秘技・迷子のフリ!✧キラーン!!

 ***** 竹取物語のお爺さん視点です *****


 ワシは竹取の翁と呼ばれるジジイじゃ。世間では讃岐の一地方を取り仕切る有力者、讃岐造麻呂さぬきのみやっこまろと言われているが、有力者自らが竹林に分け行って細工用の竹を取りに行くことはなかろう。要は落ちぶれて田舎の片隅へと燻っているジジィという訳じゃ。近所の国造くにのみやっこらにも讃岐ウチの貧乏さ加減を揶揄からかわれている。

 お前らも貧乏なくせに!


 隆盛を極めんとする方法が無い訳では無い。じゃがそのためのつてが無いのじゃ。ワシらには伝となる娘がおらんのじゃ。

 まつりごととはゴリゴリの血縁主義。後宮へ娘を采女うねめとして送り出し、帝や皇子の寵愛を受け、子をなし、自らが有力者の跡継ぎの祖父として権勢を揮う。それが一介の国造が政の世界で昇進するための唯一の方法じゃ。ムコ殿の義父として中央に取り込まれれば、後ろ盾としムコ殿を強力に後押し出来る。しかし今のワシにはその資格すらないのじゃ。

 養女を迎える事も考えた。が、政敵ライバルに娘を差し出すお人好しはおらぬ。親類や縁者の者から娘を迎い入れればその者がワシにとって変わるじゃろう。ほら穴みたいな家に住む山猿の如き田舎娘を養女に迎えても中央で教養の無さを笑われるだけだ。領民の中から宝玉の如き娘を見つけることなぞ、竹林から黄金を見つけるくらい無茶なことに思える。


 黄金? はて……気のせいじゃろうか?

 この暗闇の中、竹林の向こうに金色こんじきの光が燦々さんさんと輝きを放っておる。

 光の方へ歩いて往くと、竹林の光に囲まれた一帯がまるで暗闇の中に光の浮島の如く浮かび上がって見える。 そしてその真ん中に女児がった。幼き姿なれど、その神々しさはこれまで見てきた有力者の娘どもとは比較にならぬ。正に黄金の輝きを放っていた。


 ワシは竹林で黄金に輝く宝玉を見つけてしまった……ようじゃ。


 ◇◇◇◇◇


 ***** かぐや姫(?)視点に戻りました *****


 さて、困りましたわ。

 竹林の中で一人、しかもスッポンポンの子供を見ず知らずの場所へ放り込むって、月詠様(仮)は何て酷いことをなさるのでしょうか。このままでは風邪をひいてしまいますでしょ!

 子供はすぐに熱を出すのよ。(プンプン)

 昔話の様に竹の中にいた方がまだ良かったかも知れません。

 ……あ、でも竹の中だったら誰しもが思うあの疑問。

『お爺さんが竹を切った時、かぐや姫はなぜ真っ二つにならなかったのか?』

 を身をもって体験しなければなりません。そんなリアクション芸人みたいに体を張った実験はさすがに嫌です。

 ここが竹取物語の世界だとしたら、いずれお爺さんが来るはず。

しばらく待ちましょう。


 ……………あ、誰か来ました。


 思ったより早かったですね。頭の片隅みに2,3日待ちぼうけする自分の姿がチラッと思い浮かんでおりましたので、ホッと安堵しました。

 ホッと安堵、……ホットサンド。お腹も空きました。


「そこの娘よ、お主は何処から来たのじゃ?」

 あ、やっぱお爺さんだ。でも思っていたより若くて、少しお年を召したオジサンっぽい感じです。この方が竹取の翁さん? 竹取物語の主要人物メインキャラなのかしら?


 ……でもどうしましょう?

『私はかぐや姫。1400年の未来から時の流れを超えてやって来ました』

 と正直に言っても信じて貰えないでしょう。幼い子供がべらべらと喋るだけでもドン引きモノです。

 とするとここはやはりアレよね。


「……わかんない」


 秘技・迷子のフリ!( •̀ω•́ )✧キラーン!!


「おう、そうかそうか。こんな所で心細かったじゃろう。とりあえずウチへ来るがいい」

 やった! 親切そうなオジサンで良かった。オジサンは手を引いて私を屋敷へと連れて行ってくれました。


「婆さんや、竹林に女の子が迷い込んでおった。 何か温かいものを持ってきてくれないか?」


「おぉ、何て可愛らしい女の子じゃないですか。大変だったねぇ。まずは何か羽織るものを用意しましょう」


 出迎えてくれたお婆さんも良さそうな人に見えます。

 どうやら私は安定した異世界ライフが送れそうです。


 ◇◇◇◇◇


 ここで古典『竹取物語』の世界を(頭の中で)お攫いしてみましょう。

 竹取物語は大学で仲の良かった友達の卒論テーマでしたし、私のテーマとも被る部分が多かったのでお手伝いもしましたから、細部までよーく覚えております。


 時代は飛鳥時代末期。

平安時代と勘違いしている人もいますけど、例の五人の求婚者達は実在の人物、もしくは実在の人物をモデルにした登場人物キャラクターです。もし現代でしたら、ネットで炎上、大問題かもしれません。


 場所は讃岐。

 物語の中でお爺さんの名前は『讃岐の造麻呂みやっこまろ』と明記されております。ただし、讃岐といってもうどんで有名なところではなく、今の奈良県の広陵町あたりだと記憶しております。

 讃岐神社へ行ったことがありますので、スマホがあればその時に撮った写真が有るはずです。残念ながら、月詠様(仮)に取り上げられたらしく、こちらへスマホを持ってくることは出来ませんでした。授業中スマホを弄って先生に取り上げられた高校生みたいなものかしら。中を見られて困るモノは無かったと思いますが、中身を覗こうともセキュリティはバッチリです。神様の御力と現代科学セキュリティ、どちらが勝つのでしょう?


 現在の年齢は、不明。

 物語では竹から生まれた時のかぐや姫は3寸(約9センチ)でしたのが、三ヶ月で妙齢の大人になったとあり、ブロッコリー並の成長をしました。しかし今の私が身長3寸と言うことは無さそうです。お爺さんに手を引かれていた時の感じでは、70〜80センチ位はあったと思います。でなければ、お爺さんが身長15センチしかないのか、のどちらかですね。

 とりあえず今後自分の身がどのように成長するか要チェックです。

 ……肥料たべもの大丈夫かしら?


 そしてかぐや姫の特殊能力チート

 かぐや姫の特徴と言えば、光り輝いて屋敷じゅうを光で満たしたとあります。現代ならば電気代の掛からないLEDライト扱いです。しかしこの時代の人には光るだけでも大層なものだったかも知れませんね。

 ところで私って光るのかしら?

 疑問に思ったら即・実験です。早速、心の中で「光れ~光れ~光れ~」と唱えてみました。

 ……え? 

自分の下に影があります。下に影があるという事は……? ふと見上げると光の玉がふよふよと浮かんでおりました。思い返してみれば、先ほどの竹林でも上方が同じ色に光っていました。あの時の発光源はどうやら私の仕業だったみたいです。

まあ、光るだけなら害は無いでしょう。物語の中では、光を見たお爺さんが苦しいことも腹立たしいことも治まったとありました。試しに今度お爺さんに光を当ててみましょう。

 決して好奇心に身を任せた人体実験ではありませんよ。……決して。(汗)


 そして財産。

こう言ってしまっては身も蓋もありませんが、最大の関心事はやはり金です。この先お爺さんは黄金の入った竹を見つけて大金持ちになるという物語ストーリーになるはずです。理科は苦手でしたので自信はありませんが、多分竹から黄金は生えないハズです。ということはこの世界にやってきた私への仕送りとして月詠様(仮)が人為的…いえ神為的に黄金を竹に仕込むのかしら。

 原資が何なのか気になるところですが、月詠様(仮)にお願いしておきましょう。


 なむなむなむ……あ! 忘れてました。


 一番の問題はやはりアレですね。

 私がかぐや姫ならば、性格がイマイチな五人の求婚者達と、もっと性格の悪いかぐや姫との陰湿なバトルが勃発する筈です。結婚したくないばかりに無理難題を吹っ掛け、求婚者たちが破滅していく様をほくそ笑む様な悪女オンナにはなりたくありません。出来れば求婚者達に気持ちよくお引き取り頂きましょう。現実に目覚めた求婚者達と、結婚したくない私の双方がまぁ~るく収まるはずです。


 とはいえ……求婚者達の性格は変えようがありませんので、私が変わるしか無いでしょう。

 つまりはアレです。貴族社会に転生した悪役令嬢が破滅フラグを折るというラノベ的展開……なのかしら? 月詠様(仮)も『過ちを繰り返すな』みたいな事を仰ってましたから、きっとそう!

 ならば性格が良くて要領のいい悪役令姫かぐやひめを目指します、ですわよ。


 オーホッホッホ……けふんけふん。

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