第20話 「特訓の日々⑥」

「で、この『威圧(ズグラース)』というか『鏡(テスカトル)』って本当は何をしている力なの?」


 魔法瓶に入った冷たいお茶を飲んで一息ついたリラは、だらりと岩に寝転がったまま、少年に尋ねる。


「……何の話だ?」


「『軽身(セフィロ)』は身体の中の重力を操る力で、『祝福(レガリア)』は身体を形作る血肉を操る力、やってることはどっちもシンプルじゃない。この『鏡(テスカトル)』っていうのも、たぶん身体の中の何かを操る力なんでしょ?」


 少年は目を細める。


「……君は何を操っていると思うんだ?」


 リラは少年との試合の最中に考えていたことを説明する。


「精神エネルギーとか? マイナスの精神エネルギーを自分から分離させて、相手にぶつける。だから相手は絶不調になって、自分は集中力が高まるの。二回目が難しいのは一発でエネルギーを使い切っちゃうから。うまくエネルギーを小分けできれば複数発動もできる。あたしが二回使えたのは天才だったから。どう? いい線いってない?」


 リラの説明を聞いた少年は「いい推理だ、ワトスン君」と頷いた。


「天才かどうかはともかく、過去の『威圧(ズグラース)』の使い手の多くも、同じような想像で力を扱っていたよ。俺は部外者だから実感はないが、『威圧(ズグラース)』の使い手にとっては、マイナスの精神エネルギーという感覚は割と納得感があるらしいね。だが『鏡(テスカトル)』へと至るためにはその感覚は捨てなければいけない。一つ聞きたいが、あの竜に二回『威圧(ズグラース)』を使った後、そんなに気分がよくなったか?」


「……なってなかった、かな」


「フォルトゥナの場合、『威圧(ズグラース)』の使用に成功した後は大体勝利している。その勝利の高揚をマイナスの精神エネルギーを放出した後の結果と誤認してしまいやすいのが、この理論の納得感を高めている。だが実際には、この権能は『軽身(セフィロ)』や『祝福(レガリア)』とは全く異なる原理に従っている。そもそも種類が異なるんだ」


「どういうこと?」


「もし今後、フォルトゥナ以外の精霊の眷属と戦うことになったらその権能を推測するための必須知識となることだが、精霊の眷属が持つ権能は、幾つかのグループに分けることができ、それぞれのグループは性質がかなり異なっているんだ。俺たちは、それを最初に現れた時期から、第一世代権能、第二世代権能、第三世代権能、第四世代権能と分類している」


「第一世代権能っていうのは天人の重力操作のことだよね?」


「そうだ。最初にあった権能は全て、世界そのものに干渉し、世界を作り変えるものだったらしい。その中には炎、風、雷といった自然現象そのものを操る力もあった。これを俺たちは第一世代権能と分類している」


「その第一世代権能が劣化して『軽身(セフィロ)』みたいな第二世代権能に変わっていったんだよね」


「そうだ。第一世代権能の規模を縮小し、干渉できる範囲を自分と身の回りに限定にする代わりに、現代の人間の器でも無理なく扱えるようにしたものを第二世代権能と分類する」


「マイナスの精神エネルギーが実在して、自分の中のそれを操作する力があるとすれば、たぶん第二世代になるけど、『軽身(セフィロ)』と違うんならそうじゃないんだよね。……第三世代はまだ聞いてないけど、どんなものなの?」


「言ってなかったが、『祝福(レガリア)』が第三世代権能にあたる。第三世代とは自分自身そのものを作り変える力を言う。『祝福(レガリア)』は地味だが、他の第三世代権能では、骨格レベルで形状を大きく変化させたり、人間の肉体には存在しない特殊な器官を生み出すものもある」


 確か、第一世代権能にも、肉体を変化させ、力の行使に必要な器官を生成する力があると聞いたような…… たぶん第三世代も、第二世代とは別の方向に特化した、第一世代の劣化物なのだ。リラはそう考え、それから問う。


「『祝福(レガリア)』が第三世代ということは…… それじゃどれとも違う『鏡(テスカトル)』は第四世代ってこと?」


 少年は頷く。


「第四世代は、人類が今の人類になった後、つまり道具と言葉を得た後に出現した最も新しく最も呪わしい権能だ。その共通点は人間の精神に干渉できること、対象との何らかの『儀式対話(コミュニケーション)』に成功することで対象の精神を操作できるようになる力であることだ。動物にも通じることはあるが、ある程度は認知能力のある存在に使うことを前提としている。対人特化の権能と言っていい。戦闘では最も警戒が必要な力だ」


 対人特化。人間の精神を操る力。邪悪な響きだった。


「対象との何らかの『儀式対話(コミュニケーション)』に成功する、っていうのはどういうことなの?」

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