俺はとんでもないものを盗んでしまったかもしれない。
@SBTmoya
第1話 俺はとんでもないものを盗んでしまったのかもしれない。
「夜間作業、即日払い、高収入! 誰でもできる軽作業、まったり系、闇バイトじゃないよ!!」
除夜の鐘が鳴った直後の冬の夜。坂井俊輔(さかい しゅんすけ)は、ネットカフェの薄暗い個室で、その求人情報を前に頭を抱えていた。
「闇バイトだよなあ……流石に闇バイトだよなあこれは……」
所持金は数百円、家賃も滞納中。最後に食った肉は、カップラーメンのあの、肉なのかなんなのかわからない物体。
更なる問題は、電気ガスを止められたことである。新年早々にこれは良くない。
まさに泥水を啜る生活。まともな生活から遠ざかって久しい。そんな中、怪しいバイトの広告が目に飛び込んできた。
「ええい、生活がままならんのだ。今年は年男だろう! やれ! 巳年の俺!」
条件は怪しいほど緩かったが、俊輔は迷わず応募。すぐに電話がかかってきた。
それは機械音声だった。
「サ カ イ さん。今夜、指定の住所に来てください」
その冷静すぎる声に不安を感じつつも、背に腹は代えられない俊輔は指定された場所へ向かった。
場所は都心のビル街にある古びた事務所。中に入ると、黒スーツ姿の男が無表情で立っていた。
いかにもステレオタイプの「スジモン」であるとはわかるが、果たしてどこの「スジのモン」なのかはわからなかった。
彼は机の上に無造作に置かれたファイルを指差し、事務的に言った。
「これを運び出して処分してほしい。それだけだ」
「処分って、どうするんですか?」
「倉庫に置くだけでいい。後は気にするな」
俊輔は首をかしげながらも、言われた通りファイルを持ち上げた。その表紙に赤字で大きく書かれた“極秘”の文字が、彼の好奇心を刺激した。
「こんな書類、本当に捨てるだけでいいのか?」
不安と興味が混じる中、彼はファイルを抱えて事務所を後にした。
途中、どうしても気になった俊輔は近くの公園でファイルを開いてしまう。中には膨大な文書と写真がぎっしり詰まっていた。その内容に、俊輔の目は点になる。
「?? きのこたけのこ派論争?」
さらにページをめくると、総理大臣や閣僚たちの名前が続々と登場。その中には信じられない計画の詳細まで記されていた。
現政権の中枢は、派閥、学閥の垣根を超えて、きのこの山閥が支配しており、たけのこの里閥が淘汰されていたが、
その現実は悪化の一途を辿る日中関係に悪影響をもたらしていた。
現国家主席が『たけのこの里』派の宗教、筍道教の信者であり、
すでに中国、台湾の全ての地域ではきのこの山の販売を禁止され、相場はたけのこの里一色となっていた。
魔の手は在中日本人にも迫っており、筍道教徒は日本人を見つけると、キノコのモニュメントを見せて唾を吐かせた。
それに従わない日本人は『キノシタン』と呼ばれ、竹になりかけている、たけのこの上に縛られるという事件が起きていた。
事態を重くみた保守派は、中国のたけのこの里からの圧力に断固抗議し、
日本の内閣は、
「どっちも美味しく頂こうじゃないか」という鳩派と、
「たけのこの里なんざ日本から追い出せ!」というタカ派と、
「よし! 聖戦だ!」という過激派の三つに分かれていた。
重たい決断が迫られた内閣総理大臣は、米大統領と合衆国陸軍、海軍省から、
「ならば『きのこの山』も『たけのこの里』もどちらも廃止し、アメリカ産の洋菓子、『ブロッコリー・アベニュー』を売りだせ。
さもなくばオスプレイを5000機売りつけるぞ」
という圧力を受け、
来週にでも『ブロッコリー・アベニュー』をWeiziから売り出し、キノコの山、
たけのこの里というお菓子に関しては消費税の他に『論争税』を別途に徴収する。という旨の資料だった。
「これ、本当にヤバいやつだ……」
その瞬間、背後から足音が迫る。振り返ると、黒スーツの男たちが彼をじっと見つめていた。
「おい、貴様! 何をみている!!」
俊輔は慌ててファイルを抱え、走り出した。
「ちょっと待てくれ! 俺はただのバイトなんだ!」
「待て! 貴様、筍道教の信者か!」
「そんな宗教は知らん!!」
追っ手の声が迫る中、俊輔は息を切らしながら逃げ続ける。
「こんなことになるなんて聞いてない! そもそも俺はチョコは嫌いなんだ!!どうすりゃいいんだ!
というか! 俺に! 何をさせたいんだ!!」
こうして、俊輔の波乱万丈な逃走劇が幕を開けたのだった。
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