アニメ台を馬鹿にされてブチギレるロリババア

「ほぅ、『異世界花子』もついにパチスロになりおったか」


 新台の広告を見て儂は口元を緩めた。

 確か20tとらっくに撥ね飛ばされた女が異世界に転生して男を侍らせる話じゃ。


 近年、アニメ作品が続々とスロットになっておる。

 遊技人口が減りつつある業界が若年層の獲得に奔走しておるのじゃ。

 最近撤去された『魔法中年反吐かワキガ』は大人気じゃった。

 そういったアニメ色の強い台は『アニメ台』『萌えスロ』と呼ばれておる。


 異世界花子に出てくるのは何れもイケメンと呼ばれる美男子ばかりじゃ。

 それがスロットになったということは、いよいよ女も客として取り込もうとしておるのか。


 まぁ儂は真平殿を除いて男の見てくれには興味がない。外見の美醜など移ろいゆく儚きものじゃ。気にしたところで仕方がないではないか。


 パチスロにおいてはメダルの出る台が正義で、出ぬ台は悪じゃ。

 どんな美男子が出てこようとメダルを出さぬのであれば台パンや頭突きを見舞うし、どんなブ男が出てこようとメダルを出すのであれば画面に接吻のひとつでもしてやろう。


 異世界花子がどちらかは儂がこれから判断しようではないか。ひひひ。


「スキル発動! 男は無条件で私に惚れて私を巡って殺し合う! 女は男に見放されて惨めに落ちぶれる!」


 儂が着席すると、さっそく当たりおった。……儂ではなく隣じゃがな。


「食らえ!」


 まずは台パン一発。

 隣の若い女がビクッと反応しおった。

 ひひひ、パチ屋は初めてか? まぁ力を抜くとよい。


「おのれぇぇええええ!」


 隣の上乗せ演出で台パン二発目。

 女は泣きそうな顔になっておったわ。


「おまけじゃあああああああああ!」


 隣のボーナスで台パン三発目。

 だんだん調子が出てきたわ。


「もう一つおまけじゃあああああああああ!」


 じゃが、四発目をぶち込む寸前で今度は儂の台が当たりおった。


「ふッッッッッッッッッッッぎぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいーーーッッ!?」


 クスリをキメたかのようにガクガクと痙攣した儂が口から泡を吹いた。

 店の常連客は見慣れた光景じゃが、初めて来たと思しき隣の女は恐怖映画でも見ておるかのような顔じゃったわ。


 3時間後にはすっかり形勢逆転しておった。

 儂は5箱のメダルを積み上げて絶好調じゃった。


 一方で隣の女は最初こそ当たりはしたものの、その後は呑まれて追加投資を続けておった。


「あぎえぇええ!?」


 復活演出でまた当たった儂が大きく後ろに仰け反った。

 言い忘れておったが、儂は復活演出で当たる度に阿呆のようにポカンと口を開けて仰け反った後で、腕組みからの頷きを二度繰り返すことを徹底しておる。典型的な『ウザ打ち』じゃな。


 気がつけば隣の女は泣いておった。儂のせいではない。きっと台のせいじゃ。

 それでも推しとやらの男のためにブルブルと震える手で万札を投入しようとしておる。


「おぬし、もうその辺でやめておけ」


 儂は女の腕を掴んで追加投資をやめさせた。


「……え?」


「その台は駄目じゃ。儂の台を打つとよい」


 そして儂はメダルを一箱分くれてやった。


「本当にいいんですか?」


「構わぬ」


 ほんの気まぐれじゃ。

 儂があそこまで暴れても無言じゃった大人しさに免じてくれてやろう。


 それに、これは見方を変えれば先行投資でもある。

 此度の一件でこの女はパチスロにドハマリするじゃろう。

 そして養分と化して今後は糞台に有り金をつぎ込むようになる。

 

 こういう女が増えれば儲かった店側がより還元してくれるようになるのじゃ。ひひひひ。


「あ、ありがとうございました!」


 そんな思惑など知らぬ無垢な女に見送られながら儂はご機嫌で店を出た。


 じゃがそこで……。


「うわー! 異世界花子パチンコ堕ちしてんじゃん! パチに魂売っちゃったかー!」


 店の看板を見た小僧共が騒いでおった。


「パチンコじゃのうてパチスロじゃああああ! 間違えるでないわぁあああああ!」


 怒り狂った儂が小僧共に詰め寄った。


「ひえ!?」


「パチコンとパチスロは全然違うぞ!?」


「あ、はい……」


「それにパチに魂を売ったとはどういう了見じゃ!? 申してみよ!」


 この物言いは看過できん。

 儂は鬼の形相で詰問した。


「いやだって作品にケチがつくじゃないですか」


「何故アニメ作品がスロット化すると思う? 儲かるからじゃ! そしてお主らみたいに口は出しても金は出さぬチンカスが多いからじゃバカチンがぁ!」


 いわゆるパチマネーの力は絶大で、アニメの続編が作れるのはこの収益が作用しておることも多い。

 そしてスロット化で新規映像や新しい絵も見られるのじゃから、ふぁんにとっても悪い話ではない。


 スロットに興味がないのであれば続編や新展開の見込みを増やしてくれる金のなる木として放置しておけばよいものを、そういった側面を無視してわざわざ馬鹿にしにくるのは全くけしからん。


 儂は看板に拳をぶつけた。


「おい、行こうぜ。この人どっかおかしい」


「待てい! 話はまだ終わっておらぬぞ!?」


 じゃが、小僧共は足早に立ち去りおった。

 軟弱なチンカス共じゃ。


 うーむ、それにしても近頃怒ってばかりな気がするの。


 たとえばつい先日も……。


「これ! 握り飯がひとつ値引きされておらぬぞ!? 半額しーるが見えないのかえ!」


 若いこんびに店員に向かって怒鳴り散らしてしもうた。

 さすがの儂も『研修中』と書かれた胸元の名札を見て気の毒なことをしたと後で反省したものじゃ。


 そして一昨日は……。


「年寄りの儂を差し置いて優先席に座るとはよい度胸じゃのう! 百年早いわ若造が!」


 電車の優先席に座っておった会社員を小突いて大問題になってしもうた。

 儂はよせと言うたのに、主が後で菓子折りを持って侘びに行っておったわ。情けない男じゃ。ま、儂の短気が発端なのじゃがな。

 

 儂ももっと年長者らしい余裕と慈愛の心を持たねばならぬ。

 このままでは老害と呼ばれてしまう日も近いじゃろう。


 どれ、帰ったら主の肩でも揉んでやろうか。

 上手くいけば小遣いでも貰えるやもしれん。


 儂は打算という名の希望に無い胸を膨らませながら帰宅するのじゃった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る