第2話 これ、夢で見たやつだ

 会社に着いた俺は医務室のベッドで眠っていた。

 朝から変な物見ちまった……人って高い所から落ちたらあんなにつぶれるんだな。

 思わず落ちてきた作業員の姿かたちを思い出す。

 軟体動物かと思う程に両手足が曲がりくねり、体も頭も厚みが無くなってスライムの様に地面にべったりと伸びていた。


「うっ……気持ちわる……」


 これ以上思い出すと吐いてしまいそうだから慌てて別の事を考える。

 あー、えーっと、そういえば変な夢を見たんだったな、ワールド・チェンジャー オンラインの世界みたいだけど微妙に違った世界の夢。

 剣士だって言ってるのに戦士だったり、ロングソードとショートソードっていう違う武器があったり。

 それに依頼の途中で騎士が落ちてきて……


「あれ、そういえば地面に落ちた時の姿かたちが作業員と似てた様な気がする」


 騎士はフルプレートだから関節はあったけど、向きが同じような感じだな。

 作業員は……うぷ、ダメダメ、思い出したら気持ち悪くなっちゃうだろ。

 デジャブ? 正夢? 予知夢? いやいや、ただの偶然だろ。

 何とか昼からは仕事に戻ったけど、恭平きょうへい御堂みどうさんが俺の分の仕事を進めてくれていた。

 今朝がた事情を説明したら帰れと言われたけど、流石に納期が間に合わなくなるから休むわけにもいかないので、午後からは仕事をした。


 そんな訳で何とか一日が終わり、会社から駅までのルートを微妙に変更してアパートに帰って来た。

 早速ゲームといこうじゃないか。


「おー、昨日は寝落ちしてスマソ」


『修業が足りんな。眠気などゲーマーの風上にも置けぬ』


「ワイ、一般人なり」


『十年同じゲームやってる人間がパンピーとな?』


 フレンドとチャットで会話をしてるけど、コイツとはWCOを始めた頃からの知り合いだ。

 お互いを変態・変人と言い合う仲なので犬猿の仲と言える。

 いつものようにパーティーを組んで狩りに行き、昨日とは違い俺は寝落ちする事なくベッドに入ることが出来た。


 朝日が目に入り、俺はゆっくりと瞼を開けた。

 なんだかあまり眠った気がしないけど、アラーム前に目が覚めるなんて珍しい事もあるもん……?


「あれ? ここどこだ?」


 俺はキシむベッドの上で体を起こすと木でできた山小屋の様な部屋が目に入った。

 歪みのある窓ガラスの外からは人の声がするしすき間風も入って来る。


「ひょっとして昨日見た夢の続きか?」


 俺はベッドのそばに置いてある装備を見ると、そこにはペラペラの革鎧とショートソード、盾が置いてあった。

 間違いない、WCOに似た世界の夢をまた見てるんだ。

 いや確かにWCOは好きだよ? でも二日連続で見るほどちてたのか?

