隣の○○さんは俺に○○してくる

黒薔薇サユリ

第1話 隣の席の刈谷さんは俺に夜這いしてくる(1)

「梶谷さん、ペン落としましたよ」

「ありがとう刈谷かりやさん」


俺は、梶谷優かじたにゆうクラスカーストで言えば、陽キャでも陰キャでもない比較的中流階級に位置する普通の人間(と信じたい)。クラスの席は窓際後ろの1番端っこ。趣味、アニメやゲームその他オタク趣味と言われるもの幾つかを嗜んでいる。


「で、ここで出たxの値を…」


数学担当の先生が、応用問題のやり方を解説してくれている。そしてわからん。


刈谷かりやさん、ちょっと悪いんだけど、ここの問題教えて貰ってもいいかな?」

「全然いいですよ」


俺が今数学の問題がわからず質問したホワイトブロンドの髪を持つ少女は、隣の席の刈谷さん。


俺も一応毎日勉強を積んではいるものの、それはただの復習だし、わからないものは、わからない。


それに比べて刈谷さんは、俺よりも勉強ができるし普通に頭がいい。その裏には、たゆまぬ努力があるんだろう。


「ありがとう刈谷さん、何となくわかった気がするよ」

「そうですか、また分からないとこがあったら聞いてくださいね。喜んで教えるので」


先程からの言葉からわかる通り刈谷さんは普通に優しいし、なおかつ礼儀正しい。性格面と素行ははとても良好と言える。



「優、帰ろうぜ」

「ちょっと待って、今片付け中だから」


今日の最後の授業はさっきの数学だったため。数学が終わってから帰りのHRをして、皆それぞれ部活に行ったり、帰ったりし始めた。かくいう俺は、高校からは部活に入ってない暇人のため、高校からの友人である夜梨よりと帰るだけだった。


「それじゃあ、またね刈谷さん」

「はい、また梶谷さん」

ほんとに

バックにいくつかの教科書を入れている刈谷さんに一言かけてから、夜梨と一緒に昇降口の方向へ、勉強が分からん的な会話をしながら向かう。



「いやー今日も疲れた。ほんとに、お前はいいよな席の隣が女子で。俺なんて全方向男だぜ」

「そこは、完全に運だからな。うちのクラス完全ランダムな席替えだし」


今の席は、元の出席番号の席から、くじ引きで決まった席で俺は真ん中から左端、夜梨は1番前からど真ん中の席に移動していた。


「でも、さらにいいのは刈谷さんの横ってことな」

「刈谷さんってそんなにモテてたっけ?俺の中だと頭が良くて誰にでも優しい、位のイメージしかないけど」

「お前、そこが良いんじゃねえか。知らないなら教えてやるけど、刈谷さんは同学年付き合いたい人ランキング優しさ部門、佐藤さんに続いて2位だぞ」


おいまて、俺そんなランキング知らないぞ。いつの間にそんな統計取ったんだ。


「へ、へ~ちなみに部門って事は別の部門はなんかあるってこと?」

「別部門だと、罵られたい敵なMの方向け部門とかその他趣味嗜好のものとか、結婚したら幸せな家庭築けそうとか」


結構多種多様なランキング付けをしてるんだな、ほんとにいつやったのか分からないけど。


というか、ランキングってことは、総合1位があるってことだよな、気になる。


「でも、言っちゃあ悪いけど刈谷さん顔って、可愛い方かもだけどめっちゃって程じゃない中の上とかだよな」

「ほんとに言っちゃダメなこと言ったなお前。とゆうか中の上ってそこそこいいほうじゃね?」


ふむ、確かに中の上は、そこそこいい方かも。これに関しては、俺の感性であって特に相手を貶すつもりはないと言っておこうか。


「とは言いつつ、刈谷さんには授業中何度か助けて貰ってるし、頭は上がらないんだよな」

「そこんとこ羨ましいぞ優」


助けて貰ってるのに俺、刈谷さんのことそんなに可愛くないだとか言ったのか、あの発言は結構ダメなやつだったかもしれん。



「じゃあな、夜梨」

「またあした」


今日の夜梨との会話はクラスの女子談義に花が咲いて、そこそこ会話が弾んでから、いつもの別れ道で別れを告げ家へ帰った。


「母さんただいま」



「母さんおやすみ」

「はいはーい」


家に帰ってからは、好きなVTuberのコンビ黒船の配信を見てからベットにはいった。今日の黒船配信は、仲のいいカップルVTuberの、ホワイトピンクとのコラボ配信だった。やはりこの4人の絡みは最高だ。まあ、そんなことを考えてても寝れないし早めに目を瞑って夢の世界へ入ろう。



