天空国家ルエーゼ ~配下と歩む異世界征服記~

恵比寿

第1話 プロローグ

VDSLG(バーチャルダイブシュミレーションゲーム)ダンジョン王国。略してダン王。

 

 自分だけのダンジョン王国を作り、王国を繁栄させるバーチャルダイブ型ゲームである。生活、経営、育成と数多のシュミレーション要素を詰め込まれ、遊び方は多岐に渡る。自身の拠点となるダンジョンの立地も広大なオープンワールドから選ぶも良し、自分だけの領域を創造するも良しである。ダンジョンといえば戦闘が基本だと思われるが、生産系のダンジョンを生成し、自身のダンジョンがある街を盛り上げても良い。ダンジョンの運営方針1つ取っても、多様な選択肢がある。


 そして、このゲームが人気になった2つ目の理由。それが『魂のゆりかご』システム。『魂のゆりかご』とは、ゲーム内の特別なアイテムであり、これを消費することで自身の望むAI搭載キャラクターを生み出せる。勿論、最強キャラを創ろうと思えば、『魂のゆりかご』の他に必要な素材や実際の作成難易度は段違いとなる。しかし、『魂のゆりかご』から創り出されたキャラクターは、創造主の願いから生まれ、創造主や世界と関わることで成長していくのである。その育成が圧倒的自由度を誇り、最強育成論が議論されたほど。

 

 更に、システム面でいえば、そのリアリティさと魔力という非現実的要素の違和感ない感覚化への成功も大きな理由だ。布から洋服を作れたり、炉へ入れた金属が溶けたり、まるで現実世界と変わらない体験をすることができる。勿論、スキル要素もあり、スキルを使用することで結果だけを手にすることも可能だ。

 そして、魔力。魔力が体を流れる感覚を再現し、その感覚を操ることで魔法の上達を行うことを可能としたVDは初では無い。しかし、どのゲームも違和感が大きく結局、魔力の再現は見た目だけとなるものが多かった。そんな中で、多くの人が違和感なく魔力というものを感じ、人によっては操ることまで出来たゲームの出現にVDゲーム界隈では、大きな反響を呼んだ。勿論、慣れない人もおり、そういう人は感覚を切ったり、やめてしまった人もいる。その他にも体力や魔力が減れば、別の感覚で体が怠くなるといった細かい違いも再現された。


 そんな基本ソロプレイで、自身の世界を構築していくゲームだが、1つだけ他者との交流要素がある。

 

 それが、ダンジョン開放。

 ダンジョン開放に登録することで、世界中のダン王プレイヤー達が自身のダンジョンを攻略可能となる常設イベントである。他のダン王プレイヤーが、攻略のために遊んでくれれば、それだけ自身のダンジョンにポイントが入る。また、他者のダンジョンを攻略すれば、経験値やアイテムが手に入った。


 そして、そんなダンジョン王国で、ダンジョン王ランカー兼ダンジョン攻略王者がいた。







 天空国家ルエーゼ。

 高度20kmに浮かぶ空島であり、ダンジョン王国で最強ランキング首位を走るプレイヤーの居城。その島は、分厚い雲に包まれており、外から島がある事を知ることはできない。けれど、そのダンジョンはダン王プレイヤーの中で知らぬ者はいないほど有名なダンジョンであった。

 

 曰く、レベル制限しても強さが可笑しい。

 曰く、運営の人である。

 曰く、天神と。


 十天衆と名付けられたダンジョン主の寵愛を受けし強者たちが、敵を屠り、自身の居城を守ったことで生まれたプレイヤーの二つ名は、ゲームプレイヤーなら知らぬ者は居ないほど広まっていた。しかし、誰ともフレ交流を行わず本人が一度として他人のダンジョンに挑まなかった為、謎に包まれた人物でもあった。


 ダン王は、1パーティーNPC6人で組むことが出来る。これにプレイヤー自身の参加は自由である。つまり、NPC6人のパーティーか、NPC6人+プレイヤー1人の計7人パーティーの何方かでダンジョン攻略を行う。ダンジョンによっては、難易度の上昇により、パーティー人数が増えたりする場合もあるが、それは特殊なダンジョンのみである。

 ダンジョンは、2週間に1回のペースで、運営による攻略集計と防衛率により、ダンジョンランキングが発表された。上位となったダンジョンは、高難易度ダンジョンとして格付けされ、謎解き要素が加わっていたり、単純に相手が強すぎたりと一筋縄ではいかないものばかりである。

 そして、ローグライク系ゲームで人気があったNPC周回は依然として可能であった。そのため、自身のダンジョンを強化するために、他者のダンジョンへ挑むことは当たり前であり、NPCだけでの攻略も珍しくない。けれど、NPCパーティーで高難易度を攻略するのはとても難しい。

