第3話 分からないことはご主人様に聞きに戻ろう
「……」
森を歩く。
足元の草がガサガサとなる音が鳴り響く。
「……」
そんな夜の森を私と、そして剣を抱えたミイラが歩いていた。
「……」
いや本当なんなのこのミイラ!?
それに私も何故か人間の姿になってるし、訳が分かんないよ!
速くご主人様の下に戻って教えて貰いたいよー!
けれどコウモリの姿ではひとっ飛びだった森も、人間の姿では移動に時間がかかる。
そして森の中は危険な魔物の宝庫。
正直ザコモンだった私にとって地上は天敵の巣窟。
「「「「グルルルルル」」」」
「っ!!」
シャキンシャキンシャキン!!
けれどそんな猛獣達から、何故かミイラは私を守ってくれていた。
本当に訳が分かんない。
そうして暫く歩いて余が明けかけた頃、私はご主人様の城へと戻って来た。
「やっとついたー!」
けれどさぁ入るぞとお城に入ろうとした私の体が真後ろに引っ張られる。
「うぇ!?」
引っ張ったのはミイラだ。
もしかしてやっぱり敵だった!?
けれど
そんな私の頬に、ブオンと風が吹く。
「え?」
振り返れば私のいた場所に2本の槍が左右から突き出されていた。
あ、あれ? もしかして今ミイラが私を引っ張らなかったら私死んでた?
そして今更ながらに気付いたけれど、お城の門の左右には二人の鎧で全身を覆った騎士の姿があった。
どうやら門番らしい。いつもは空を飛んで出入りしていたから気付かなかったよ。
「ここは吸血公ヴォイラード・クロムシェル様の城である。侵入者よ、何用か」
「え?」
何言ってるの? 私この城で働いてるコウモリだよ!?
あっ、そっか! 今の私は人間の姿だから気付いてないのか!
「わ、私ここで働いている吸血コウモリです! でもこの人間の血を吸ったら突然人間の姿になっちゃって、どうすればいいのか分からなくてご主人様なら何か知ってるんじゃないかと思って戻って来たんです」
「何?」
私が事情を説明すると、門番達は私にチラチラを視線を送りながら何やらボソボソと話をしている。
そして話が終わると私の下へと近づいて来た。
「主より入城の許可が下りた。入るが良い」
ギギギと門が開き、門番達が元の配置へと戻ってゆく。
私はおっかなびっくり二人の間を通って城の中へと入ってゆく。
すると門を抜けた先にメイドさんの姿があった。
確かこの人達もご主人様と同じ吸血鬼なんだよねぇ。
「ご主人様の下へご案内いたします」
ご主人様の部屋の場所は知ってるんだけどなぁと思った私だったけれど、よく考えれたらいつも窓から出入りしてたから、普通に館の中を歩き回ったら迷子になっちゃうかもだ。
なので大人しくメイドさんの後をついてゆく。
「……」
そして当たり前のようについてくるミイラ。
というか私はともかくこのミイラも入っちゃっていいの?
まぁ私を何度も助けてくれたから悪いミイラじゃないんだろうけど。
「ご主人様、お客人を連れてまいりました」
そうして、西洋のお城のような装飾の通路を歩いてゆくと、大きな広間へとやってきた。
その先には小さな階段があり、その上には大きな椅子が鎮座していた。
多分アレは玉座って奴だ。
その玉座に、見覚えのある人の姿があった。
「ようこそお嬢さん。君の来訪を歓迎しよう」
「ご主人様!」
ようやく見知った顔に出会えて、私は安どのため息を漏らす。
「ふむ? 確かに門番から私のコウモリと名乗っていたと聞いたが、やはり見覚えが無いな」
「で、でも本当に私吸血コウモリなんです! この人間の血を吸ったらこの姿になったんです!」
私はご主人様に自分の身に起きた出来事を説明する。
するとご主人様は玉座から立ち上がると、ゆっくり階段を降りて私の下へとやってくる。
そして上から私をじっくりと見つめる。
「ふむ、確かに私の眷属の魔力を感じる。そしてその死体」
と、ご主人様の目がギラリと私の後ろで棒立ちになっているミイラに注がれる。
その眼差しは私に向けた視線とは比べ物にならない程敵意に満ちており、まるで視線が圧力を持っているかのような錯覚すら受けた。
「成る程、この男の血を吸ったのか。だからか。しかしまさかコウモリにやられるとは」
と、ご主人様は何か分かったのか、うんうんと何度も頷きながら納得の声を上げる。
そして笑顔で私に向き直った。
「でかしたぞ! よくぞこの人間を始末した!」
「は、はい!?」
「君がその姿になったのも恐らくはこの人間の血を吸って殺したからだろう」
「そ、そうなのですか!?」
つまりこの人間が原因で私は人間になっちゃったの!?
「おめでとう私のコウモリ、君は力ある者の命を喰らい、吸血鬼へと進化したのだよ!」
そう言いながらご主人様が嬉しそうに私の体を抱えると、そのまま大きく持ち上げる。
「ひゃわっ!? わ、私が、吸血鬼……!?」
そ、それってどういうこと―!?
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