第5話 口には出せない①

「可愛い~。これ、いつの写真?」

家の前で緊張したような顔で亜理紗ありさが写っている。


「これはね、引っ越してきた日じゃないかな?おばあちゃんが記念に撮ってくれたんだよね」

「小3で一人で引っ越してくるとか亜理紗は勇気があるよね」

「うーん、どうかな。東京にいても弟ばっか構われてるって拗ねてて、意地になってたとこもあるかもね」

「亜理紗は負けん気強いところもあるもんね」

「そうかな?」

「そうだよ」

英人ひでとがアルバムをめくった。


「あ、僕だ」

英人と亜理紗が家の前で並んで写っている。

「初めて友達を家に連れてきたっておばあちゃんが記念に撮ってくれたんだよね。今覚えば記念日好きだった」

部屋に飾られた祖母の写真をみた。

これだけのアルバムが出来るくらい祖母は写真を撮ってくれたのだなと改めてありがたい気持ちになった。


「この日に初めて亜理紗に会って、家まで送ったんだっけ?」


「・・・初めてじゃないよ」

亜理紗は小さくつぶやいた。


「ん?」

「ううん、何でもない」

亜理紗はそういうと、アルバムの次のページをめくった。


「これ、武史?」

幼いころの武史たけしが泥だらけになって、得意気に腰に手を当てている。

後ろには大泣きしてるあいとそれを慰める亜理紗が写っている。


「そうだよ。覚えてない?武史が雪合戦したいって言いだして、でも夏で雪ないから泥団子でやるとか言い出してさ」

「あったね~そんなこと。最後、藍に泥団子が当たって、武史のこと嫌いだって泣き出して、武史がめちゃくちゃ謝ってた」

「この頃から武史は藍に弱かったよね」

「まさかこれから20年後には結婚してるとはなぁ」

「ほんとに想像もしてないよ」


写真の中の子供たちは、これから起こることなども何も知らず、幸せそうに笑っている。

どの写真も懐かしくて、大切な思い出だ。


(楽しい思い出のはずなのに、少し切なく悲しい気持ちになってしまうのは大人になったからかな)

亜理紗は、楽しそうに写真を見ている英人をみて、胸がちくりと痛んだ。


「これ中学の入学式?」

中学校の前で5人が笑顔で映っている。

じゅん以外は中学の制服を着ている。

「うわー、このセーラー服嫌いだったんだよね」

「え?そうなの?」

「ブレザーにめちゃくちゃ憧れてた」

「セーラー服、可愛かったけどな~」

英人はさらっとこういうことをいう。

誰にでも優しくて、素直に言っちゃうもんだから、英人は意外とモテていた。

「この頃、ケンカしたことあったよね?亜理紗がめちゃくちゃ怒りだしてさ」

「あ~・・・あったね」


□■□

中学2年生になった頃、それぞれ部活に入ったり、クラスがわかれたりして、5人以外にも友人が出来ていた。

それでも1番仲いいのは私達だというなんだか謎に自信があった。


「亜理紗!」


「藍?」

昼休みに友人とご飯を食べていると、藍が教室へやってきた。


「ちょっとこっち来て」

「え?ええ?」

藍に強引に引っ張られて、中庭が見える2階の廊下まで連れて行かれた。


「亜理紗、落ち着いて聞いてね」

「何?私まだ卵焼き食べて・・・」

「英人に彼女が出来たかもしれない」

「え?そんなわけないでしょ。彼女が出来たら話してくれるだろうし」

「じゃあ、中庭見てみて」


ドキドキしながらもそっと中庭をのぞき込む。

英人と女の子が一緒にお弁当を食べている。


「い、一緒にお弁当食べているだけじゃない」

「ちょっとよく見てよ。お弁当一つだよ?」


もう一度よく見ると、同じお弁当を一緒に分け合っているようだ。


「ほんとだ・・・」


胸がちくりと痛い。


英人が他の女の子に優しく微笑みかけている。

悲しいような、不安なような、腹が立つような・・・何とも言えない感情が自分の中で沸き起こっているのを感じた。


(英人が他の人と付き合って仲良くして・・・なんて考えたことなかった)


亜理紗は午後の授業は全く耳に入らず、どうして言ってくれなかったのか、もう一緒には遊べないかもしれないのか、とずっとぐるぐる頭の中で考え続けていた。


放課後になり、部活終わりに藍と待ち合わせして帰る。

亜理紗たちが住む街は中学校からかなり遠く、電車とバスを使って通学している。

遠くて時間もかかるので、なるべく藍と待ち合わせて帰るようにしていた。

最寄り駅で電車から降りると、ちょうど武史と潤、そして英人もいた。

「おー、お前らも帰りか?」

「そうだよ」

なんとなく合流して、バスを待っていると、「ねぇ、亜理紗」と英人が声をかけてくる。

「・・・何?」

「あれ?亜理紗、怒ってる?」

「・・・別に」

「怒ってるよね?」

「怒ってないけど」

「いや、だって眉間に皺よってるよ」

「・・・うるさいな」

亜理紗はぷいと顔を背けると、藍の方へ寄っていった。

「ちょっと、亜理紗」

英人はそう言っていたが、亜理紗は無視をしてバスに乗り込んだ。

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