Theurgia 〜聖なる魔導書〜
平中なごん
Ⅰ 宣教の修道会
聖歴1580年代初頭、フランクル王国・王都パリーシス……。
我が名はアグノティオキス・ロベルト・デ・ロジョーラ。この堕落した俗物まみれの世界において、危機に瀕した正しき神の教えを心底憂える人間の一人である。
我はカテドラニア(※まだエルゴン王国と同盟君主国だった頃のエルドラニア王国の旧名)ビスコーニュ地方のアスペディア村を治める
しかし、戦場でマスケット銃による重傷を負い、実家に戻って療養生活を送っていた際、退屈凌ぎに読んだプロフェシア教の根本教典『
そこに記された我らが〝
自己犠牲を惜しまぬその生き様は、戦場で武勇を示し、命がけで冒険の旅をする騎士の道にも通じるところがある。
中でも我同様に騎士を志し、捕虜生活の末に世俗での成功の虚しさを悟ると、すべて捨てて清貧な僧侶となったら大聖人〝ワッチジのジョヴァンネスコ〟に強く心を打たれた。
そして、極めて厳格なジョヴァンネスコ修道会を開き、「神の家を再建せよ」との神のお告げに従うと、異教徒に支配された聖地ヒエロシャロームにまで足を運び宣教活動を行った彼の生涯に憧れを抱いた。
そこで早々、最寄りのムン・サラット山にあるベネッセクト会修道院を訪れた我は聖堂に祀られる聖母メイアー像に武具を捧げ、騎士道ではなく信仰の道を歩み、自らの理想とする独自の修道会によって異教徒達を改宗させることを生涯の目標と定めたのだった。
それからの修道生活の最中、白死病と戦乱で荒廃したマンザラという街に立ち寄った折、洞窟に籠って瞑想を行っていた我はさらなる天啓を得る。
その独自の工夫を加えた瞑想法によって神と一つとなり、ついには〝遥か彼方の地へも足を運び、正しき教えを広めよ〟との神からの〝預言〟を授かったのである。
考えてみれば、〝はじまりの預言者〟イェホシア・ガリールからして、悪魔の山での瞑想により神からの言葉を預かったと『
そこに思い至った我はこの瞑想法を〝鍛霊〟と名付け、それによる伝道を具体的な第一目標と定めた。
この〝鍛霊〟は独自の…とは言ってもそこまで斬新なものではなく、もともと修道会で行われていた神の御姿の観想、黙想、神を讃える口祷や念祷、良心の究明などをより効率的に体系化し、〝はじまりの預言者〟の生涯を追体験しようとするものである。
その後、〝鍛霊〟による修行法を確立した我はそれを引っ提げ、さらなる神学の知識を深めるべく祖国のアルカリ大学を経て、隣国フランクル王国の王都パリーシスに遊学するとエウロパ世界随一の歴史と伝統を誇るサン・ソルボーン大学へと入学した。
だが、その遊学がたいへん有意義であったのは、神学の知識以上に六人の同志を得えられたことであろう。
即ち、カテドラニアとフランクルの係争地ハベエラの、やはり騎士の家の出でもと哲学専攻であったファンシエスコ・ハベエラ、神聖イスカンドリア帝国の領邦サパディア公国出身の、若輩にして博士号と司祭の資格を持つ秀才ピエルド・ファルベール、エルドラニアの旧都トレイドに住む下級貴族の子弟で剣の達人アルフォーン・サロメドン、同様にやはりカテドラニアの旧都ボンバヘーリャの裕福な商人の家に生まれ、天文学や古代異教の神話に造詣の深いニコラレ・ボンバへーリャ、拳闘が得意なカテドラニア・アルマンサナの平民出身の青年ダイゴ・リオンネス、そして、我よりも10近くも歳上の最年長、カテドラニアの同君主国ポルドガレでもともとは船乗りをしていたシェルモン・ロドリゴである。
大学卒業を控えたある夏の日、我はこの六人とともにパリーシス郊外にあるモン・メルクリの丘へと赴き、山腹にあるサン・ディオニス記念聖堂で司祭ピエルド主催による礼拝式を行うと、プロフェシア教の最高権威、イェホシアの後継たる預言皇への忠誠と、まだ見ぬ異教徒達を神の教えに導くことを誓い合った。
そして、後に預言皇の認可を正式に得ると、我を含めたこの七人で〝イェホシアス会〟という新たな修道会を設立した。修道院に籠って祈りの生活を送るためのものではなく、むしろ正反対の外向きに、世界各地へ伝道の宣教師を派遣するための修道会である。
折しも世は大海洋国家時代。航海技術の発達により、それまで陸路でしか交流できなかった東方世界への新たな航路が開拓され、また、エルゴン王国を併合し、〝エルドラニア〟と改称した我が祖国カテドラニアは遥か海の向こうに新たなる大陸〝新天地〟を発見して植民政策を進めている。
これは神のお導き。まさに世界は異教徒を改宗し、この地上に神の王国を建設することを我らに求めているのである!
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