近づけたら左脚も全快。疲れていた脚がものすごく軽く感じられました。これなら明日も支障なく調査ができそうです。

 スパなどでマッサージを施術してもらったことはありますが、こんなによく効くマッサージを体験した事はありませんでした。この先、黄金が取れなくなったら凄腕のマッサージ師でやっていけそうな気がします。


 ついでにネイルサロンも併設しましょう♪

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