 まあ夢ならいいや、えっと、夢の中だけどステータスとか見れるのかな、メニューアイコンは……無いな。


「ステータス」


 って、こんなんで出てくるはずが……うわっ、出てきた。

 どれどれ、キャラクター名:ガーディナー 職業:戦士 ふんふん、やっぱり職業は戦士になってるな、WCOとは違うけど、スキルは剣士LV1になってる。

 WCOはキャラクターのレベルを上げるのではなくスキルレベルを上げるタイプだ。

 なので戦士系のスキルレベルが上がれば剣の扱いが上手くなりHPも上がりやすく、魔法使い系のスキルが上がればMPが上がりやすい。


「じゃあ今日は剣士レベルを上げるとするか。ゲーム内では公然の秘密となっていた禁断のレベルアップ方法で一気に上げてやろう」


 俺は急いで冒険者ギルドへ向かうと、森狼もりおおかみの討伐依頼を受けた。

 森狼はスキルレベル1では倒すのが難しい相手だが、ある方法を使うと簡単に倒すことが出来る。

 更に俺は普通の方法では行けない場所へ行く方法を知っており、そこでアイテムを入手してから森狼の討伐をするつもりだ。


「さてと、まずは山が無い方の出口から出て、えーっと、実際に人間の目線で見るとわかりにくいな、確かこのまま森に入って右斜め前方に向かって……」


 記憶をたどりながら進んでいくと、そこには大きな木があり根元には大きな樹洞うろ、洞窟の様な穴が開いていた。

 そこにかがんで入っていくと洞窟は地下に続いており、真っ暗になるはずが何故か薄暗い程度になっている。


「暗いけど十分見える明るさだな。夢だとゲームの再現度は低いけどシステム的な所は俺の記憶次第なのかな?」


 途中から穴がとても大きくなったので立ち上がると、天井にはコウモリ、床には虫、正面からは柴犬程度の大きさの魔獣が数匹見える。

 アレは一見かわいく見えるけど、剣士のスキルレベルが5でも勝てない強敵だ。

 だが犬とは違って鼻も目も良くない。

 なので穴の隅の方を音を立てずに進めば……よし抜けられた。

 少し進むと穴は狭くなり匍匐ほふく前進で進むと、奥には木の根が数本垂れ下がっているのが見え、先から水滴が垂れている。


「見つけた。えっと、容器は無いから直接飲むか」


 寝そべって根の下に口を持っていき、水滴を何滴か飲む。

 するとステータス画面に『ブースト時間:59分59秒』と表示された。

 よし、これで経験値が一時間倍になる。

 本来これはスキルレベルが上がりにくくなった場合に使うモノで、最初から使うモノではない。

 そもそも初心者はこんな所に来れないからね。


 俺は急いで洞窟を抜けて木の樹洞うろから出ると、駆け足で森狼を探し始める。

 といっても魔獣が沸くポイントがあるからそこまで走っているんだけど、リポップポイントの近くに俺が隠れられる大きさの岩を見つけたのでここを狩場にする事にした。

 さーて森狼ちゃ~ん、ここら辺に居るのはわかっているから、大人しく出てきなさーい。


「いた」


 俺は背中が茶色い毛をした森狼を一匹見つけると、木に剣をぶつけて挑発する。

 音に反応した森狼は俺を見つけると一目散に走って来る。

 よし! このまま岩の所まで逃げるぞ!

 すぐ近くの岩に向かって走り、わざわざ岩を飛び越えて向こう側に着地して岩に背を当て腰をかがめる。

 すると森狼も岩を飛び越えるのだが、見事に弱点である腹が丸見えになるので一刺しすると簡単に討伐が出来る。

 これを二十回ほど繰り返すとあっという間に剣士レベルが3になる。


「良い感じ。森狼の討伐は数の指定がないから倒した分だけ金になるし、まだブースト時間は十分残ってるからもう少し狩って行こう」


 その後五匹ほど狩ったがレベルは上がらなかった。

 スキルレベルの上限は10だからこれ以上は簡単には上がらないな。

 ま、夢の中で懐かしいプレイをして楽しかった。

 実際のゲームじゃスキルレベルは10だし経験値稼ぎなんて久しぶりにやったな。

 そんな事を考えながら森を歩いていると、まだ冒険者として経験の浅そうな四人パーティーを見かけた。

 装備的にスキルレベル2かな? 初期装備に毛が生えた程度だ。

 あれ? 確かこの辺りには森狼以外にもアイツが出るんじゃなかったっけ?


 そう思っていると予想通り森イノシシが現れた。

 森イノシシはパーティーに突進していくがパーティーメンバーは誰も森イノシシに気が付いていない。

 あ、これは死んだな、そう思った瞬間に回復役らしい女の子が宙を舞った。

 音に気が付いて振り向いたパーティーだが直ぐにもう一人が宙を舞い、一人は森イノシシと木に挟まれて動かなくなる。

 残った一人は悲鳴を上げるだけだが、森イノシシは悲鳴に驚いたのかどこかへ走り去っていく。

 あーらら、森狼の討伐時に受付から注意を受けてるはずなのに、それでも警戒をしないからいけないんだよ。 

 俺は冒険者ギルドに戻り討伐依頼の報告をし、また安宿のベッドで眠りについた。


 が鳴り響き、俺はモゾモゾと枕元に置いてあるスマホのアラームを消すと上半身を起こして背伸びをする。


「ん、昨日と同じ、夢落ちですなぁ」


 いつもの時間、いつもの景色、いつものTV番組。

 そしていつもの通勤路。

 ああ、今日は昨日と違う道を通って会社に行こう、そう思いながら電車を降りる。

 少し遠回りになるけどいつもと一本違う道の交差点で信号待ちをしていると、どこからか悲鳴が聞こえる。 

 また⁉ と思ったが悲鳴の先を見ると軽自動車が暴走しており、信号無視をして交差点に入ってきた。

 

「危ない!」


 そう思った瞬間には一人が轢かれ、二人目が轢かれ、三人目は軽自動車と電柱に挟まれて動かなくなっていた。

 なんだよ……なんで夢と同じような状況になってるんだよ!

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