バイバイ
こうけん
第1話 村特産の樟脳運搬
急募:臨時配送ドライバー及び運搬スタッフ。
業務内容:村特産の
時給:一万円から。
予定した委託業者が車両事故に遭いました。
運悪く他のドライバーは出払っており、このままでは納期に間に合いません。
運転免許所持者には、追加ボーナスを支給。
また運搬スタッフにも、追加ボーナスがあります。
過大求人広告に思えますが、時間が惜しい状況です。
本日一八時までに応募してくれた方は、面接後、誰であろうと即採用します。
ただ曲がりくねったくねくね道路の往来につき、車酔いに強い方が望ましいです。
※樟脳とは、クスノキを原料とした天然由来成分の防虫・芳香剤のことです。
――――――――――――――――――――
時刻は草木も眠る丑三つ時――
「なんなんだよ、なんなんだよ、この村!」
男は暗闇の野道を走っていた。
息を切らし、心臓の張り裂ける音が嫌にも鼓膜を響かせる。
「お、俺はただ、俺は荷物の運搬に来ただけだぞ!」
男はどこにでもいる二〇代のフリーターであった。
大学在学中の就職に失敗しようと、持ち前のバイタリティーで勉学とバイトを続けながら、正規採用を目指していた。
今回、運搬業務のバイトを受けたのも、大手求人アプリに掲載されていたからだ。
ほんの少し、次に受ける予定の資格試験の受験料が足りなかった。
都市部より、遠方にある山間の村から特産品を運ぶ簡単な仕事。
――そのはずであった。
「くっそ、なんで大手に闇バイトなんて載ってんだ!」
今更悪態つこうと、後の祭り。
最近話題の闇バイト。
楽して簡単に金儲けができる、負け組人生一発逆転が、うたい文句の犯罪行為。
その実態は、使い捨て前提の人員を集めて金品を強奪させる。
赤信号、みんなで渡れば怖くないの集団心理が、恐怖と罪の意識を薄めさせる。
家主の人命など関係ない。
金をかき集めるだけ集めて、指示役は手を汚すことなく戦利品だけもってとんずらする。
残されたの実行役は、使い捨て。
警察にお縄とされ、捕まらないなんて嘘丸出し。
採用されたのは六人。
誰もが純粋に、運搬の仕事だと集ったのが運の尽き。
身分証も携帯端末も取り上げられ、家族を盾に協力を強要する。
断れば家族に危害が及ぶと揺さぶってくる。
助けを呼ぶにも山の中では電波は通じず、逃げだそうにも、人の足では麓まで遠すぎる。
従うしかない。従わないと家族が危ない。
「なんなんだよ、あの村は!」
もう男からは喚きしか出ない。
実際は、己が身の危険に晒されていた。
指示役にて指定された家は、村に不釣り合いな洋館であった。
とある絵を回収しろ。
なんでも高名な画家が書いた一品らしいが、芸術に疎いため価値はわからない。
「無人だから、誰も傷つかないって安心した自分がバカだった!」
ただ悔恨をにじませる。
この村には村民一〇人、平均年齢八〇越えの高齢者しか住んでいない。
洋館は一〇年前より無人。
田舎故、鍵などかけておらず、室内への侵入は容易かった。
命が奪われるのも、また容易かった。
「なんなんだよ、いったい!」
一番槍をつとめた男は、突如として鼻から地面に倒れ込んだ。
何かに引きずられるように、もがきあがきながら暗闇に消えた。
右隣にいたはずの男は、気づけば消えていた。
次は飛来した枝に左隣の男が、背中から胸を貫かれ、暗闇に引きずり込まれた。
暗闇の中、最初から位置を把握していたかのようなタイミングの飛来だった。
異常に続く異常。
年齢的に体力筋力の衰えた高齢者の仕業とは到底思えない。
「し、死んで、殺されてたまるか!」
自業自得の面があろうと、騙された被害者でもある。
生きなければならない。
訳も分からず殺されてはならない。
後少しで村はずれ。そこに乗ってきた車がある。
車の中には指示役から直接指示を受け取る相手がいる。
この異常な状況を説明すれば、逃げ出せるはずだ。
誰が生き残って、誰が死んだか、男に思考する余裕はない。
「なっ!」
命辛々車にたどり着いた瞬間、絶句する。
運転席にいるべき人間がいない。
我先に逃げ出した、いやそれなら車があること自体、おかしい。
「鍵はある!」
持たされた小型ライトを照らせば、鍵が車に挿したままだ。
今時、珍しい物理キータイプ。
恐らくだが、タバコで一服するとかで車を離れたのだろうと好機でしかない。
「えええい、動け、動け!」
運転席に乗り込んだ男は、エンジンをかけんと鍵を回す。
焦りからか、なかなかエンジンはかからない。
「よし!」
何度目かのトライでついにエンジンに火が灯る。
アクセルを踏み、一秒でも速く村からの脱出を計るが、車は一歩も進まない。
ただ後方から空転する音がするのみだ。
「なんで、すす、うっ!」
急激に視界がぼやけていく。気分が悪くなる。手足に力が入らない。
男は気づくことはなかった。
エンジンをかければ、排気ガスが逆流することを。
車体が持ち上げられ、タイやが空転するようにし向けられていることを。
車の左側面にて、探していた人物が地面から、白骨化した右手のみを出して埋まっているのを。
知るはずもなかった。
「がっ、ががががっ!」
男は狭まる意識の中、どうにか車内から脱出しようとする。
だが、激しく痙攣する指は、ドアを開けることすら叶わない。
そして男は力尽きた。
故郷に住まう家族の顔すら最期に浮かべられずに。
――――――――――――――――
はい、始まりましたホラー作品!
前々から予告した通り熊は出ません!
そも九州が舞台なので、野生の熊は元からいません。
今作は、過疎村×因習×動物ホラーとなっております。
応援・レビュー・ブックマーク・星、気になったら遠慮なくどうぞ!
執筆、加筆の励みになります!
のんびりまったりお付き合いくださいませ。
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