もうひとつの人生
蒔田祥子
第1話 手紙
あのとき、もうひとつの道を選んでいたらと思うこと、あなたにはありますか?
そして、もうひとつの人生を選ぶチャンスが今、あなたの目の前にあるとしたら、あなたはどうしますか?
これまで生きてきた人生をすべて賭けて、その答えを出すまでの時間は二日間。
あなたは、その二日をどう過ごしますか?
ある日、一通の手紙が届きます。その筆跡に、目がくぎづけになります。それは、30年前まで文通をしていた人のものです。
胸が高鳴ります。封を開けることをためらいます。そのためらいはすぐに消え、読みたい気持ちがつのります。
封を開けると、便箋にはなつかしい文字。30年の月日を越えて、30年前の私になっています。
30年ぶりに味わう思いが、からだを満たしていきます。
手紙の内容は、30年ぶりに開く展覧会のお知らせです。
30年前、文通の相手は、趣味で絵を描いていました。私は、その絵を見ることを楽しみにしていました。
ずっと絵を描いていたことを知り、胸が熱くなります。絵を見てみたい、すぐに行こうと思います。
展覧会の会場には、文通の相手がいます。見に行くことは、会いに行くことです。
30年の月日は、お互いの見た目に表れます。会うことがこわくなります。
もしも会ったときに、お互いの想像と違っていたら、30年前の思い出のままの方が、お互いに良いのかもしれないと思います。
その思いに答えが出せないうちに月日が経ちます。展覧会の最終日まで、あと一週間になっています。
展覧会場は、東京。行くのなら、最終日と翌日、一泊二日です。文通相手に会うのなら、ゆっくり話をしたいからです。
まず、東京に行くときにいつも泊まるホテルの部屋が空いているかをネットで調べると空いていたので、予約します。
次は、新幹線の予約をします。東京まで二時間あまり、東京から展覧会場の銀座まで15分。
お昼ごはんは、展覧会に行く前に銀座のイタリアンレストランを予約します。創業70年のお店でゆっくりランチを味わいながら、心の準備をする予定です。
ホテル、新幹線、ランチの予約をすべて終えます。準備は万全です。
あとは、展覧会に行く決心をするだけです。自分にきいてみます。
「会いたいのか、会いたくないのか」
この好機を逃したら、もう二度と会うことはないと思います。会いたいなら、最後の機会。
「会いたい」
心は決まります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます