第2章 半グレ、青鬼編14 決着
稲田中コーチ「お前ら!なにやっとんじゃ! 2番のマークを外すなっ!」
前面に怒気を表し自軍メンバーを叱責した。
メンバー「すみませんっ!」
5人ともコーチを見て謝った。
1点差とはいえ第4クォーターで逆転されてしまった。
このまま守り続ければ負けてしまう。
攻めねばならない。
しかしコーチから攻めの指示は受けていない。
稲田中メンバー「くっ! どうすれば……」
5人の連携が乱れ始める。
次は稲田中からの攻撃だ。
2番がセンターサークル付近までドリブルで切り込んでくる。
高瀬「止める!」
寺田「右は任せた!」
その侵入を高瀬と寺田がブロックする。
慌てた相手は右サイドに上がってきた3番へパスを出す。
パン!
稲田中コーチ「バカっ!」
ベンチからコーチの怒声が響く。
右サイドにパスしたはずのボールが慎二の手に握られていたからだ。
突然のことにパスをだした当人は動揺してしまう。
稲田中メンバー「あ! しまった……」
パスを読んでいた慎二と飯島がパスカットすべく両サイドを駆け上がっていた。
そして案の定、右サイドにパスは出された。
直線的にダッシュした慎二の軌跡が、パスコースをぶった切ったのだ。
稲田中メンバー「ちっ!」
パスを受け取れなかった稲田中の3番は舌打ちした。
ドンッ!
慎二は後ろを振り返ることなく、猛然とドリブルで相手陣地深くへ切り込んでゆく。
速攻。
速攻。
速攻。
相手5番センターと4番パワーフォワードが自陣に残っているが、突如として両サイドを駆け上がる慎二と高瀬に気を取られて二人の連携が切られてしまう。
中央が手薄になる。
慎二「飯島さん!」
慎二は中央に走り込んできた飯島にパスを出す。
グン!
そして自分自身はさらに右サイド45度の奥深くまで走り込む。
飯島はシュートを打つことなく、受け取ったボールを逆サイドの高瀬にパスする。
パン!
片手のワンタッチパスだ。
一方、慎二は右サイド45度からゴール直下を駆け抜ける。
ボールを持つ高瀬めがけて猛然とダッシュしたのだ。
そして高瀬と交差する瞬間。
トン。
ボールを直接受け取り、すぐさま身体を反転させた。
タン!
間を置くことなく、3ポイントシュートを放つ。
パスン!
再び、ボールはゴールリングを通過した。
「おぉっ!!」
2連続の3ポイントシュートが決まる。
32対28
館内にどよめきが沸き起こる。
慎二「しゃあっ!」
両こぶしを握りしめて慎二はおおきくガッツポーズをする。
それから高瀬と飯島にハイタッチした。
パン!
パン!
幹中の突然の豹変に稲田中の5人は動揺してしまう。
稲田中メンバー「く……」
第3クォーターまでとはまるで動きが違う。
今まではわざと力を落としていたのではないか?
そう思えるほどの豹変ぶりだった。
相手コーチは頭を抱えながら、パスを奪われた2番を責め立てる。
コーチに怒鳴られ、2番は萎縮してしまう。
コーチ(幹中)「あぁあぁ……試合の後半で、しかも負けている状態であんな怒鳴ったらダメだろぅ」
反対側のベンチに腰かける幹中のコーチは、相変わらず飄々とした表情のまま、相手陣地を眺めている。
第4クォーターで逆転されたのだ。
焦るメンバーを叱責するのは明らかに間違いである。
致命的なミスならば選手を交代すればいい。
それを想定して準備しておけばいいだけだ。
だが稲田中は選手交代をしないつもりなのだろう。
ひたすらコート内の5人に激しく指示を出している。
幹中コーチはベンチに腰かけたまま、周囲に聞こえない声で静かに告げた。
コーチ「勝ったな」
この後の展開は特に目を見張るものではなく、幹中が終始試合を優位に進めて得点を重ねた。
連携の乱れた稲田中は第4クォーターで得点を取ることができなかった。
42対28。
ピィーーーッ!
試合終了のホイッスル。
結局、14点差をつけて幹中が準決勝戦を制した。
試合終了のホイッスルと同時に、幹中の5人は互いにハイタッチを交わした。
慎二「しゃぁっ! 勝った!」
飯島「よっしゃ!」
高瀬、寺田、猪島「天川抜きでも勝ったぞ!」
力なく肩を落として自陣に下がる稲田中とは対象的だ。
そんな5人を幹中コーチは表情を変えることなく静かに迎え入れた。
コーチ「よくやったお前ら。まぁ今日の試合はまずまずよかったな」
5人「はい!」
勝利の直後である。皆元気よく返事する。
コーチ「これで次は長谷中との決勝戦だな。見てみろ、清里が2階からお前らのことを見てるぞ」
そう言って2階の応援席のほうを指さした。
見れば、清里や他のメンバー5人が試合に勝利した幹中メンバーをじっと見ていた。
清里「……」
第3クォーター終了までは、動きに精彩を欠き、負けるものだと思っていた。
それが突如、第4クォーターで豹変したのだ。
いきなりの展開に長谷中の面々は驚いていた。
長谷中メンバー1「なんだよアイツら、いままで手を抜いてたのかよ」
長谷中メンバー2「まあ、そういうことだな。稲田中はあの急な変化にまったくついていけてなかったな」
清里「油断してたんだろ。蜘蛛の糸を張り巡らせていたのは幹中のほうだったな」
そう言いながら清里は、やはり幹中は油断ならない相手だと思った。
どういう理由で天川京一が不在であったのかは分からない。
だが彼抜きでもああいった試合ができるのだ。
5人の底力を感じた。
次の決勝戦で天川京一が加わればさらに攻撃力が増すだろう。
この前の練習試合のように楽に勝たせてもらえるだろうか?
少しの間思案したが、すぐに考えることをやめた。
清里「まぁでも、どのみち、俺らの敵じゃないよ」
たとえ京一が戻って来ようが、清里を止められる者はいない。
県下で敵なし。全国区でもトップクラスの実力を持つ。
清里は圧倒的な自信に満ち溢れていた。
決勝戦で負けることなどまったく想像していないし、する必要もないだろう。
先日の練習試合ではダブルスコアで勝利したのだ。
格の落ちる稲田中と自分達とでは全てが違う。
王者の試合をすればいい。
いつも通りに。
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