五月三日 十五時五分
ビデオレターに映る華やかな四人の女性は、嘗て劣等感を纏った女の子だった。
『
『色々な事情を抱えた子達の駆け込み寺?みたいな』
『あと、此処で歌とダンスを知った』
『初めて努力を覚えた場所です』
CROWの店主、ひろみママは、繁華街で放浪する子供達に寝床と食事を与えていた。
次第に児童相談所や警察の信頼も厚くなり、やがて連携が生まれ、子供達の安全で健全な居場所づくりにも尽力する。
そしていつしか、“慈愛のママ”と呼ばれるようになった。
ひろみママがお世話をした子供達は、世間から“小烏”と呼ばれ、ママが用意した安全で健全な居場所へ巣立って行く。
その中でもこの四人は、広く大きな空へと飛び立って行ける、美しく強靭な翼を生やした立派な烏へ成長した。
密着取材のカメラは、ビデオレターを愛おしそうに観るママの横顔にフォーカスしている。
ママは鼻を啜り、涙を堪えた。
舞台袖からその様子を伺っていた友良は、見るに堪えないと、心の中で中指を立てる。
私は虐待をされたことも無ければ、寝食に困る事も無かった。
母は少し世間ズレしていて、父は恐らく、他所に女がいた。それでも私は、現状に満足している女の子だった。
私は小烏じゃない。
助けて貰った覚えもなければ、この
優しいとは、自分の尺度で決まるものだから、現状に満足している私には物足りなかった。
このビデオレターが終わったら友良の出番である。
ビデオレターから聞こえる四人の声に、互いに大人になったと感じる。
『今日さ、
『えっ、なに、ミィちゃん知ってんの?』
『ヒント教えて』
『えっとね、声が太くて、ガナリがやばい』
『えっ、うそ、ヒント優しすぎ!』
『トモ?トモヨシ?』
『やっぱ休んで行けばよかった』
口々に会いたいと言う四人の声に、フッ笑みが溢れ、「嘘つけ」と呟いた。
『トモと言えばさ、あの曲だよね』
友良はスカートの裾を引っ張る。
『ホドんミーホドんミー』
お腹にいっぱい空気を溜め、ふぅっと吐き出す。
『ねぇ今からでもリスケできない?』
マイクを手渡され、胸を張る。
『ぶちかまして来い、トモち!』
すると、会場は暗転し音楽が流れる。
友良の太くて力強い第一声でパッと明かりが点き、一気に客を引き込んでいく。
歌が進むにつれ、走馬灯かと疑うほど、当時の記憶が蘇った。
やっぱりここは、居心地が悪い。
ここに慈愛なんてものはない。
だからこんな所、壊されて正解だ。
声を張り上げるフェイクで完走する。
久しぶりの歌に息を切らした。
小さなホールに歓声が湧くと、地鳴りのような音が混ざる。
あぁ、この感覚、よく知ってる。
とても不快だ。
微笑んでみせて、お辞儀をする。
時計は十五時十五分を指した。
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