ミス・ディファームド

内海

第1話 やったぜ異世界転移か⁉

「今日は早く帰れそうだな」


 会社の壁掛け時計は午後八時三十分を指していた。

 昨日は終電だったから今日は九時には帰りたい。

 そして二~三時間はゲームをしたい!!


「おう守衛まもる、今日も終電か?」


 肩に両手を乗せてきたのは恭平きょうへいだった。

 恭平は俺の同期で休日には遊ぶ程度には仲が良い。


「今日はそろそろ終わりそうだよ。流石に連続で終電は勘弁だよ」


「そんな事言って、先週はずっと終電だったじゃないか?」


「そうですよ先輩。先輩は上のいう事を聞き過ぎだと思います。いっつも死んだ魚みたいな目をしてるんですからね?」


 会話に割り込んできたのは御堂 麗みどう うららさんで、俺の三年下の後輩だ。

 三年前に新卒で入ってきてなぜか俺が教育係に指名され、それ以来仲良くしてくれている。


「死んだ魚……そこまでは。いやそうかもしれない」


「だから先輩、今日はもう帰りましょう?」


 ふと時計を見るとすでに九時近くなっていた。

 一応話をしている最中もキーボードは叩いていたので仕事は進んでいる。

 確かにもう終わっても明日に支障は無いな。


「うん、帰ろっか」


 三人で電車に揺られながら上司の愚痴を言い合い、恭平きょうへいが降り、うららさんが降りて俺が最後になる。

 家に着いたのは午後十時前、真っ暗なワンルームの電気をつけて、買ってきた弁当をテーブルに置く。

 料理を作る必要は無いし、風呂に入ったら弁当を食べながらゲームをしよう。

 風呂上がり、寝巻のトレーナー姿でゲーミングチェアに座りパソコンの電源を入れる。

 モニターに映ったのは「ワールド・チェンジャー オンライン」という古くからあるファンタジー系のMMORPGだ。

 学生の頃からやってるからそろそろ十年近くやっているかな。

 さて、弁当を食べながら運営通信を読んでおこう。

 このゲームは結構な頻度で変更が加えられるから、一日一度は確認しないといけない。

 ほうほう、今回の変更は……なし!

 レッツプレイ!


 数時間が経過し、気が付けばモニターの前で寝落ちしていた。


「あ、やべ、デスペナルティー……お? おおーフレンドが安全圏まで連れて来てくれてた。ありがたや~、この礼はいつかきっとその内に精神的に返すとしよう」


 時計は午前一時を回っている、うん、寝るか。

 俺はパソコンの電源を落としてベッドにもぐりこんだ。

 どれだけ寝ていたのか、俺はふと目を覚ますと見慣れない場所にいた。

 古い木造の居酒屋? 数名の客がいるけどなんでゲームのコスプレしてるんだ? 随分と手の込んだ衣装だけど……ファンタジー系のゲームかな? 何となくワールド・チェンジャーオンラインに似てるな。


「いや似てるっていうかその物じゃないか? え? 今頃WCOワールド・チェンジャー オンラインのコスプレイベント? うわぁ! 俺もコスプレしてる!?!?」


 起き上がる、というより床に寝ていたので起き上がると俺もコスプレしていた。

 えっと? 俺は家のベッドで寝てたはずだけど……この装備はかなり初期のプレイヤーが使う装備だな? てか冒険者ギルドに登録する時の剣士装備の様な……うん間違いない。

 腕と胴体にペラペラの革鎧を装備している以外は何も装備してない。

 それにこの場所、間違いなく冒険者ギルドの中だ!!


「異世界転移!? 本当に⁉ やったぜ! この世界の事なら隅から隅まで知ってるし、たとえステータスが初期からでもあっという間に強くなれる!」


 WCOでは複数キャラを育成していたから、どの育成ルートでもチョチョイってもんだ!

 よしまずは冒険者登録の為の試験を受けよう!


「おはようございます。初めて見る方ですね、何か依頼ですか? 冒険者登録ですか?」


 カウンターの女性に声を掛けると何度も読んだセリフを言ってくれた。

 間違いない、WCOの受付嬢のセリフだ。


「冒険者登録です。剣士でお願いします!」


「冒険者登録ですね、ではとして受理しますので試験会場へお願いします」


「せん……? はい、わかりました!」


 あれおかしいな、戦士は前衛で戦う職の総称で、その中に剣士があるから登録時は剣士のはずなんだけど、ま、いっか。

 それにしても鎧を着てる割に体が軽いな、職業補正がかかってるのかな?


 おれは受付が指さした先にある試験会場、ギルドを入って左側にある扉を開けると各種武器や鎧などが置かれた倉庫に入った。

 ここで必要な装備を揃えて試験を受けるのだが、初期ステータスでは剣と盾が良い所だろう。

 えーっと小型の盾と剣を持って……重! 剣ってこんなに重いのか!?

