陽キャの俺、ぜか毎回美女を落としてしまう ~「行動力」と「優しさ」だけでモテまくる~
昼から山猫
第一章
第1話
俺は新学期初日の朝っぱらから、大学構内を猛ダッシュしていた。
理由は単純、寝坊だ。
必修の講義に遅れそうになり、息を切らしながら走っていたら、突然誰かの悲鳴が聞こえた。
「わっ……危ない!」
その声の主を視界に捉える余裕もなく、俺は慌ててブレーキをかける。
けれど、すでに遅かった。
思いっきり地面を滑り、勢いあまって相手にぶつかりそうになる。
なんとか体のバランスを崩す直前、ぎりぎりで踏ん張ることに成功。
けれども相手が落とした資料は盛大に散乱し、書類が風に煽られてふわふわと舞い上がった。
「す、すみません! 大丈夫っスか?」
息を切らしながら謝罪しつつ、俺は資料を必死に拾い集める。
視線を上げると、肩までかかった茶髪のセミロングをサイドでまとめた女性が、困惑気味に俺を見下ろしていた。
凛とした美人という表現がぴったりのその女性は、少しだけ唇を曲げ、ため息混じりに言う。
「いや、いいけど……書類、曲がってないかしら?」
その声は冷たくも感じるけど、どこか優しい響きが混ざっていた。
彼女――白石カナは、どうやら同じ大学の二年生らしい。
とはいえ、俺はカナと接点がまったくなかったから、こんな場所で話すのは初めてに近い。
「本当にごめんっス。俺、桜庭ケンジって言います。こっち、曲がってるやつないか確認して……うわ、英語の論文?」
拾い上げた用紙を見ると、見慣れない専門用語がびっしり。
カナはそっけなく書類を受け取り、少しだけ眉をひそめる。
「ふん、読む気になる?」
「いや、これマジで難易度高すぎっスね。俺、英語はあんまり得意じゃないんで……」
一瞬、カナがくすっと笑った気がした。
でもすぐに目線を逸らして、「忙しいから」と言い残し、彼女はスタスタと歩き去る。
彼女の背中を見ながら、俺はこっそりと胸を撫で下ろした。
すげえ美人だった上に、なんだかただ者じゃない雰囲気だったな。
すると、近くで見ていた友人たちがニヤニヤしながら寄ってくる。
「おい、ケンジ。また美人と接触してたな?」
「ほんと羨ましいよ。こいつ、何か隠しスキルあんじゃないの?」
俺は苦笑いを浮かべ、手をひらひらさせて否定する。
隠しスキルなんてあるわけない。
ただ、俺は小さい頃から誰かが困っていたら放っておけない性格で、何かと首を突っ込んでは妙な縁が生まれることが多い。
「いや、普通に転びそうになっただけだって。とにかく講義始まるし、教室行くぞ!」
その場をさっさと切り上げ、友人と一緒に建物へ向かう。
だけど心のどこかで、白石カナの冷たい表情と、さりげなく見せた優しそうな目元が気になっていた。
その日の夜、ふと学内の掲示板を見たら、やたらと怪しいバイト情報のチラシが何枚も貼られていることに気づく。
「簡単高収入! 気軽にお小遣い稼ぎ!」「時給1万円以上保証!」
いかにも危なそうな甘い言葉が並んでいるのに、どうやら興味を示す学生も多いらしい。
「うーん、こんなんヤバい匂いしかしないっスけどね……」
アルバイトといえば、俺も学費を稼ぐために普通の飲食店でこつこつシフトに入っている。
だからこそ、こんな高額時給がまともなわけないと思う。
しかし、もし真に受けて行ってしまうやつがいたらどうする?
困る学生が出てきたら、また俺はいてもたってもいられなくなるんだろうな。
頭をかきながら、掲示板を見つめる。
すると、不意にカナの顔が脳裏に浮かんだ。
彼女ほどしっかりしてそうなタイプは騙されないかもしれないが……いや、世の中何があるかわからない。
「……あの子が巻き込まれたら、大変だよな」
そうつぶやくと、自然と足が動き出す。
大学の広い敷地内を歩きながら、カナの姿を探そうとしている自分に気づき、苦笑した。
あのそっけないクールビューティーを助けるなんて、おこがましいかもしれない。
でも、俺は自分の性分に逆らえない。
困っている人、あるいは困りそうな人を放ってはおけないから。
「なんとかなるって!」
まるでおまじないのようにそう呟いて、俺は胸を張った。
さあ、これから俺の大学生活がどんな展開を迎えるのかはわからない。
しかし、新学期のこのスタートダッシュで、一つだけ確信がある。
間違いなく、俺にはまた誰かのために全力で走る時がやってくる――そんな予感が止まらない。
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