第1章 未熟編9 親友と好きな人が重なる
秋の運動会を終えたころ、キミに好きな男子がいるという噂が立った。
クラスのあちこちで、○○キミじゃない?とか、△△キミでしょ? という声が聞こえた。
僕は下を向いて歩くことが多くなった。
そんな僕を時折、キミは注意した。
「京くん、そんな丸くなって、猫背になっちゃうよ?」
僕はキミの言葉を素直に聞くことができない。
聞けば、みじめな自分自身の存在を認めることになってしまうからだ。
どうしてキミは僕の隣にいるんだろう?
好きな男子の傍にいればいいのに。
ひどくイライラした。
キミのそのあまりに眩しい顔を見かけるたびに、胸が張り裂けそうに痛くなる。
もしもこの手にナイフがあったなら、今この瞬間にも胸を切り裂き、内部に溜まった汚いドロドロを吐き出したいと思った。
結局、キミの好きな男子は、クラスで一番格好のいい片桐慎二ということで落ち着いた。
慎二は数少ない僕の友達だった。
僕の通院仲間だ。
踵の酷く痛む僕は、この頃、毎週のように市内の整骨院に通っていた。
慎二とはそこでよく一緒になった。
慎二も脚が遅かった。同じ痛みを抱えたもの同士、どうして本気で走ることができないのかは、痛いくらいに理解できた。
でも慎二の脚の遅さは、クラスでは目立たなかった。
慎二は格好良かった。
慎二を好きな女子は一杯いた。
そして慎二よりも足の遅い僕がいた。
結局は顔なのだろう。
幼いながらに僕は道理を理解した。
慎二が羨ましかった。
いずれキミを手に入れるであろう慎二が羨ましくて堪らなかった。
でも慎二はそんな僕の嫉妬に気付くことなく、屈託ないカオで僕に接してきた。
「京! 今度、俺んち来いよ! 姉ちゃんが俺の誕生プレゼントにドラクエの新作買ってくれたんだぜ!」
「え! ほんと?! ドラクエ?」
少年にあって麻薬に等しい“ドラクエ”の響きに僕の劣等感も嫉妬心も全部吹き飛んだ。
この頃、僕は毎日のように慎二の家に通った。
慎二の家は集合マンションの一室だった。
玄関扉を開けて、最初に飛び込んできた映像は美人のお姉さんだ。
「慎二っテメェっ! またアタシのシャンプー勝手に使っただろっ! アレ、すっげぇ高いんだぞ! カツカツのバイト代でようやく買ったものなんだぞっ!」
「ゴメン、姉ちゃん!」
「誤って済むんならこの世界に法律も警察も裁判所もいらねーんだよっ! 慎二! テメェこのマセガキ!」
ガチンっ!
石のぶつかるような音がした。
綺麗な慎二のお姉さんが、思いっきり慎二の頭をグーで殴った音だった。
「イテェ! クソブスっ!」
「なんですってぇっ?!」
「来い! 京! 俺の部屋に逃げ込むぞっ!」
いきなり慎二に手を引かれて、奥にある慎二の自室に逃げ込んだ。
慎二の家にいる間は楽しかった。
こんな日々が毎日続いた。
辛い学校での日々から逃げるようにして、慎二の家に上がりこんでいた。
学校でのイジメも、キミのことも、情けない自分自身も忘れることができた。
慎二のお姉さんは綺麗で面白い人で、慎二は格好いいくせに、とてもひょうきんで、僕を差別することなく、そして、同じ脚の痛みを抱えていた。
こんな毎日がずっと続いてほしい。
神さまに願った。
でも、そんな天国はこの世界にはない。
「なぁ京。俺、琴野のことが好きなんだ……」
2月も半ばを迎えたころ、自室でうな垂れる慎二は、力なくそう呟くと、僕を奈落の底に突き落した。
当たり前といえば、当たり前のことではあった。
クラスの男子は全員残らずキミのことを好いていたのだから。
それなのに僕は少なからず希望を持っていた。
慎二がキミを好きでないのならば、キミも慎二を諦めるしかないと。
少しくらいは僕にも可能性があるかもしれない。
醜い感情だと思った。
希望のことだ。
こんなものがあるから、僕は嫉妬で目が眩む。
「もうすぐさ、その、バレンタインだろ?」
モジモジと言いよどむ慎二の言わんとすることが、僕には手に取るように分かる。
「……うん」
僕は曖昧な返事でお茶を濁そうとする。
慎二は真剣だった。
「そのさ、やっぱ琴野も渡すのかな? 好きなひとに」
「……」
僕は何も応えない。
「はぁ~。やっぱ渡すんだよなぁ。誰かなぁ、俺だったりしないかなぁ」
慎二は溜息をついて自室の天井を見上げた。
「……」
僕は何も答えない。
「なぁ京一。琴野ってさ、なんか俺のこと好きって言ってんじゃん? あれホントだと思う?」
慎二が天井を見つめたままに呟いた。
「……」
僕はやっぱり何も答えることができない。
答えるつもりも無い。
「やっぱ琴野は、学校で一番格好いいやつを好きなんだよなあ」
そう溜息ばかりついていた慎二が突然跳ね起きて、僕の肩を掴んだ。
「なぁ京一、俺と琴野の仲取り持つ協力してくれない?」
「え?」
沈黙を無理やりこじ開けられた。
開くはずのない口が、意に反して疑問符を打つ。
「な? いいだろ? お前ときどき琴野と一緒にいるじゃん? お願い!」
慎二は両手を目の前に合わせ、僕に頼み込んできた。
スッ。
僕は慎二の真剣な眼差しから視線を外した。
慎二の部屋の壁には余すところなく、NBAバスケットボールのスター選手の写真が貼られていた。
僕の憧れる選手もいる。
あんなふうに格好よくなれたなら、少しでもキミに近づけるのだろうか?
叶いもしないことを思った。
僕は慎二の申し出を受けた。
そのかわり、一つの条件を提示した。
慎二は、二つ返事で僕の条件を受け入れた。
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「ヒーロー、京一のステータス」
1、覚醒までに消費した時間
:9か月間を消費
2,ヒロインの残り時間
:5.5年マイナス9か月間
3,ヒロイン?母親?:
(母)☆☆☆★★0☆☆☆☆☆(蓮華)
4,卑屈さ :レベル4へ上昇
5,嫉妬心 :レベル3へ一気に上昇
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