 盾は左腕に装備できたけど、剣が思った以上に重くて片手ではとても持てない重さで、何とか両手で引きずりながら試験会場へ向かう。


「あいたっ」


 剣が重くて会場前のドアの下枠に足を引っかけてしまった。

 本当かよ、こんなんで試験を受けれるのか?

 ドアは外に繋がっており、試験を受ける人たちが数名順番を待っていた。

 訓練場の片隅でやっているのでギャラリーも多く、背の低い囲いがある程度の簡単な試験会場だ。


「よし次!」


 試験官は二人いる様で一人五分もかからずに終わっている。

 確か試験官に勝つ必要は無く、必要な能力があればOKだ。


「次!」


 おっと俺の番だ。

 何とか剣を両手で持って構えるが、剣の重さでよろめく俺を見て試験官はため息をついて剣を下した。


「お前はまずは武器の選定からだ。ロングソードはやめてショートソードにしろ」


「え? は、はい」


 ショートソード? 名前は知ってるけどそんな武器WCOにあったかな。

 急いで倉庫に戻り短めの剣を探すと……壁にかかってた、さっきのがロングならショートは三分の二位の長さかな、あ、軽い。

 片手で持って試験会場に戻り試験を受ける。


「おめでとうございます、戦士として登録完了です」


 受付で木製のカードを受け取ると、そこには名前:ガーディナー 職種:戦士と焦げ跡で文字が書いてある。

 そう、一番下の階級はウッド級。

 ウッド、ストーン、アイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、ダイヤモンドと七段階に分かれており、上級プレイヤーはダイヤモンドがほとんどだ。

 とはいえダイヤモンドは全プレイヤーの二%から三%程だけど。俺はダイヤモンドだぜ!

 さて、最初は定番の依頼である、森の見回りに行くとしよう。


 初期装備の盾とショートソードは試験の奴をそのままもらったし、森の見回りは野犬が出る程度で子供の安全を守るための為の依頼だ。

 ギルドを出て森の手前まで来ると、木製の柵が見えて来る。

 その外側をぐるりと回るのが依頼だけど、おお、他にも見回りしてる新人冒険者がいる。初々しいな~俺も昔はあんな感じで……今は俺も初々しいのか!

 歩いていると遠くで遠吠えが聞えて来るが、どうやら近くには野犬は居ない様だ。


「あー、それにしてもいい天気だな」


 空を見上げると近くの山の山肌が見え、青い空と雲も見える。

 デカい山だな、山のふもとに街があるから余計に野生動物が出やすいのかな。

 お、あそこの崖の上に人がいる。

 崖の近くもルートに入ってるから近づくと、高い崖の上を大勢の人が歩いており、フルプレートを着ているから騎士団かな? あっちは山の中を見回っている様だ。

 大変だねぇ、というか俺も早く階級を上げて山の中を普通に歩けるようにしないと……叫び声が聞こえる? 上?

 上を見ると何かが崖から落ちて来て地面に大きな音を立ててバウンドする。


「うわぁ!! な、なんだぁ!?」


 そこには歪んだフルプレートの騎士が転がっており、手足があらぬ方向に曲がりじわりじわりと赤いものが地面に広がっていく。


「え、ええぇぇ……崖から落ちてきたのか?」


 上を見ると崖から覗き込む数名の騎士が見える。

 ああ、数が少ない所を見ると他の騎士は落ちた騎士を助けに来るんだな。

 ……助かる……のか?

 まぁ蘇生があるから問題ないんだろう。

 そうこうしている内に騎士が走っているのが見えたから、声を掛けるとこっちに走って来る。

 いくつか話をして見回りに戻り、ギルドに依頼完了報告をして安宿に入った。


「ああ、やっぱりゲームと違って疲れるな……なんか……眠い……」


 いつの間にか安物のベッドで眠ってしまったが、で俺は目を覚ました。

 体を起こすとそこは、いつも見ているワンルーム。


「……あれ……夢……?」


 枕もとのスマホのアラームを消して、ため息をついて布団を蹴り上げる。


「分かってたよ、そりゃそうでしょうよ! 異世界転移なんてあるはずないって!」


 パン食べて会社行くか、あ、今日は生ごみの日だ。

 スーツに着替えてパンを食べ、リュックを背負って玄関に置いてあるゴミ袋を右手で持つ。


「重! そういえば今日は沢山入ってるんだった」


 両手で何とか持ち上げるが、扉の下枠に足を引っかけてしまった。


「あいてっ」


 電車に揺られ、駅のホームを出てビルの近くを歩いていると、上から大声が聞えて来たので上を見る。

 何か落ちて来る……ん? 大きな音を立てて地面で何かがバウンドした。


「うわぁ!! な、なんだぁ!?」


 地面にはヘルメットをかぶった作業員らしき人が倒れており、手足があらぬ方向に曲がっている。

 そして赤いものがじわりじわりと地面に広がっていく。

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