第1章 未熟編4 1対4の喧嘩。幼いヒーローに屈辱は必須。


転校初日。



「天川、おまえ琴野んちのそばに引っ越してきたんだってな? 琴野に気安く話かけんなよな。アイツは将来、俺とケッコンするからさ」

天川とは僕の苗字。

このクラスで一番目立つ彼が、最初に放った言葉がソレだった。


「……」

僕は何も言えなかった。

彼の言葉にクラス全員の状況が凝縮されていたんだ。


20名いる男子児童全員がキミのことを好いている。

一人の例外もない。

僕が勝手にキミに話しかけることは許されなかった。

ルールを破ればイジメられる。


ある日、キミのスカートを捲って揶揄った男子がいた。

しかし彼は、中心グループの少年達によって、先生のいない休み時間に組み敷かれて顔を殴られた。それからズボンを無理やり剥ぎ取られて、裸にされたんだ。

彼はクラス中の笑い者になって、泣きながら教室を飛び出した。

後になって思えば笑い話かもしれないが、当事者であればこの仕打ちは天罰に等しい。


「琴野蓮華はこのクラスで一番目立つ(強い)者が手に入れる」


幼いながらに暗黙のルールが出来上がっていた。

グラリ……。

僕は足場を失ったような不安に襲われた。

再び母さんを奪われる。

そう思った。

母さんを奪おうするアイツを倒さなければ。


生まれて初めてのケンカは1対4だった。

ドンッ!


第二次成長期を迎えていない僕の身体は、皆に比べて背丈が低い。

腕も脚も細かった。

1対1でも勝てなかっただろう。

惨めなものだ。


「おいっ今から天川のズボン脱がすぞっ!」


僕は、キミと結婚すると言いふらしていたヤツに取り押さえられ、四つん這いの格好でズボンもパンツを一気に剥がされた。


「きゃあっっ!」

「天川が脱がされたぁっ!」

「ぎゃはははっ!」


クラス全員が笑いと悲鳴の渦に包まれた。

顔面を床に押し付けられ、背中に馬乗りされたため身動きできない。


カァーッ!


全身の血が顔に集まる。

恥ずかしくて、悔しくて堪らなかった。

こんな姿キミにだけは見られたくない!

強く、強くそう思った。

今は昼休み。

キミは教室にいない。


「くっ!」

力いっぱい身体をくねらせ、なんとか逃れようとした。

ズンッ!

でも遥かに強い力で、押さえつけられる。

お腹の上に乗られてしまえば、何もできない。


「おまえ、何暴れようとしてんの? ぶぁーか!」

頭上から罵られる。


クソっ、クソっ!

どうして僕はこんなに弱いんだよっ!

「うぅっ! うあっ!」

半泣きになって抗った。

でも状況は変わらない。

制裁は続く。


「おい! 誰か、コイツのちんこ触れよ! ギャハハ! もっと大きくして、琴野に見せようぜっ!」

「っ?!」


弄りの愉しみに火がついたんだ。

お腹の上に乗っかる奴がとんでもないことを言い出した。

僕はありったけの力を振り絞って逃れようとした。


「うあっっ!」

ズン!

だめだ。

逃れられない。


「いやっ! あたし天川ってチビで気持ち悪いから嫌!」

「アンタら、はやくそんなモノしまってよっ!」

女子達から軽蔑の言葉が飛んでくる。

「!」

重たい言葉。

それはドスンと僕の心を殴りつけた。

半泣きだった僕は、耐えきれずに声を上げて泣き出した。


「やめてぇ! やめてよっ!」


屈辱だった。

馬乗りされた相手に、僕は何度も何度も許しを請うた。

「お願い! お願いします! やめてっ! やめてよっ!」

僕にプライドなんてなかった。

「へへ、やだね~!」

冷たく突き放される。

僕は泣き喚いた。


悔しかった。

屈辱だった。

逃げ出したかった。




ヒーローなんてとてもなれない。

そう思った。



この時からクラスの嫌われ者としての惨めな未来が確定したように思う。

ただ、ただ、泣き叫びながら、許しを請う事しか、僕には出来なかった。


「くぅっ!」


母さんの顔を思い出す。

まるで母さんがコイツらに馬鹿にされているようで、苦しくて、辛くて、痛かった。


「おいっ高山、オマエ、コイツのちんこ触れよっ」

僕の上に乗っかるコイツが大声で誰かを呼んだ時、天雷のような声が響き渡った。


「須藤っっ! あんた何やってんのっ?!」


お腹の上が一瞬ビクンと震える。

キミだ。

キミの声だ……。

僕の中で、必死に守ろうとした何かが音を立てて崩れ去る。


ガラガラガラッ。


どこまでも果てしなく、僕が今まで積み上げて来たものが今日、壊れた。

キミが駆けて来る。

「くぅっ……」

絶対に見られたくない姿を見られてしまった。


「き、京くんっ!」

キミの悲鳴に似た声が上がる。

何かが終わった。

僕はそう思った。


パンっ!


突然、僕の頭上で破裂音がした。

キミが須藤の頬を命一杯平手で叩いたのだ。

「サイテーっ! 須藤っ!」

「こ、琴野……だって」

須藤が慌てる。


「だってじゃないよっ! はやく京くんからどきなさいよっ! ばかっ!」

「こ、ことの……」

「あんた何様のつもりっ! いっつも私に話しかける男子達をいじめてっ!」

「だって、お、おれ、琴野と将来」

「結婚なんかするかっ! ばか!」

キミのあまりに激しい剣幕に教室中が静まりかえる。


し~ん……。


僕をガチガチに固めていた須藤の身体からスゥと力が抜けていく。

「京くんっ!」

キミは僕に乗っかる須藤を跳ね飛ばす。

ガバリ!

僕はキミに抱き上げられた。


「……」

まだ身体の小さかった僕は、姉のように大きなキミに救い出されたのだ。

「……」

僕に言葉は無かった。


キミは惨めな僕を見て笑うことはない。

その辺に投げ捨てられていた僕のパンツとズボンを拾ってくると「ほら、京くん、はやくズボンはいて。休み時間終わって先生来ちゃうよ」と、優しく告げてくれた。

群を抜いて優れた容姿を持つキミは、皆の視界から僕を遮る。

僕はキミから奪うようにしてズボンとパンツを取り戻す。

そしてそのまま逃げ出した。


ダッ!


一秒だってこの場所にいたくなかった。

守るはずのキミに逆に守られたんだ。

「惨め」というのはこういうことを言うのだろう。


もともと背も低くて、脚も遅い僕は、この日からイジメを受けるようになる。

キミはそんな僕の立場に気付くことなく、相変わらず眩しいほどの笑顔で僕に接した。


ジワリ……ジワジワ、ジジジュゥ……。


この時から、僕の中で卑屈な劣等感が確かな養分を得て根付き、育っていった。



☆-----☆-----☆-----


「ヒーロー、京一のステータス」


1、覚醒までに消費した時間 

           :1週間を消費


2,ヒロインの残り時間 

       :5.5年マイナス1週間


3,ヒロイン?母親? : 

(母)☆☆☆☆☆0★★☆☆☆(蓮華)


4,Mっ気   :レベル1→2へ上昇


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