 それは、単純にパーティーの戦力が一人分足りない状態で攻略する必要があるためである。

 けれど、天神の二つ名を持つプレイヤーは、ダンジョンを攻略する際、決して自身が参加することはなかった。それが更なる反響を呼び、噂の人物となっていったのだ。


 





 マカボニーのような重厚な調度品で整えられた部屋を抜け、毛足の長いふかふかの絨毯が敷かれた寝室の奥。


 鏡の前に立っていた少女は、パチンと指を鳴らす。すると、白銀のアーマードレスから細かい刺繍がされた純白のオートクチュールドレスへと変身した。

 

 くるっ  ふわっ


 足首のスナップを利かせて一回転。風を取り込んだスカートがひらりと揺れる。背中が空いたドレスは首元から鎖骨と胸上をレースで隠し、オフショルダーのドレスで切り替えている。首元には、大きくダイヤモンドカットされた魔宝石を中心に、小ぶりな雫型の魔宝石が散りばめられたネックレス。括れで絞られたスカートはフィッシュテールで、後ろは彼女の足より長く床に引きずっていた。 足元はつま先に花、アキレス腱にはリボンをあしらった白いストラップシューズ。

 それはまるで一見すると、花嫁衣裳のような神秘をまとっていた。


 一通り見て満足した白い花のような少女は、テーブルの上に置かれたベルを鳴らす。


 そのまま、いくつかの部屋を通りすぎ自室の扉を開いた。


 「あら?」


 少女のガラス細工のような声が廊下に響く。


 「迎えに来たよ、ミア」


 扉の前に立っていたのは、長身の青年。恐ろしく整った顔立ちに、常闇のような漆黒の髪。彼は自然にエスコートの手を伸ばす。


「リオはどうしたの?」

「代わってもらったよ。ミアの姿を、一番先に見たかったからね」


 見る者全てを魅了する魔性のほほえみを浮かべる青年。しかし、少女は戸惑うことなく仕方ないわねと苦笑し、彼の手を取り歩きだすのだった。


 長く見えた神殿のような廊下を抜け、大きな両開きの扉の前へやってくる。


 扉の前では、一人のメイドが待機していた。16歳ほどの少女と同年齢程度の見目のメイドは、深く一礼している。

 肩に小さめのボレロ、裾には白い刺繍とフリルが入った黒のワンピース。その上からフリルのたっぷり入った長い白エプロンを着込んだクラシカルメイドスタイル。足元は黒のストラップシューズ。特筆すべきは、彼女の背中に純白の羽が生えていることだろうか。


 メイドが面を上げ、扉のノブに手をかける。片方のドアだけを開けているはずなのに、両扉が一緒に開いていく。

 同時に、中から大きな声が聞こえた。


「ミアクロティラ・ルエーゼ陛下、エーヴィヒカイト宰相のご入場!!」


「行きましょうか」


 かつん


 扉へ一歩踏み出した瞬間、彼女の背中に羽が生えた。立派な純白の羽が四対。頭上には複雑な幾何学模様を描く天使の輪が光り、周囲に白い光が舞っている。


 彼女は淡く微笑むと、青年と共に扉を潜る。


「ミアクロティラ陛下、万歳!!」


 万雷の拍手と喝采によって、彼女たちは迎えられた。扉の前はバルコニーになっており、会場を見渡せる。各々のテーブルの側に立ち、全員の視線が歓喜と信頼を伝えてきていた。


 隣に立っていたエーヴィがすっと、片手をあげる。その瞬間、会場は静まり衣擦れの音一つも聞こえない。

 彼は、静かになった会場を背に少女へ視線を投げかけた。少女は会場を改めて見渡した後、一呼吸置いて話し始める。


「皆と共にルエーゼ国が1000周年を迎えられた事、大変嬉しく思うわ。これほど、長い間発展させられてきたのは、ひとえに貴方達の力があったからよ。改めて、感謝を。皆、ありがとう。これから先、多くの困難が待ち構える事もあるでしょう。ですが、ルエーゼ皇国は不滅。安心なさい、後ろには私がいますわ。改めて、愛しい臣下たちよ。此度の祭典、誠に大儀でした」


 ミアクロティラが、挨拶を終え一歩下がると、会場は万雷の拍手に包まれた。少女は、エーヴィヒカイトから黄金色のシャンパンの入ったグラスを受け取る。拍手が落ち着くと、今度はエーヴィヒカイトがバルコニーの前に進み出る。

 

「それでは、乾杯の方へ移らせていただきます。我らが運命はルエーゼと共に!ミアクロティラ・ルエーゼ陛下に乾杯!」

『乾杯!!』







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る