半分寝たような感覚の中、微かに布と布が擦れる音が聞こえる。


そしてなにより、体が重い。と言うよりかは重さが仰向けの体の上を移動して、どんどん俺の頭のある方に登ってきてる。


「重い!」


明らか、何かがあるので掛け布団をどかして体の上を見てみる。


「あ、優くん起きちゃいましたか?とゆうか、失礼ですね女の子に重いだなんて。まあ、いいですこのまま…」


俺が体の上に乗る彼女は、俺が目視した瞬間、どうでもいいか、みたいな笑顔を向けて、俺のズボンをぬがし始めた。


「………ちょちょちょ、刈谷さんなにしてんの!?」


そう、俺の上を這っていたのは、まさかの刈谷さんだった。しかも、何故か俺の呼び方が変わってるし。


「何って決まってるじゃないですかですよ」


何が決まってるのか全くわかんない。てか、なんでここにいるんだ。


「ちょ、ちょっと待って!とりあえず離れて」

「無理です。私はこの任務を遂行させないと…」

「任務ってなに!?」


刈谷さんを体から引き剥がそうとするも、服を掴んで抵抗してきた。しかも、なんか掴む力がそこそこ強い。



「や、やっと離れてくれた。ちょっと、ここに座っといて」

「はい」


刈谷さんと格闘すること5分、やっとの思いで刈谷さんをひきはがすことに成功して、刈谷さんを静かにすわらせることができた。


格闘に全力使ったから、息が上がった。考えと息を整えたいし、お茶を入れに行こう。


「はい、刈谷さん。お茶でいい?」

「あ、お構いなく」


あれ?今更だけどなんで俺、不法侵入してきた人にお茶出してるんだ。自分でも、何してるか分かんなくなってきた。


「聞きたいことは沢山あるけど、まずひとつ聞いていい?どうやって入ってきたの?」


ここにいるということは、窓を割るなり、ピッキングするなりで入ってきたということなのだろう。


「侵入方法は、そこの空いてる窓から。こんな時間に窓開けっぱなしは不用心ですよ」

「あ、ほんとだ」


黒船の余韻に浸って窓閉めるの忘れてた。でも、開いてたからって勝手に入るか?普通。


「あと、なんで俺の家知ってんの?」

「それは、少し優くんをつけたから」


少し恥ずかしそうに体をよじらせて、余裕のストーカー宣言をした刈谷さん。この人はもう、ダメかもしれないいろいろと。


「じゃあ次、なんで夜這いなんかしたの?」

「それは私が…優くんのことがだから」

「え?」


いま、好きって言ったこの人。likeではなくloveの?でも、それで夜這いって愛がねじ曲がってないか?


「だから、私が優くんのことがI Love Youなんですよ」

「わかった、わかったから。とりあえずストップ、今日は帰って、送ってあげるから」


夜這いといい、刈谷さんのぶっ飛んだ発言、クラスの女子からの好きの言葉による急な心拍上昇で、俺の脳がバグを起こしそうになっている。


「え、このまま添い寝しないんですか!?」


さも当たり前、みたいな感じで言わないでほしい。


「しないよ!」


その後抵抗する刈谷さんを何とか外に追いやり、刈谷さんを家へ送るため俺も外に出た。


「にしても暗いですね」

「そうだねー」

「なんだか適当ですね」

「だって、こんな時間に出歩いてると、補導されるかもしれないでしょ」


まだ刈谷さんを送るのは百歩譲っていいんだけど、そんなことよりも補導される危険性が俺の隣を歩いてるのがとても怖い。


「なんだ、そんなことですか、大丈夫ですよ適当に大学生カップルとでも言っておけば」

「それ言っても多分ダメなものはダメだと思うよ」


補導って多分職質と同じ感じだから年齢とか聞かれるだろうし、捕まったら1発アウトだろう。


「ていうかそもそも、刈谷さんがこんなことしなければいいって話だけどね」

「えー無理ですよ」

「無理でもやめて」

「わかりました、じゃあ夜じゃなくて優くんがお昼寝してる時にやりますね」


絶対的に俺が寝てる時に襲おうとするのはやめようと思わないんだな。


「でもこれって、優くんにも問題があるんですよ。不用心に窓とか空けとくから」

「それ言われると、なんとも言えないんだけど」


でも普通は人の家の窓空いてても入って来ないでしょ。ほんとにいつもの真面目な刈谷さんの性格はどこえやら。



「それではまたあした優くん」

「はい、じゃあね刈谷さん」


刈谷さんと話しながらも何とか、補導の目をかいくぐるとこに成功して、刈谷さんを家まで送り届けることが出来た。


さよならと言った刈谷さんは、笑顔で手を振って家のドアを閉めちゃんと鍵のかける音も聞こえた。


「てゆうか、ここからまたステルスミッションかよ!やだー、めんどくさい」


刈谷さんが俺の事がなぜ好きなのかとかの詳細を聞き忘れ、1人補導の恐怖に怯えながら薄暗い街頭ぐらいしかない街を歩いて家へ帰る。



*

刈谷さんの気持ち


刈谷は小さい頃から、真面目で優しいそれでいて可愛いと言う健全な男子の好みそのまま、みたいな性格をしていた。


そのため刈谷は、告白された回数は多い方だと思われる。高校に入るまでの告白を受けた回数は約12回。1年に1回告白されたまに2回告白される位の計算になる。


けれども刈谷は、生まれてこの方恋なんてことはしたこと無かった。もちろん、父と結婚するという、小さい子特有の願いはあったかもしれないが、しっかりとした恋を経験したことは無かった。


正確に言うのであれば、刈谷が好きになる人が現れなかったと言える。


そのため今までの告白は、全て断ってきていた。


時は遡って中学3年生卒業式当日。刈谷は、3年間1緒だった少し仲のいい男子に呼び出されていた。


「刈谷さん、3年間ありがとね」

「うん、私こそ3年間お疲れ様」

「それで、俺が急に呼び出した理由なんだけと」


そういうと男の子は、少し緊張を含んだ顔で深呼吸をし、気を引きしめる。


「刈谷さん俺達高校違うでしょ」

「そうですね」

「だから、俺達もうほとんど会うことが無くなるわけで…」


言いたいことをいえずに、遠回り気味に話が進んでいく。本人もそれに気づいたのか、再度気を入れ直して刈谷を真っ直ぐ見る。


「俺、刈谷さんにこの先ずっと会えないのは、嫌なんだ。だから、刈谷さんと卒業した後も会いたい。俺と付き合ってください!」


言いたいことを全て言いきったのか、男の子の体は先程まで強ばっていたのに、今は少し脱力している。


「え、えっとー。まず告白はありがとうございます。でも、私まだそう言うのはちょっと…だからごめんなさい」


真面目な刈谷は、された告白に紳士に答えるため言葉を選びながら返答をする。


「そうか、ありがとね」

「いえ、こちらこそ…」


精一杯告白してくれたのにと思い、男の子に対してとても申し訳ないような気持ちが心の中に生まれる刈谷。


「とりあえず、ありがとね聞いてくれて。じゃ、またどこかで会ったら」


そう言って去っていく男の子の目には、涙が出ているものの、顔はやりきったような満足気な笑顔だった。


そんな刈谷にとって梶谷優と言う男は最初、ただの隣の席の人だった。


ペアワークの時に話し、時々落としたものを渡したりするくらいの関係。

変わったのは、夜這いからほんの1ヶ月前。


「あの、梶谷さん。梶谷さんのバックに付いてるそのキーホルダーって…」

「あーこれ?黒船って言うVTuberコンビの汽船たかみのキーホルダー」


それは些細な疑問だった、刈谷がたまたま見つけた優のバックにぶら下がる汽船たかみのキーホルダー。


「好きなんですか?」

「まあ、それぞれ単体でも好きだし。2人一緒だとなおいいって感じかな。でもなんで急に?」

「実は私も好きなんです黒船。毎週やってる恋愛相談配信は、欠かさずリアタイしてるくらいには」


この日から2人は、時々ではあるものの黒船について語り合うようになった。


「結成初期とか凄く面白いんだよね。あのぎこちなさとか、今じゃ考えられないって言うか」

「たしかに、今は完全に親友とかそれ以上のレベルですもんね」


(なんだか最近梶谷さんと話してると楽しいけど、なんだか胸の辺りがざわつくような)


刈谷は、しばらくそんな不安のようなものを抱えて過ごしていた。


時は経ち夜這いをした日から1週間前、刈谷はとりあえず黒船にこの感情について相談を送ってみた。


「それじゃあお次の相談は相談はこちら。ユーザーネーム匿名ネギさん(最近、前は何ともなかった共通の趣味を持った男の子と話していると、胸の辺りがざわついて仕方がないんですがこれは、どう言ったものなのでしょうか)」


刈谷の初めて送った相談は早速、採用された。


「お〜なんか思春期特有!みたいなの来たな」

「確かに、なんかうぶな匂いがしますな。でも、これはわかりやすいね」

「だね、答えは簡単」

「「恋」」


2人が同時に同じ答えを出した。


「これは恋です。ぜったいに恋です。黒船から太鼓判を押してあげましょう」

「まあ、この気持ちをどうにかするのは匿名ねぎさんだから、僕達からは恋と言える証明をあげるくらいですけど」


その背信あって刈谷は自覚した今の自分の持っているものが、というものだと。そして、これが刈谷にとっての初恋だった。



(へー好きな人にはグイグイ行くのが普通…)


そこから刈谷は思いを抱えたまま、恋という超難問を勉強した。間違っていたのは、恋の教科書代わりとして、兄の持っていた夜這いが含まれるR18系の漫画で勉強したとこだろう。

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